花パロール

茄子の花が咲いた

今年こそ実がなるように願う

学び舎から哲学が消えて十年

この世から学び舎が消えて二年

私が語り掛けるのは

花ばかりになった


叡智は渋滞している

受け取ったものと見つけたものが

行き場をなくして淀んでいる

花弁はしばしば耳に見えた

他愛ないことと切実なことが

私に言葉を紡がせた

おとなしい学生だ

眠ってはいないと思う


茄子の花が揺れた

私は言葉を止めて眺めた

揺れる 止まる 揺れる

縦に横に 斜めに


これは言葉だ


私が語り掛ける間

茄子の花は動かなかった

風のない午後だった

存在を 時間を 道徳を 意味を

言葉にして目を傾けると

花はしばらく揺れていた

花が語り掛けていた


君を理解したい

必至になってその言葉を覚えようとした

君が私の言葉がわかるのだから

可能なはずだと信じて

信じていけると信じて

私は叡智の一部に蓋をしていた


花は散るのだ

君は散るのだ

その時が来て

哲学など忘れてしまった


数日後

見事な茄子の実があった

この思いは語れない

叡智は沈黙を指示した 

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