人類は六割の確率で生き残るようです~魔装幻想~

葉崎京夜

第1話

~~これは人類が生き残るために足掻く物語である~~


 人類が人権、倫理、良識ありとあらゆる人間らしきものをドブにぶち込んで建造した鋼の騎士。魔装騎と呼ばれる人型兵器だ。魔獣の魔力発生器官を加工した魔力炉を動力源とし、操縦者に魔晶と呼ばれる魔力親和剤を投与する事で操縦者そのものを反応炉として扱う非人道兵器。


 魔力親和剤を投与された操縦者は体の一部から熱を持たない蒼い炎が漏れ出るようになる。人類同盟は彼らの事を人類を導く灯火(ともしび)、『灯火の騎士』と呼んだ。






 魔力炉から魔力を汲み上げる甲高い独特の音が響き、魔獣素材と金属で出来た合金の装甲が太陽の光を受けて煌めく。スラスターから魔力光を撒き散らしながら、全高10mの巨大な人型4騎が戦場を駆ける。


 ゲインズ重工が開発した一世代前、第二世代魔装騎の傑作騎である『アーレス』だ。中量二脚の標準的な騎体で癖がなく多くの灯火の騎士に愛用されていたが、第三世代の量産が可能となり多くは現役を引退し訓練騎へと転用されるようになった。


 アッシュグレーに全身を塗装され、差し色に蒼を入れた人類同盟軍カラー、肩には白で騎体番号が書かれている。02と書かれた騎体から他の騎体へと通信が入る。


「ホワイト2よりホワイト1へ。M級敵突撃種10体、S級射撃種5体二時方向、距離500接近中。44秒後に接敵だ」


 光学センサーからの映像がライブラリを通して識別された情報を隊長機へと送信する。


 歪神(ゆがみ)と呼称される敵性存在が出現したのは13年前のグロースノルデン帝国が勢力拡大の為に南進している最中であった。大陸北方に位置する帝国勢力圏内を中心に突如空を割り現れたそれらは瞬く間に帝国を制圧。周囲の存在を取り込みこねくり回し歪めたモノへと作り替え、自身の眷属として戦力化した。過去の交戦記録から収集されたデータをライブラリへと登録し即座に識別できるようになっているのだ。


「ホワイト1より各機へ。今回の試験内容だ。蒼炎化率25%以下に抑えて撃破する。ホワイト2はホワイト1に随伴しろ。ホワイト3は距離50後方から先制攻撃して射撃種を黙らせろ。ホワイト4は突撃種への牽制だ」


 ヘルメットのスピーカー越しに耳を擽るような甘い青年の声が小隊に指揮を伝えてくる。


「ホワイト2了解」


 ホワイト1の指揮に短く返答し、肩にマウントされた魔獣の爪から削りだされた人が持つにはあまりにも大きな剣を引き抜く。


「ホワイト3了解。弾種榴弾に変更します」


 ホワイト3からは普段の溌溂とした物とは違う硬い声での返答がある。きっと顔も緊張で引き攣っているのだろう。


「ホワイト4了解。弾種徹甲弾装填しました」


 普段通りの少しのんびりとした了解の声がホワイト4の通信から聞こえてくるのがホワイト3と対照的だ。


 レーダー上でホワイト3とホワイト4が減速し、後方50の距離に位置を変更し陣形を整える。前方をとらえる光学センサーに映る敵、歪神眷属のM級突撃種が一気に近付いてくる。


 ロックオン警報。同時に突撃種M級の後方から魔力光が煌めく。


「敵射撃開始。回避します!」


 盾を持たない白兵戦重視騎体である自騎ではS級の射撃攻撃でも出来れば受けたくない。ブースターが起動し騎体が左右に振り回され、体に大きなGを感じるのを歯を食いしばって耐える。


 並走するホワイト1は大型の盾を掲げて更に前方、敵に向けて加速し敵の射撃を一気に引き受ける。魔力収束による射撃が大盾に衝突し鮮血色の燐光となって散って行く。


「射撃型ロックオン。排除開始します!」


 ホワイト3が構えたカーロフインダストリアル製55mmアサルトライフルから法術の爆発を推進力として次々と榴弾が吐き出される。初速1100m/秒を超える速度で射撃種が放った攻撃の軌道を逆行し、その内部に込められた破片をばら撒き射撃種を次々と吹き飛ばしていく。


 同時にホワイト4が構えた55mmアサルトライフルから徹甲弾が吐き出され、M級突撃種の足元を的確に撃ち抜いていく。足を撃ち抜かれた突撃種は後続を巻き込み転倒していった。


「よし、崩れた。ホワイト2続け!」


「ホワイト2了解!」


 2騎の騎体が一気に加速し、M級突撃種に踊りかかる。ホワイト1は腰にマウントされた斧を振りかぶり転倒した突撃種の首を切り落としていく。それと同時に胴部に搭載された蒼炎化率調整装置が起動し、ホワイト2の蒼炎化率が下がるのを確認し、ブースターの角度を変更。騎体の膝を曲げて溜めを作り開放すると同時に起動し跳躍。一気に渋滞を起こした突撃種の塊の背後に着地し、装甲の薄い背面を晒す突撃種に大剣を叩き込む。


「敵眷属排除完了!周囲に敵影なし」


 数十秒の交戦後、周囲を探査し残敵が居ないことをホワイト1に告げると同時に機械的なブザーがなり試験の終了を告げる。


 NO.2と塗装されたシミュレーターのハッチを開け操縦記録を格納したキーを抜き取りタラップから訓練室へ下りると同じ様にシミュレーターから一緒に試験を受けていた3人が集まってくる。


「おつかれ。ユートは相変わらず跳ぶのが好きだね」


 NO.1のシミュレーターから下りてきたホワイト1、ベルンハルト・グッドフェローが同調用のヘルメットを脱ぎ、蒼い炎が漏れ出す右手でアッシュブロンドの髪をかきあげ蒼い瞳に揶揄う様な色を浮かべながら、通信と同じ甘い声で掛けてくる。声と同じく整った顔立ちで同期の女性訓練生はおろか、教官からも人気のある人物だ。


「別に好きで跳んでるわけじゃねぇよ。エステルが射撃種潰してくれたから背後取った方が効率が良かっただけじゃないか。それと何度も言ってるが俺の名前はユ・ウ・ト。ユウト・サキガワだ」


 同じようにヘルメットを脱ぎ、蒼い炎が揺らめく左目を顰め黒い短髪を撫でつけながら答える。自分とて好きで跳躍しているわけではないのだと主張するのは、ラオロン連邦共和国出身で西方人の特徴を持つ顔立ちの青年だ。ハイランド王国に多い南方人種と比べて童顔で、幼く見られているのが少々気になる。女性の教官はおろか同期からも可愛いと言われるのは流石にどうかと思う。


「いやー、ユートも流石に私の腕を認めてくれたでしょ!」


 NO.3のシミュレーターから下りてきた小柄な少女が少し背伸びしてユウトと肩を組む。エステル・マクレーン、ハイランド王国出身の訓練生でピンクブロンドの束ねた髪が尻尾の様に揺れている。グリーベリルの瞳を猫のようにに細めながら笑顔で、どうだと言わんばかりに蒼い炎が漏れ出る左腕を掲げる。


「エステルは調子に乗り過ぎなければ、合格なのよねぇ」


 NO.4のシミュレーターの扉から蒼い炎を揺らめかせる右足を出して下りてきた長身の女性がヘルメットを脱ぎながらため息とともに合流する。縛っていたハニーブロンドの長い髪を解き、呆れの色がその蒼い瞳に浮かんでいる。


「シュシュはすぐそういうこと言う。あたしは立派なレディよ!ユートもそう思うでしょ?」


「はいはい。そうね」


 前で腕を組んで豊かな母性の象徴を見せつけるように、胸を張るシェシュと呼ばれる女性。シェシュティン・カールステット、大陸東方に位置する人類圏で広く信仰されている星導教の総本山である星導教国出身で自身も信徒だ。首から下げたその証である流星を象徴する聖印が豊かな双丘の上に乗っており若い男性には目の毒だ。


 思わずエステルと見比べたユウトの脛が蹴りつけられ、痛みに蹲る。


「見比べてるんじゃないわよ!あたしはまだ成長期なのよ!」


 立派なレディはこんな暴力は振るわないだろうと思ったが、女性陣からの冷たい視線で口に出すことは出来なかった。女性陣の後ろで笑いをこらえているベルンハルトは後で殴ろうと心に決めるユウトだった。

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