第29話 決戦

入手したのはヒイズル国製の最強の魔剣、村正。

 効果は2つのシンプル極まりない効果。

 万物切断、破壊不可。


 たった二つの効果で究極の魔剣と呼ばれたそれはまさしく規格外の剣だった。



 とりあえず侍に持たせ帰り道で試し切りを刺せてみたが恐ろしい性能だ。


 装備した君主の鎧によりグレーターデーモンすら凌ぐ超耐久力を誇る魔人、レイバーロード。村正はそいつを豆腐の様に切り裂いた、君主の鎧もろとも。


 その後も核撃魔術もろともマイルフィックを切り裂きグレーターデーモンを3体まとめて一刀両断に断ちフラックを領域もろともまとめて切り捨てる。


 この大陸に存在する生物で村正を持った侍に切られて即死しないのはワルドナくらいのものだろう


 帰還後大量の魔力でレベルが大幅に上がる。俺達は平均レベル17までになった。


 司祭も核撃魔術と快癒魔術の両方を習得しやっとこさまともな戦力になった。ここまでマジで長かったぜ。


 黄金の剣の全員が戦力となった。そろそろやろう、ワルドナ討伐を。


 突入直前に侍が拳を差し出してきた。


 頼むよ、僕のヒーロー。


 まあこれで最後だ、乗ってやる。


俺も拳を差し出して合わせる


 頼むぞ俺の英雄。


 あまりにも臭過ぎて全身に蕁麻疹が出たがこのアホは適当に煽てておけば良い働きをするから良しとしよう





 はるか遠くにいるワルドナと目が合う。ワルドナは唱えた。起動せよ《エクスペールギースキー》と。


 地面から大量のバンパイアが召喚される。その中でも明らかに雰囲気が違うバンパイアが一体いる。バンパイアの王、バンパイアロード。ただでさえ厄介なバンパイアのレベルドレイン、麻痺を強化し黒魔術まで使えるようになった化け物。

 ワルドナだけでなくこいつも相手にするのか。


 ワルドナは戦闘が始まった途端詠唱。それに加え4。核撃魔術を。


 五重詠唱クインティプルキャスト、核撃魔術。


 はるか昔に存在した第9位階魔術、【太陽現出】。

 太陽が出現したのかと思えるほどの熱を発する、核撃魔術すら凌ぐ破壊魔法。


 失われたこの魔術をワルドナは核撃魔術を並行して五つ発動させる事で再現した。迷宮に太陽が出現したかの様な光によって俺達は灰すら残さず消え去った。


 何度戦っても奴は真っ先にこれを叩き込んでくる。


 何度も炎に焼かれるのは二層で体感した。

 懐かしいな。あの地獄で俺は強くなることができた。もう一度味わいたいかといえば全くそんな事は無いのだが。 

 これは一瞬で体が消し飛ぶためなにも苦痛が無いのが救いだが。


 開幕出落ちを防ぐため俺のマリオネットによるグレーターデーモンの肉壁、魔術師の系統外魔術による対魔術結界付与などこの日のために準備した対策を総動員した。とにかく俺と侍か魔術師か司祭さえ生き残れば良い。


 俺が死んだらダメなのは死に戻りで太陽現出前に戻されるから、侍も魔術師も司祭も死んだらダメなのは次の手が使えなくなるからだ。究極の蘇生魔術、再臨魔術を。


 溜め込んだ魔術対策の全てを使った。


 時間が歪み空間が弾けるような熱が放たれる。


 かろうじて死んでないだけの俺と四肢を消し飛ばされた侍だけが残る。しかしこれでも上出来だ。


 死に体の侍が唱えたのは■■■■魔術。

 その■■■■魔術により発動したのは再臨魔術。


 使用者が味方と認識したものを5人まで確実に蘇生した後に使用者含めた全ての味方に快癒魔術をかける最強の蘇生術。


 蘇生により死にかけの俺も侍も灰となった戦士僧侶もこの世から消滅した魔術士司祭も完全な状態で蘇生する。


 ワルドナですら一日に9回までしか使えない核撃の使用回数を5回使って生み出すのが太陽現出だ。


 もう奴は二度とあの規格外魔術を使えない。絶音魔術で魔術を封じてしまえば互角以上に戦えるはずだ。


 そう思っていたらいつまでも絶音魔術が発動しない。


 ワルドナが絶音魔術を使用しこちらの■■■■魔術を止めていた。格下相手に一切ためらい無く禁術まで使うのか。グレーターデーモンとは別ベクトルの容赦のなさだ。


 死に戻りして時を戻した結果絶音魔術の発動は止められたが、腕を竜の大群に変えて■■■■魔術使いを集中攻撃してくるおかげで侍も魔術士も司祭も詠唱に時間がかかる■■■■魔術を発動できない。


 侍が斬りかかりワルドナを両断するものの人間離れした生命力を持つワルドナは即死しない。


 流石に村正に2連続で切られたら死ぬのだろうが即座に白魔術で治癒しながら生やしたワイバーンの翼で上空に撤退する。


 侍の村正、絶音魔術という二つの脅威をしのぎながらも戦士、俺、僧侶の攻撃をいなし続けるのは異常な戦闘の才を持つワルドナだからこそできることだろう。


 俺も魔除けの強奪、破壊によりワルドナに首はねが通るようにできないか色々と試しているが魔除けの強奪されないという特殊効果により強奪は不可能。


 盗賊の短剣を大剣サイズまで拡張しながら僧侶の退魔の剣と同時にぶつけても破壊は不可能だった。



 一瞬の隙をついて侍が放った核撃魔術がヴァンパイアを殲滅する。バンパイアロードだけは生き残っていたが半死半生だ。


 侍の村正もえげつないダメージを与えているものの全力で侍から逃走しつつ村正のダメージを白魔法で癒し、他の連中を先に潰す戦法を取っているワルドナを殺しきるには至っていない。


 そうやっているうちにジリ貧になって全滅してしまった。



 

 その後も体感60年程死に続けた。なんで俺こんなに必死になっているんだ?


 この旅はハッピーエンドでなければならないからだ。


 悪党ですら人生においてハッピーエンドを迎える事があるこの世界で、侍、僧侶、司祭、ついでに魔術師と戦士のような善人達がハッピーエンドを迎えないのならこの世はイカれている。


 母さんが死んだ時のようにこの世のイカレ具合を認識させられるぐらいなら何度だって死に続けてやる。クソったれな世界に唾を吐きかけてブチ犯してやる。




 何度も死んでやっと掴んだ上振れ回で俺は模倣する、絶音魔術の詠唱を。


 ワルドナの目が驚きに染まる。即座にフラックを模した猛毒を放つ触手が襲いかかってくる。


 その一瞬の隙を突き、侍の村正に僧侶が手を当て退魔の剣の効果を付与する。


 侍の村正に極光が宿る。そのまま侍の村正が魔除けもろともワルドナを一刀両断に断ち、村正に宿った燐光が即死耐性アイテムを失ったワルドナを爆散させた。


 死に戻りで今までとは比較にならない地獄を見た、長かった、壊れてしまうかと思った。それでも俺達の勝利だ。やり遂げたのだ。

 しかしふと嫌な予感が浮かぶ


 死にかけのヴァンパイアロードが何かを唱えている。そいつを止めろと魔術師が今まで最も必死の叫び声を上げる。


 ヴァンパイアロードが唱えているのはこの場では最も唱えられたくない魔術。■■■■魔術だ。


 これから再誕魔術につなげられたら全てが終わる。


 頼む、失敗しろ、どうかこれで終わってくれ。しかし俺の日頃の行いが悪かったせいか奴の再誕魔術によって蘇生してしまった。ワルドナが。


 不意打ちで放たれた核撃魔術が侍と僧侶を戦闘不能に追い込む。


 魔術師がヴァンパイアロードの首を跳ねるのを横目に全身全霊を持って俺がワルドナに飛びかかる。


 蘇生したワルドナが大量のグレーターデーモンの顔を腕に出現させる。


 ゼロ距離で唱えられたそれは四重詠唱クワドラブルキャスト上位凍結魔法。氷結地獄がゼロ距離で俺に放たれた。


 俺は死んだ、また巻き戻るのか。あの地獄に。しかし巻き戻る直前俺に飛んできた物があった。司祭の上位蘇生魔術だ。


 蘇生した。死ぬ直前の体に力が戻る、ワルドナの首を跳ねようとして止まった体に命が宿る。


 文字通り全身全霊を持ってワルドナの首を跳ね飛ばそうとする。


 それに即座に対応したワルドナが俺以上の速さと領域の質を持って俺の首を跳ねようとする。このままだと俺が先に首を跳ねられる


 その時戦士が肉癖となりワードナから俺を庇った、戦士の手首が跳んだ。

 

 侍も、僧侶も、魔術師も、戦士も、司祭もやることをやった。俺もやることをやろう。


 侍にヒーローと呼ばれた事が頭に浮かぶ。


 この瞬間だけはまるで本当にヒーローになったようだ。


 生涯最高とも言える次の一撃は今まで最高の角度、速度、威力を伴ってワルドナの首を跳ね飛ばした。


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 次回、最終話(エピローグ

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