Nichtsein
私は今、アリゲーターガーである。
いつからか、輪廻が早くなっていた。どんどんと生まれ変わる。私が変なのか、世界が変なのかもわからない。ただ、あっという間に一生が終わり、別のものに生まれ変わる。動物、植物、ウイルス。全ての記憶が蓄積していく。飲み込まれる。噛み砕かれる。寄生する。分裂する。
たまたま私は今、アリゲーターガーである。長い体と、鋭い歯。川の中を泳いでいる。この一生もあっという間に過ぎていくだろう。空腹で死ぬか。襲われて死ぬか。寿命で死ぬか。はっきりしていることは、必ず死が訪れるということである。そして死は、生をもたらす。理屈はわからぬが、必ず生まれ変わる。
死体があった。人間の死体だ。
溺れて死んだのだろうか。近づいてみる。男だった。かつて私も人間の男であった、と覚えている。息をしていない。けれども変だった。気配があった。そこには、存在が感じられた。死んでいるのに。そういえば何度も死んだが、死んだ後の体のことは知らない。
アリゲーターガーなので、深くは考えられない。死体をつついてみた。反応はない。けれども、私の方に、異変があった。痙攣するような何か。奥底から突き上げるような何か。手も足もない、そのことがもどかしかった。死体を引き上げて、じっくりと調べたかった。魚眼で確認できることだけでは、足りない。
私の前に、一匹のアリゲーターガーがいる。
初めて見たはずの魚。息苦しさがないのは、どうしてだろう。手を伸ばそうとする。何も起こらない。体が動かない。何も動かない。呼吸も鼓動もない。魚眼がずっと私を見ている。どうやら私は牢獄にいる。私は私から抜け出せずにいる。しかしおかしい、私は何度も何度も生まれ変わっていた気がするのに。
私の前に死体がある/私の前に魚がいる/死体がある/魚がある/人間だ/生きている/私だ/私だ/いつ溺れたのだろう/いつから泳げるのだろう/泳げた記憶/溺れた記憶/時間が過ぎて/時間を越えて
私は今、[アリゲーターガー/死体]
私は今、[生/人間の男]
私は今、[未来へ/過去の]
私は今、[――/ ]
私 、 /
私?
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