異世界を救って鑑定スキルを持ち帰った俺、この世の真実を知って阿鼻叫喚

たかさば

 

「いらっしゃいませー、おはようございます!店内でお召し上がりですか?」


「はい、ええと…エッグマッチマフィンセット、ハッシュポテトで、ドリンクはホットコーヒーを」



 日曜の朝一番、優雅に朝食を頂こうとハンバーガー屋にやってきた、俺。

 オープン直後ということもあり、腹の減るにおいがほのかに漂う店内には…まだ、客の姿はない。



「ご注文を繰り返します、エッグマッチマフィンセット、ハッシュポテト、ホットコーヒー、以上ですね、お会計は・・・」



 にっこり笑顔で接客をする店員。

 …やっぱりこっち・・・の女子ってのは、平凡で穏やかでかわいい……。ついつい、じっくりと…見つめてしまうな。



「お作り致しますので、こちらの番号札をお持ちになってお席でお待ちください!」



 おおぶりなプラスチックの番号札を渡された俺は、ニコッと笑みを返しつつ…目に、力を込める……。



[橋本エナ/レベル3]

 19歳 一般人 陀画野大学文学部学生

 状態:普通 (やや寝不足)

 スキル:スマイル&気持ちのいい挨拶/焦がし調味料の祝福

 ※異世界を救った勇者



 おっと・・・まさかの、勇者!

 ちょっとテンションあがるな、今日はいい日になるに違いない…。


 俺は、ウキウキしながら、二階の席へと向かった。






 少々混み始めたハンバーガーチェーン店の二階、窓際の席。


 のんびり飯を食っている俺は…令和の日本に戻ってきたばかりの、異世界転移者だったりする。


 ラノベによくある転移ボーナスでチート能力ゲット、俺TUEEEEEからのド定番展開…231年に及ぶ異世界生活に別れを告げ、のんきで平凡な争いのない、魔法もチートもファンタジーも魔物もどこにも存在しない世界に戻ってきたのは、三日前のことだ。


 全魔力と経験値、腐った人間の魂なんかを総動員し、全部を対価にして魔法という概念のない場所に舞い戻ったのには、深い訳わけがある。


 ありがちな「勇者よよくぞ参られた」から始まって、無事悪の元凶たる魔王を次元の狭間に追い込んで封印し…さんざん英雄だともてはやされたまでは良かったのだが、担ぎ上げられていろいろと責任を押し付けられるようになってだな。そのうち悪政を働く愚か者と称されるようになり…いちいちザコどもが歯向かってくるのが実にめんどくさくなったため、潔く日本に戻ることを決めたのだ。



 俺は、チート無双の記憶ごと全部手放して、のんびりとこの日本で暮らしていくつもりだった。すべての俺TUEEEEE要素を放り出して膨大な力が無くなれば、一般人に紛れて凡庸に暮らせる、まだ25だし人生なんざいくらでもやり直せる…ってね。


 ところがどっこい、そうは問屋が卸さなかった。世界を救った英雄としての功績が大きすぎたのかなんなのか、異世界の能力が残ってしまい…、ごく平凡な暮らしがしにくくなってしまったのだ。能力は使わなければいいとは思うのだが、ついつい…好奇心が顔を出し、結果としてごく普通の暮らしが遠のいてしまったというか。平凡な日常を、満喫しているような、いないような……。



 俺が使えるのは、いわゆる、鑑定スキルだ。


 はじめのうちは、スーパーの弁当を鑑定して意外にも保存料は入ってないんだなとか、自分のスマホを鑑定してこんなモノで作られているのかとかこういう仕組みで情報が漏洩してるんだなとか、ちょっとしたお得情報を楽しむような感覚で楽しむことができていた。


 ところが…ふと立ち寄ったコンビニの兄ちゃんを鑑定したら、とんでもないことが判明した。なんと、俺の鑑定スキルは…魂そのものを鑑定することができたのである。人間を鑑定すると、住所氏名なんかはもちろん性格や肉体のルーツといったその肉体の情報のみならず、魂に刻み込まれている記録まで読み取ることができてしまうのだ。



 さらに、だ。面白半分でそこらへんのやつらを鑑定しまくっていたら…さらに、まさかの事実が判明した。


 ‥‥異世界に行っている人が、わりと珍しくない。



 こちらに戻ってきた時点で全てを忘れてしまう仕組みになっているようだが、 魂に自分のしたことを全て刻み込むシステムがあるらしく…、俺の鑑定である程度偉業のようなものが確認することができてしまうのだ。



 世界を渡った人というのは、どうも向こうの世界で死んだらこちらに戻ってくるというか、戻される?というルールがあるらしい。 一度チャレンジしたけれども失敗した、異世界で恥ずかしいハーレムを作って自滅した、うっかり欲が出て寝首をかかれた、そういう 輝かしくない記録が魂に刻み込まれている人を何人も見た。


 割といろんな人が気軽に世界を渡っては失敗したりやらかしたり成功したり…ラノベもびっくりの現実があったんだなということを初めて知った。 まさか隣のおばさんが ドラゴンの花嫁だったとか、よぼよぼしたじいさんが星を三つも潰した極悪人だなんて思わないわけで…はっきり言ってこっちに戻って来てわずか三日、この間にどれほど驚き、心の中で叫んだことか。



 今だって…2階の座席から幹線道路沿いの人通りの多い歩道を覗くと……。



[村田たま子/レベル2]

 48歳 主婦 スーパー大福レジバイト

 状態:増量中(空腹)

 スキル:料理/裁縫/ウォーキング

 ※異世界に渡って25分で食われた

 ※ブレサリアン体質(無自覚)



[小暮健太/レベル4]

 29歳 会社員 ○○デザイン勤務

 状態:普通(やや寝不足)

 スキル:多重人格/ショートスリーパー

 ※嫉妬深いエルフに毒殺された



[時任かえで/レベル3]

 28歳 家事手伝い エロ小説家見習い

 状態:憔悴

 スキル:速筆/妄想

 ※異世界未経験者

 ※引き寄せ能力あり



[小松タケト/レベル2]

 10歳 小学生 サッカー/SDGsクラブ兼部

 状態:トレーニング中

 スキル:足技/小ざかしい知恵

 ※テイムしたスライムのよだれで溶けた

 ※異星人の調査機が二台埋没




 …今日もいろいろ、いるなあ。 鑑定する奴する奴きっちり驚きのエピソードを持っていて、毎回毎回しっかり驚いてしまうという……。


 たまに勇者を見つけたりするとなんとなくビビって崇めてしまうのは…俺が小心者だからなんだろう。 これでも一応魔王を倒した英雄なんだけど、性格というのはなかなか変わらないものだな。



 フルパワーでチート無双していた異世界暮らし時代ではなく、中途半端に能力のかすが残った状態の俺ですらこんなにはっきりと鑑定できてしまう状況…もしかしたらほかにも魔力感知のできる人間がいそうなもんだけど、どうなんだろう? わざわざ【異世界未経験者】と表示されるのも実に怪しい。いつかこの世のすべてを知るような人物に出会えるかもしれないな、でも知らなくてもいいか、面倒なことはもうごめんだし……、そんなことを思いながらぼんやりとコーヒーをすする。


 さて…今日は、何をしようか。

 そろそろこの世界の真実暴きも飽きてきた。先を見据えて、今後の平凡な暮らしの基礎を作らねばなるまい。


 俺は異世界転移前、五年勤めた会社を…つまらない理由でやめている。だから今現在、無職で…時間はたっぷり、あるのだ。


 馬鹿にされるのが、出世できないのが許せず、辞表を叩きつけて…あの時はそれが最善だと思っていたが、異世界で長く生きてみると…若さゆえの暴走だったのだと気が付いた。人としての在り方を学んだ今、俺は二度と…無謀な、身勝手で大人気ない生き方はしないと決めている。今後は落ち着いて、穏やかで平和的な、人に優しい…自分も人に優しくされるような生活を送りたい。俺はもう、有り余る力で悪い奴らを潰して賞賛を得るような…誰かの恨みを買うような生き方はしたくないのだ。



 鑑定スキルは……、今後の暮らしに有効活用できるはずだ。


 嘘をついてるやつは全て分かるし、好意を持ってるやつも全員わかる、ある程度考え方や能力を把握する事が可能だろう。……急ぐことはない。とりあえず失業保険がなくなるまで…ゆっくりと就職先を探そうってね。


 昨日、ハローワークに行っていろいろと話を聞いて、分厚い資料をたんまりもらってきたんだ。散らかった部屋の中で広げるとすぐにゴミに紛れること間違いなしなので、モーニングでもしながらチェックをしようと思ってさ。



 持ち込んだ封筒の中身を四人がけテーブルの上にひろげ…一つずつ、確認を……。そうだな、職業訓練を受けてみるのもいいかもしれない。まずは手に職をつけて、それから幸せに生きる道筋を……。




「あの、ちょっと…いいですか?」




 提出用書類に記入中の俺に声をかけてきたのは……穏やかそうな、スーツの高齢男性。


 ……なんだ?いきなり。普通こういうところで声なんかかけてくるか……?


 怪しいな。俺は、にこりともせず…おっさんに目を向け、力を込める……。



[山田太郎/レベル4]

 53歳 会社経営 ☆☆産業

 状態:普通(メタボリック症候群)

 スキル:先見の目/大きな器/大人のマナー

 ※異世界未経験者



 めんどくさい奴ではなさそうだ。




「すみません、店内が混んでいて…そちら、座らせて頂いても宜しいですか」




 いつの間にか店内は客でいっぱいになっていたらしい。空いている席が…ないな。


 しまった、今日は月曜だから空いているだろうと思ったが…よく考えたら春休み期間だ。ファミリーや学生がいるのも無理はない。キリのいいところまで書き上げてさっさと出るかな。




「あ、どうぞ」


「ありがとう、ございます・・・」




 おっさんは丁寧に頭を下げ、テーブルのはす向かいの位置に着席し・・・・・・。






 ・・・・・・ふっ






 突然、視界が暗転した。




 店内のざわめきもいいにおいも心地のいい温度もテーブルの上の書類も冷めたコーヒーもゴミしか乗っていないトレイも消え、消えて?!




「いやあ…探しましたよ、救国の大賢者、マサハルさん…?」




 さっきの、おっさんの、声?!


 慌てて視線を向けると……!!!




[山 田太郎  レベル  4


 53  歳 会社経  営 ☆ ☆産   業

 状  態:  普 通(メタボ

 スキ ル  :先見  の目/大き

 ※異世 界  未   経    者




 す、ステータスが!!!


 は、はがれていく……?!




 そして!!


 現れた…ステータスは!!!





[ーーーレベルー]


 ーーー歳 ーーー

 状態:怒り心頭

 スキル:偽装/世界を渡る力/次元操作/魔力探知/魔法……

 ※封印された事がある

 ※魔王経験者

 ※……






 しまった・・・!!


 もしや、全部を対価にしたから?!


 封印が解けた?!




 というかこんな田舎町までわざわざ?!終わった話だろ、今更なんなの?!普通追いかけて来るか?!魔王のくせに小さすぎない?!そんな馬鹿な話が?!ちょっと待て、俺は、俺は今、なんの力も持たない、ただの一般人であって!!しかもなんでこんなめんどくさい感じで……






「勝手に滅ぼして、勝手に見捨てて……のうのうと生きていけると、思うなよ…?」






 戦うすべを、抵抗する力を、状況を判断する冷静を…何ひとつ持たない俺は。






 このあと、どんな肩書きが己の魂に刻まれるのかなと。






 ぼんやり、




 思 い 




 な




     が




  ら






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異世界を救って鑑定スキルを持ち帰った俺、この世の真実を知って阿鼻叫喚 たかさば @TAKASABA

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