第48話 積み重ねてきた結果

 みな気を緩ませていたせいか、苦し紛れの攻撃に反応できなかった。

 ただ一人を除いては。

 俺の視界に黒髪の長い髪が目に入った。

 誰なのかは考えなくても分かる。

 俺は叫んだ。


「陽菜乃!」


 その手は届かない。

 陽菜乃が首を刎ねられた記憶が鮮明に蘇る。


「陽菜乃ぉおおお!」


 また、届かないのか?

 また、守れないのか?

 陽菜乃の身体が貫かれようとした刹那、パキィン、と左薬指の指輪が割れて無数の槍が破壊された。


「あ」


 安堵するも、一撃目の槍の後ろに

 奇跡は起こらない。


「──っ!?」


 パキィイイイン。

 それはただ積み重ねてきた結果だった。


(障壁音?)


 ガラスが砕けた音と共に──漆黒の槍は

 地面に突き刺さった漆黒の槍は炭化して消え、俺と陽菜乃の足元に見覚えのあるシトリンの指輪が転がるのが見えた。


(あれは──俺がずっと前に贈った指輪)

「煌月先輩っ!」

「陽菜乃っ……!」


 抱きつく陽菜乃の温もりを実感して、心から安堵した。

 過去のトラウマを無意識に経過して、陽菜乃に防御系のアクセサリーを贈っていたことが功を奏したのだ。

 今度は彼女を守り切ることができたという事実が、過去の自分すら救った気がした。



 ***



「おのれ……!」


 漆黒花の女王は地上に戻ろうと手を伸ばす。しかし奈落に引っ張る力が強くて浮上することは叶わなかった。


「どうして……戻れないの!?」

「答えは簡単。私が貴女たちの干渉を拒んだから」


 それは真っ白な竜だった。声を聞いた女王は眼前の相手が何者か理解する。

 この世界そのもの──理だと。


「どうしてですか、妾はあなた様の望みを叶えるために──」

「私は異世界人の温かさが好き。彼彼女たちの生き方、考え方が好きなの。私は……決して絶望と憎悪と惨劇を望んでいたわけじゃない」

「そんなわけ──」

「この生ぬるい世界を気にいっているの。貴方たちは過干渉過ぎるから、暫くは底で眠っていなさい。私が生ぬるい世界に飽きるまで」


 自分勝手な理由で真っ白な竜は、女王を底へ底へと追いやる。

 代りに小さな魂たちが、連れ添うように昇っていく。


「本当に魔王様は、私を楽しませてくれる」

創造主リーベ♪」


 紺碧竜が真っ白な竜に声をかける。色違いだが瓜二つの竜がじゃれ合う。


ライラ。《魔王の半身》と一緒に過ごすのは楽しい?」

「うん♪ リンゴも美味しいし、あるじも大好き」

「そう。私も早く魔王様にお会いしたいわ」


 地上を愛おしく、そして焦がれるように仰ぎ見た。


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