夢見る乙女
ゆめのみち
第1話
私は死んでいた。起きたら部屋の配置も変わってるし刑事ドラマで見る様な状態になっていた。覚えているのは夜に寝たという記憶だけ。
家族に恩返し、友人と女子旅行、彼氏とこれから共にする生活、実家の犬と最後まで遊び倒す、などたくさんのやり残した事がある。
まだ向こうへ行きたくない、というか行けない。せめて挨拶をしたい。皆に愛してるとせめて、伝えたい...。
いつ死んでたのか分からないけどお葬式中に何とか伝える事ができないか考えてみた。
座布団を引っ張ろうとしてみるが、そもそも掴めない。テレビで念力の話をしていたので試すがやはり動かない。では、電子機器はと試すがそれも無反応だった。髪の毛に向かって、フーっと息を吹きかけてみる。目には人も物も見えるのに、それらは幻覚なんだろうか。跳ね返ってくることすらなかった。背中に指で愛してると文字を書いてみるが無反応。
眼の前に居るのに感じる事もできなければ、存在を知ってもらう事も出来ない。突然こんなに広くて何もない世界にたった1人取り残されたのだ。その現実を認識してしまった途端、虚しさに包まれた。今までの思い出だと思っているものは自分が作り出したものなんじゃないか、これらは全て映像か幻覚で本当は何もないんじゃないか。
いいようのない、耐える事のできない空っぽの空間。多分魂であろうこの体から涙がこぼれた。自身の温度も涙の流れる感触も感じる。それらは今では偽物なんじゃないかと思えてきた。
ひとしきり泣いた後、せめて犯人を特定して皆に気持ちの区切りをつけやすくしようと思い周りを見てみた。皆暗く泣いている。何人か友達や恋人だと思ってた人を見かけない。本当は嫌われてたのかな...と思っていたら、妹が口をおさえてえずきながら部屋を出ていった。心配だからついていくと、駆け足でトイレに駆け込み今まで我慢していたのか大声を上げて泣いていた。時折吐きそうになっている。
妹とは家族よりバカ友のような感じで仲が良かった。新しく出来たお店、行きたかったなぁ...。最近も、お泊り会風に一緒に部屋を飾って寝ていたものだ。私は19で妹は17。この年になっても仲が良いので周りによく羨ましがられていた。
妹の姿を見ているとたくさんの思い出が
お互い泣き疲れヒクヒク言っていると、妹が突然、
下を向いているとあまりの悲しさに吐きそうになったから上を向いた。深呼吸を何回かする。妹と私の音、そしてまた誰かがトイレに駆け込む音。
もしかしたらあそこに居なかった人はトイレとかなのだろう。妹はしばらくすると顔を洗って出ていったので、自分も向かおうとした。
ちょうど誰かが入ってきたので思わず生きていた時のクセで避けた。誰だろうと思って見ていたら幼馴染だった。一緒の大学で一緒に飽きずに遊んでいる、
そういえば彼女は今でこそ短髪になっているが、あまりにも邪魔すぎて坊主にしていたなぁ。あれからだいぶ時間が経っているんだなぁと懐かしんでいると
まさか、見えているのか。
「
と恐る恐る聞いてみると、ゆっくり頷いた。
この世界は本物だった。見えているものも感触も。なにも触れないし、反応してくれないから疑っていたが、たしかに本物だった。触れるんじゃないかと彼女に手を伸ばしてみたが、通り過ぎた。どうやら声と見た目だけらしい。それでも、一人じゃないということが嬉しい。自分の思い出も全て存在していたんだ。
「よかった....死んでから一人で、何も出来ないから...」
今日はやたらと涙がでる。魂だからなのか。
トイレの水を流す音が聞こえたので慌てて離れた。さすがにこのままでは
建物を出て少し小道に入ると立ち止まってこちらを見た。
「
「うん、私。死んだみたい。未練がたくさんあるし、犯人も知らないからまだここに残っているみたい」
「こ....え...あだ、あいた...て..!」
言いたい事があるのだろう。彼女は昔から優しい。私のわがままで喧嘩をしても友達をやめることもなく、どんなバカな事を言っても呆れることもなく、友達とはいえ赤の他人なのに一緒にバイトをしてそのお金でプチ旅行に付き合ってくれて。彼女にもたくさんのやりたいこと、嫌なことがあるというのにずっと一緒に居てくれた。それにこんな状況になってもこうして何かを伝えようとしてくれている。
ああ、そういえば勉強が分からなさすぎて毎日お世話になっていたな....。
叶えたいことが叶ったらもう会えないかもしれない。そう思ったらハグをしていた。生きていた頃は死ぬ事なんてないと思って分からなかったぬくもりを感じる。
また彼女もひとしきり泣いた後、会いたかったと小さく呟いた。同じ気持ちだったので、私も、と答えた。
「ねえ、私いつごろ死んだの」
「えぇと、たしか2週間とちょっと前」
「え。昨日じゃないの?」
「うん、もう経ってるよ」
それまでの間私はどうしていたのだろう。2週間もの間寝ていたのか。時間差がありすぎて全く頭がおいつかなかった。
「ねぇ、何か知らない?なんで死んだか」
彼女は数分悩んだ後、今は分からない、と言った。どうやら情報は何も来ないそうだ。
「ねぇ...」
と言いづらそうに
「か、彼氏とか、他の友達、は...ほら、高校の頃からの...」
優しいから知ってる人を疑いたくないのだろう。それでも犯人は特定したいので調べてみたい。
「うん。たしかに怪しいねちょっと観察してみるよ」
「わたしも気になる。
「うん。友達が居ると私も凄く頼もしいよ。心強いし、それにまだもう少し側にいられるのは凄く嬉しい」
うん、と二人でニコっとする。そうして一緒に葬式に戻った。
注意深く見てみるが、例の2人は来ていなかった。
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