勇者召喚で司祭枠として召喚されましたが、聖女はいらないと捨てられたので自由気ままに人助けしようと思います。

夢・風魔

1章

第1話:召喚されて捨てられたら、犬に押し倒されました

「お、女……しかも聖女ですって!? 聖女となるのはこのわたくしですわ! 今すぐこの女を捨てて!!」


 す、捨てろってどういうこと!

 人を勝手に召喚・・しておきながら、女だから捨てろって……差別だ!

 しかもあんただって女じゃん!


「申し訳ありません。ほんっとうに申し訳ありません。うちの姫様が我儘で申し訳ありませんです」


 うっ。なんか幸薄そうな男が来た。

 すっごい大きなため息を吐いたりして、なんかこっちまでいたたまれない気分になる。

 

 謁見の間から出た私は、この人に案内されて廊下を歩きだす。


「あの、私いらないなら元の世界に――」

「えぇっと、召喚される寸前の記憶はございますか?」

「召喚される寸前……光がピカァーってしたときのことだよね? んー……」


 学校から帰ってバイトに向かう途中だったかな。

 それで横断歩道を渡っていたんだけど……そうだ、信号無視した高齢ドライバーの車が突っ込んで来たんだ。私の方にではなく、前を歩いていた数人の小学生に向かって。

 咄嗟に走ってその子たちを突き飛ばし、私が車に轢かれた――はず。


「あなた様は善行を行ったことで、命を落とす状況だった……ではありませんか?」

「え……あ、うん。たぶん、そう、かな?」

「勇者召喚魔法で召喚される者には、条件があるのです。ひとつ、死ぬ運命であること。そしてもうひとつが、その死の原因が善行であることです」

「いいことをして、死ぬはずだった人ってこと?」

「その通りです。しかも召喚魔法をこちらが使ったそのタイミングで――という、案外条件が厳しいのですよ」


 じゃあ、私以外に男の人が二人いたけど、あの人たちもいいことをして死ぬ運命だった人なのか。

 

「まぁ元の世界へ送り返す魔法はないのですが、もし送り返せたとしても……」

「も、戻った瞬間に、死ぬ……とか?」

「おそらくそうなるでしょう」

「そっか……」


 帰れない――そう聞いても、特に悲しいとかはないな。

 元々家族はいなかったし、高校二年の私には目先の受験戦争、もしくは就職氷河期が待ち受けている。

 いや、そもそもあの瞬間に戻るんだから、死ぬの確定じゃん。

 死ぬために日本へ帰る?


 のーさんきゅう!!


「戻れば死ぬだけなら、ここで第二の人生を送ればいい。むしろ助かってラッキーなぐらいじゃん」

「前向きに受け取っていただけて何よりです。それにあなた様には、この世界で生きていくには十分な力もございますし」

「えぇっと……聖女?」

「あー……すみません。うちの姫さんは思い込みが激しい方でして。あなた様は司祭です。職業鑑定の宝玉が緑に光ったでしょう? 緑は聖職者の証なのです」


 召喚されたとき、真っ先に水晶玉みたいなのに触れさせられたっけ。

 確かに緑に光ってた。

 男の人二人は、赤と青。


「ちなみに赤と青の光は?」

「赤は戦士で、青は勇者です」

「おぉ、勇者いるんだ! これで邪神も倒せますね!」

「まぁちょっと戦力不足なので、もう一度召喚魔法を行う必要がありそうですが」


 勇者戦士、それから私が司祭だったから……あ、魔法使いが足りないのか。


「頑張ってください!」

「ありがとうございます」

「ところで、なんで私は捨てられるんでしょうか?」

「えぇっと……」


 わりと親切なこの人は、苦笑いを浮かべて頬を掻きだした。


「ひ、姫様はその……勇者を題材にした物語が大好きな乙女でして」

「ほぉ」

「憧れていらっしゃったのです……」

「何に?」

「じ、自身が聖女となって、勇者とのラブロマンスを――いえ、勇者一行とのラブロマンスを」


 …………マジか。逆ハーに憧れてたんか。

 だったら乙女ゲーとか好きなんだろうな。こっちの世界にゲームがあればだけど。

 私は逆に、乙女ゲー嫌いなんだよねぇ。

 どんな美形でも、ヒロインを無条件でかわいいかわいいするだけのキャラとか蹴り飛ばしたくなる。


「ですが姫様も、それはもう血の滲むような努力をなさったのです。必死に神聖魔法を学び、習得し、そして高司祭に匹敵する実力を身に着けたのですから!」

「ロマンスのために……」

「あ、はい。動機は凄く不純ですが、実力はございます」


 ま、まぁそれなら私はいなくても、全然大丈夫だね。


 城を出て城門まで到着すると、幸薄そうなこのお兄さんに鞄を手渡された。


「これをお持ちください。この鞄はマジックアイテムでして――」

「もしかして、見た目よりいろいろ入るとか?」

「おや、ご存じなのですか?」

「そ、そんな気がしただけです。はは」


 異世界ファンタジーもののド定番アイテムだよね。

 リュックにもショルダーバッグにもなるんだ。へぇ。


「開けてみてください」

「うん。あれ、何も入ってない」


 鞄の中はすっからかん。


「……まぁ、マジックアイテムですから。それとこちらは、迷惑料としてお受け取りください」


 そう言って巾着袋をくれた。

 ずっしりと重い、音からしてもお金だって分かる。


「いろいろありがとうございます」

「い、いえっ。こちらこそ、無理やり召喚したのに、追い出す形になってしまって申し訳ございません」

「やぁ、いいですよ。召喚して貰ったおかげで、こうして生きてるんだし」


 そう。死ぬ運命だったところを生かして貰ったんだし、しかも捨てられたことでこの世界を自由に満喫できる。

 せっかく異世界に来たんだから、楽しまなくっちゃね。






 おぉ、さすが王都。活気があるねぇ。

 城門から真っすぐ伸びた大通りにはたくさんの店が立ち並び、行きかう人もめちゃくちゃ多い。

 大きめの脇道には露店が並んでて、香ばしいニオイが漂って来た。


 そういえば召喚されたのが夕方で……あ、お腹空いて来た。

 お金貰ってるし、何か食べよう。

 

 肉と野菜を挟んだホットドッグみたいなものを露店で買って、どこか落ち着いて食べれそうな場所を探す。

 

「鞄の中に手を突っ込んだら、ゲームのインベントリみたいなのが目の前に浮かぶのか。ふむ」


 お店の人の反応からして、あのインベントリは他人からは見えてなさそうだね。

 鞄の中に入っていたのは、お金の入った巾着と鉄か何かで作られたカードみたいなもの。


「カードは後で確認しとこっと。えぇっと、どっか座るところないかなぁ」


 人の往来が激しい所だと座れそうなところないよね。

 いくつか角を曲がって静かな所を探して、ふと足を止めた。


「ヤバ。これ裏路地とかじゃ……戻ろうっ」


 さっきまでの通りとガラっと雰囲気が変わった。

 大通りや露店のあった通りとは違って、この辺りの建物はあちこちヒビ割れ、汚れている。

 映画で見るスラム街さながらの雰囲気だ。

 絶対ヤバい。

 

 うっかり日本と同じ感覚で歩いてちゃダメだね。

 早くさっきの通りに……と……


「はぅわあぁぁぁっ。方向音痴なの忘れてたあぁぁぁ」


 どっちから来たっけ?

 えっと……。

 よし! 道はどこかに繋がっている!

 いつかは出られるはずだ!


「あっち行こう」


 少し不安に感じながら、とりあえず鞄の紐をぎゅっと握って歩き出す。

 あっちかな? こっちかな?

 建物と建物の間の細い路地を進み、角を曲がると――


『グル、グルルォァ』

「はひ?」


 路地を塞ぐようにして、黒い犬が蹲っていた。

 は、あはははは。

 ねぇ、この世界の犬って、熊みたいに大きいの? 大きいよね?

 

『ガ、グルルァ』

「ひえぇ!? ごめんっ、犬派じゃなくって猫派な――」


 後ずさってその場から逃げようとしたら、黒い犬が飛び掛かて来た。

 犬の前脚が私の口を塞ぐ。

 お、大きい肉球ぶにぶに。


 って私、異世界に来て犬に押し倒されてる!?




***************************

久々すぎる新作です。

女主人公ものですが、冒険ファンタジー寄りでちょっと恋愛要素を

含む・・・感じで書いていければなぁと。

応援、よろしくお願いいたします。

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