勇者と魔王、恋に堕ちる
ナギさん
第1話 魔王、僕と一緒に逃げないか?
「はあ、はあ、はあ・・・・・・僕の勝ちだ」
少年は少女を押し倒し、その首元に短刀を向ける。
「・・・・・・私の負けです。早く殺しなさい」
少年は勇者と呼ばれる存在であり、少女は魔王と呼ばれる存在であった。
そう、今は最後の戦場、最後の戦いだ。この短刀をの首に突き刺せば、勇者の勝利という形でこの戦いは今幕を閉じる。
しかし、このような最後を少年は望むことはなかった。
「僕は、キミを殺したいと思わない」
「何故ですか! 私はあなた達人々の敵! 邪魔な存在なのですよ!?」
そう、少女は言う。魔王は人間の敵であると、数百年間ずっと言われてきたことである。
「何故殺さないんですか! そうしたほうが都合がいいのはあなた達ではないのですか!?」
「・・・・・・確かに人間たちにとっては都合がいい。でも、君たちはどうなる? 生き残った君たちは絶望の未来を歩むことにだってなるかもしれない。それに、僕は色々な魔族たちを見てきた。そして君たちのことを誤解していると分かった」
少年はこう思っていた。
『魔族は本当に悪なのだろうか』
『魔族は僕たちに危害を加える気は無いのではないのだろうか』
そして・・・・・・。
『魔族は心優しい者たちなのではないのだろうか』
と・・・・・・。
「いろんな魔族を見てきたからこそ分かったんだ。魔族たちは、悪ではないと」
「・・・・・・」
「君たちの戦いは必ず防衛戦だ。君たちから戦いを仕掛けてきたことは一度もなかった。戦いを、戦争を仕掛けていたのは僕ら人間たちの方だ」
そう、分かってしまったのだ。魔族たちは悪ではないと。そして、本当の悪は人間達の方ではないのか・・・・・・と。
「だから、一緒に逃げないか?」
「・・・・・・私達魔族のことを殺してきたあなたに誰がついていきたいと思うでしょうか。死んでいった仲間たちを置いて生き続けるなんて、ましてや勇者の慈悲にすがるなんてことはできませんっ!」
少女は叫ぶ。
自分の同胞たちを殺してきたであろう少年と一緒に居たいなどと、そのようなことを考える者はいるはずがない。
その少女に少年は言葉を紡ぐ。
「勘違いしているようだから言うよ。僕は、誰一人として殺していない」
「なにを、馬鹿なことを・・・・・・そう言えば私がはいわかりましたと言ってついていくとでも思っているのですか!?」
少女の言うことは正しい。
一人も殺さずにこのような場所に来れるわけがないと、誰もがそう思うだろう。
しかし、少年はそのことを否定する。
「僕は、誰一人として殺していない。死んでほしくない。そう思っている」
「そんな・・・・・・綺麗事が通じる世界だと思っているのですか!?」
「そんな綺麗事を通してきたのが、この僕だよ」
「そんな・・・・・・ことって・・・・・・」
「ただ、僕は誰かが血を流すのは嫌なんだ。無血開城を目指していたんだけど・・・・・・それは出来なかった。そのことを深く謝罪する」
血を一切流さないなど、到底不可能な話である。話し合いの通じない相手は力でねじ伏せるしか無い。だからこそ、力押しになってしまったことを、少年はその場から立ち上がり、深く詫びる。
「僕の力不足のせいで君たちに大きな傷を負わせてしまった。本当に申し訳なかった」
「・・・・・・」
「・・・・・・直に帝国軍がこの城に押し寄せてくる。君たちを皆殺しにするためにね」
「まさか民たちもですか!?」
「彼らならそうするだろうね。僕とともに完全に屠るつもりだろう」
「な、何故あなたまで・・・・・・?」
少女は少年に問いかける。何故あなたまで帝国は殺すつもりなのかと。
「不安要素をすべて消そうとするのが彼らだからだよ。僕は彼らにとっての不安要素であり、恐れるべき対象になる」
「な、なぜ」
「魔王を倒せるほどの人間、そいつが敵になったら帝国は手を焼く。僕一人に対してね。だから魔王と戦い、疲弊している今、君たちとともに僕を叩くつもりなんだろうよ。酷い話だよね」
「そんな魂胆が・・・・・・」
「だからこそもう一回言うよ」
『魔王、俺と一緒に逃げないか?』
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勇者と魔王、恋に堕ちる ナギさん @nagisansa
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