第13話 元の世界での因縁
夜崎真昼。俺の姉だ。
勇ましさと高潔と正義感溢れた姉は、人生を短距離走だとでも勘違いしているのか、駆け抜けて突っ切って──早くに亡くなった。
俺が高校一年の頃に交通事故にあって意識不明のまま一度も目覚めることなく、その一年後に逝ってしまった。
我が姉ながら馬鹿だ。
誰かを救おうとして、自分が死ぬなんて愚かでしかない。
百歩譲って、自分の大切な人や家族のためだったらわかる。でも姉が救ったのは見知らぬ他人。五歳の小さな女子を庇って、トラックにはねられたのだ。
助かったのは、
その助けた相手と、家族は姉の葬儀に来なかった。腹が立って調べたら《全国無差別行方不明事件》の被害者一覧に名を連ねていたのだ。それも姉が亡くなってすぐに。
仲の良い祖父と孫だった――という。両親が日中は仕事のため祖父が預かっていたとか。
その時は、「姉の死は無意味だったのではないか」とやりきれない思いでいっぱいだった。
***
「貴殿の姉君に、孫を救って貰った者じゃ。そして恩知らずにも、見舞いに行く途中で……此度の一件に巻き込まれた」
(ああ、そうだ。ステータス画面を見た時に見覚えが合ったと思ったら、この男の孫を姉が命がけで救った……)
なんという巡り合わせだろうか。《全国無差別行方不明事件》の被害者の一人であり、姉が命がけで救った少女の祖父だったのだから。外見が全く違うから結びつかなかった……。
「それで俺をよく見ていたのか」
「然り。貴殿は元の世界と殆ど変わらない姿だったのでな。名前も見覚えがあった」
「お前と孫がいなければ姉は死ななかった」と、言葉を吐き捨てようかと思ったが、ぐっと言葉を飲み込み、先ほどの奇行について尋ねることにした。
「それで俺と接点を無理矢理作るため、設定をいじったのか?」
「そうだ。……貴殿がここ二週間ほど訓練所に顔を見せなかったのは、いつも傍にいる娘のためか?」
なぜ俺が質問しているのに、俺が答えることが多いのだろう。ちょっとムッとしつつも隠すことでもないと正直に話すことにした。
「まあ。単に色々調べたいこともあったし、俺が好きでしただけだ」
そう善意とかじゃない。
陽菜乃に対して、下心がないとも言えないのだから。だがこの瀧月朗は顎に手を当てて深々と考えたのち、とんでもないことを言い出した。
「そうか。……では率直に言って、お主たちの『ぱーてぃ』に入れてもらえんか?」
「は?」
それは「仲間に入れて☆」と頼んでいるような台詞だが、眼光は鋭く、凄まじい圧に手に汗が滲んだ。
絶対に「ノー」と言えない、プレッシャーを掛けてくるんだけれど、この爺さん。
「な、……なんでまた俺に声を? アンタ、すでに初クエストとか終わってパーティーメンバーもいるだろう?」
「うむ。しかし所詮は数合わせで組んだだけに過ぎん。……実のところ、お主に惚れていな」
「──ん、え?」
予想の斜め上をいく言葉に俺は固まった。
目当ては俺。いやいや、まだ早い。落ち着け俺。
「そ、それはつまり──」
背筋に冷や汗が流れ落ちる。
まさかそういう特殊な趣向が──。
「ふむ。いい面構えをしている。ワシが一人前の剣士になるように指導してやろう」
「もしかして………俺に剣の才能が?」
「いやそれはない」
「ないのかよ!?」
思わずノリツッコミをしてしまった。
瀧月朗は「カカカッ」と狡猾に笑みを浮かべたが、イケメンなのでただただ格好いいだけだ。中身爺さんなのに狡いな。
「真昼殿の弟君だから──というのもあるが、言葉を交わして貴殿は信用できると思った。今後、同じパーティーを組むのであれば、信頼できるか重要であろう。その点においてワシは見る目はあると思っている」
「それは……どうも?」
とんでもない過大評価な気がするが、断言されてしまったので否定しにくい。それにこんなイケメンに褒められると、何だか照れてしまう。
「……ええっと、瀧月朗さんと呼べば良いのか?」
「ふむ。ワシの苗字は忘れたが、
口調の通り瀧月朗は、元の世界では齢八十を超えているご年配の方だそうだ。確かにステータス画面にも八十七歳とあった。
ちなみにこの瀧月朗、この数日で若い肉体に戻って感覚が鈍くなったとかで、今の今まで体の感覚を研ぎ澄ませる修行をしていたとか。顔だけではなくバックボーンもラノベの主人公を張れるスペックだ。レベルも既に49とか、規格外すぎる。
(元剣豪異世界で飛び級、いわゆる俺tueee系主人公の王道パターン!)
「それで、『ぱーてぃ』の件はどうだ?」
「……俺個人としては仲間が増えるのは嬉しいが、陽菜乃と相談してからの返答でもいいだろうか?」
「ああ、もちろんだとも」
俺と陽菜乃の二人だけだと正直不安だったので、瀧月朗の提案は戦力的に有難い。というか一気に勇者パーティーに
仲間になるかもしれないなら、俺のバグのことは隠しておかないほうが良いだろう。
「あー、それと俺は呪い持ちではないんだが、ステータス画面がバグっているのかレベルが中々上がらないんだ。だから今後もパーティーでやっていく中で、俺だけ差が開くかもしれないがその分は――」
「その『れべる』だが、あの土蚯蚓は少なくともレベル25以上でなければ即死する魔物じゃ。それを相手取って、なおかつ倒してもいる。『れべる』で目に見える数値ではそうかもしれぬが、ワシには貴殿は弱いとは思わんし、強さに見合った鍛え方をしておる」
「そう言ってくれると助かる」
「なに、ワシが認めた男じゃ、心配なんぞしておらん」
元武人に言われると、少しホッとした。俺だけレベルが上がらないことを後になって切り出せば、パーティー自体の存続に問題が出る可能性がある。それならと最初に打ち明けたことが瀧月朗としても好印象だったようだ。
(――にしても、火力特化型かつ即戦力になる瀧月朗が仲間になるかもしれないと思うと、頼もしい)
「ところで煌月殿は、元の世界に帰れると思うか?」
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