第57話 遊撃班での出会い
遊撃班は俺、レイア、アンジュの三人と二人組の冒険者の合計五人だった。予備班と合同とは言うものの、遊撃班は基本的にはこの五人で動くようだ。
数が少ないと思ったが、そもそも大半は武力制圧の為の戦闘班に回される。少なくとも相手の数二十を上回らなければならないからだ。
遊撃として動く時にも、多すぎる人数はかえって連携の邪魔にもなりかねない。五人というのは丁度いいくらいなのだろう。
遊撃班の係であるギルド職員はミィナと名乗った。ミィナさんが俺達にも自己紹介を促す。こういう時譲り合いになるとレイアがどんどん喋らなくなってしまうので俺が真っ先に手を上げた。
「アーデン・シルバーです。等級は3級、仲間のレイアも同じく3級です」
ほらと視線でレイアに発言を求めた。俺のそんな視線に待ってましたと言わんばかりにレイアは口を開いた。
「レイア・ハートです。アーデンの紹介の通りです」
大したことも言っていないのにレイアは自慢げだ。まあいいかと切り替える。
「こちらはアンジュ・シーカー。サンデレ魔法大学校の学徒で、訳あって現在協力関係を築いています。今回の作戦にも力を貸してもらいます」
「ああやっぱりあなたアンジュなのね!」
アンジュが口を開きかけた時に、二人組の内一人が声を上げた。背の高い女性で、黄金色のショートヘアから尖った耳が覗いている。恐らくエルフだろう。
「あ、ごめんね話を遮っちゃって。私の悪い癖なの、気持ちが先走っちゃうっていうか、前のめりになっちゃうのよ」
「い、いえ大丈夫です。それよりごめんなさい、私の方はその…」
「ああ、いいのいいの。私が勝手にあなたのこと知ってるだけだから。私、元サンデレ魔法大学校の学徒だったの、すっぱりと辞めて今は冒険者だけどね」
どうやらアンジュの方はこっちの女性を知らないようだった。大学に所属していたという経歴からアンジュのことを知っていたのだろうか。
「おいカナ、お前は自分勝手に喋り過ぎる。今は互いを知る場だぞ」
「はーい、ったくジョアンはお硬いのよね。じゃあ改めまして、私はカナ。さっきも言ったけど元々は大学にいたの、だから魔法の知識はそこそこあるわ」
「俺の名はドワーフのジョアン、カナと一緒に冒険者をやっている。今回はよろしく頼む」
男の方はジョアン、女の方はカナと名乗った。ジョアンさんはカナさんよりも背が低く、屈強で逞しい体をしている。整えられたワイルドな顎髭や、喋り方や佇まいから武人というイメージを受ける。
「いやーまさかこんな所で大学の有名人に会えるとは思わなかったわ。あの薬学の教授ってまだいるの?あいつ本当に性格悪くてさ、何度も…」
カナさんがまた話だしそうになったのをミィナさんが咳払いをして止めた。あちゃあという顔をして頭を掻きながらカナさんは喋るのをやめた。それを見てジョアンさんはやれやれと首を振っていた。
二人組の冒険者というのもあって、なんだかジョアンさんとカナさんには親近感を覚えた。もう少し話してみたい所だが、後にしよう。
「皆さんへの指示は、それぞれの班長をしているギルド職員からの要望を私が聞き、その場で伝達し共有します。本隊といえる攻撃班の突入後は、合流するか掃討に回るか指示を待つことになります」
「じゃあ作戦中は基本的には待機ですか?」
俺の質問にはいと頷いて答えた。そしてもう一つ付け足す。
「ただしアンジュさんとカナさんには、禁忌魔法が使用されたのかどうかの判断をしていただく為に行動していただきたいと思っています。待機とは名ばかりで、別方向から実働してもらうと思ってください」
ミィナさんのその話を聞いてジョアンさんが口を開いた。
「成る程。我々はただ黙って待っているのではなく、別目的で動きながら他の班の補助に回るのだな」
「指示が来る可能性を考えると固まって行動する方がいいですよね」
「そうだな。ええと…」
「アーデンって呼び捨てでいいですよ。こっちもそうしていいですか?」
「ああ構わんとも。よろしくなアーデン」
俺とジョアンさんがそんな会話を交わしている後ろで、レイアがこっそりとアンジュに近づいて言った。
「あいつ本当に腹が据わってるわよね、もう仲良くなってるじゃん」
「アーデンさんが社交的なのは確かですけど、レイアさんはもう少し積極的になった方がいいと思います。無理はしないほうがいいですけどね」
「…言うようになったわねアンジュ。ぐうの音も出ないわ…」
ミィナとアーデン、そしてジョアンが段取りを話し合う。レイアはそんなアーデンの背に隠れ、度々頷いて話し合いに参加しているような雰囲気を作っていた。
アンジュは少し離れた所からそんな様子を伺い、レイアを温かい目で見守っていた。そんなアンジュの隣にカナが近づいてきた。
「やあっ、さっきは一方的に喋っちゃってごめんね」
気さくに話しかけてくるカナにアンジュは言った。
「いえ気にしないでください。それより私の方こそごめんなさい」
「何々どうしたの?」
「私の方はカナさんのことを知らなかったから…」
「なあんだそんなことかあ!気にしない気にしない!言った通り私が勝手にアンジュのこと知ってただけ」
カナにそう言われてアンジュは困ったように聞き返した。
「あの、私ってそんな大学で目立ってましたか?なるべく目立たないように一人でいたつもりなんですけど」
そんなアンジュの言葉を聞いてカナはキョトンとした後、ぷっと吹き出して笑い声を上げた。オロオロするアンジュにカナは言った。
「いやーごめんごめん。馬鹿にして笑った訳じゃないのよ、許してね」
「はあ」
「そっかそっか。あなたと私達との間にはすっごく深い溝があったのね。他人に対して文字通り眼中になかった訳だ」
アンジュは失礼にあたるかと思ってその言葉を否定しようと思った。しかし事実だから否定のしようがなかった。口ごもるアンジュにカナは微笑みかけた。
「いいのよ、アンジュはそれで。あなた最年少で入学してまたたく間にトップの成績に上り詰めたでしょ?気付かなかったと思うけどあなた相当妬まれてたわよ」
「いえその空気は分かっていましたが、無視してました。相手にするだけ無駄だったので」
「あっはっはっ!本当にそうね!いやーこんなに面白い子だと思わなかったな。大学にいた頃に話しかけておけばよかった」
カナはそう言って笑ったが、アンジュは少し表情を暗くして言った。
「…気持ちはありがたいのですが、恐らく以前の私であったらカナさんに話しかけられても反応しなかったと思います。自分がどんな行動を取ったかまでは分かりませんが、恐らくこうして話し合うことはなかったでしょう」
「そうね。私も同じこと思った。あなた大学にいる時の顔と、彼らと一緒にいる時の顔が全然違うもの。最初は本当にあなただって分からなかったわ」
「大学にいる時の顔ですか…?」
アンジュは小首を傾げた。大学内での自分の表情など見たことがないから想像がつかなかった。
「うーん、なんて言えばいいかな。アンジュはね、もっと暗くてつまらなそうな顔してたよ、誰よりも優秀なのに誰よりも大学に居場所がないって感じだった。上手く言えないんだけど、寂しそうに見えたかな」
「寂しそう…ですか…」
「あっごめん、気に障ったかな?」
「いいえ、寧ろちょっとスッキリしました。私、アーデンさん達と一緒に冒険に出て一緒に暮らすようになって、面白い顔をするようになったって言われたんです。その理由がやっと分かった気がします」
大学に入る前の自分が起こした事故、知らずに自分と周りに高い壁を作っていたことをアンジュは自覚した。そして自分で勝手に一人になった癖に、勝手に寂しがっていたのだと気がついた。
「あの、聞いてもいいですか?」
「なあに?」
「カナさんはどうして大学を辞めて冒険者の道に行ったんですか?」
そうアンジュから問いかけられたカナは、少し考えた後うんと頷いてから言った。
「大学で魔法を学ぶことも好きだったけど、広い世界に出て色んな場所に行って、色んな人と話して、色んな体験をする方がもっと楽しかったの。それに不思議だけど、大学にいた時より魔法が上達したわ。知識や材料も何もかも足りないってのにね」
「ふふっ」
「あれ?私何か面白いこと言ったかな?結構真面目に答えたつもりだったんだけど」
「ああ、いえ、こ、これは違うんです!その…、いい答えだなって思ったんです。私も、アーデンさん達との冒険で沢山のことを学びましたから」
「…やっぱりあなた今の方がいい顔してるわ」
アンジュとカナは目を合わせると微笑みを交わした。アンジュは大学を離れて冒険者となったカナの話を聞いて、胸の奥にあった蟠りがとけたのを感じた。
「カナさん、友達になってください。そして、カ・シチ遺跡の作戦一緒に頑張りましょう」
「勿論!嬉しいな友達になりましょ!」
二人は握手をして互いの友情を確かめた。これから臨むカ・シチ遺跡で何が待っているのか、そんな不安も友達と一緒なら乗り越えていけるとアンジュは思った。
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