現代ダンジョン編
第12話 シャルウィーダンジョン?
「はい、心身ともに異常なし。診断お疲れ様」
「はい」
今回のバグの件の保証として国から国直属の医師が家に来て脳波異常と身体の健康を測る診断を無料でしてもらい損害補償金と国からの援助金も上がった。
その代わり今回の事件の事を公にしないという取り決めとなった次第だ
花道さんも黙秘をしぶしぶ受けてキャシーは今回の事件に関し反発しまくっていたがまあ被害を一番被ったとされる俺が納得したので収まった。
ここで国に逆らえばハンターになれる夢はついえる。流石にそれは二人もわかってくれたからだと思う。
診察が終わり医師を送った後ふうと息を付きベッドで寝転がり手にしたものを眺めニヤニヤとつい口端を上げてしまう
俺はついに念願のハンターライセンスとMAGを手にすることができたのだ
これでようやく本物のダンジョンに潜りモンスターと戦う事となるのだ
「ハンターになれたんだな…実感わかないけど」
なんというか特別感はない。達成感はあるがハンターライセンスを持っている人間はたくさんいる。例えるなら自動車の免許を手に入れたが使っている人間が多いから特別感が薄いといったところだ。だがそれでも
「夢への第一歩だ。俺もいつか異世界に…」
そして魔王を倒す。まあそれまで異世界がどういうところか見てみたい気はするが…
≪異世界ねぇー。どーして行きたいんだか≫
「だって別天地だぜ?行きたいでしょ当然」
寝っ転がっているとキャシーが俺の頭の上に浮いて話しかけてくる
ハンターになればフェアリーは邪魔というのは知っているが前回キャシーの叱咤激励により花道さんが奮起した話を聞いて俺はフェアリーを手放すという選択肢が度外視になった。
≪アンタのイメージする異世界ってどんなとこ?≫
「魔法と剣のファンタジー世界?ここにはない未知のテクノロジーが発展した場所?」
≪違うわ。調査用のドローンで扉の向こうを周辺捜査したところダンジョンと変わらない魔素がはびこる世界と判断されたわ。ファンタジー風に言えばマナに満ちた世界?どちらにしてもアンタは生きていけないわ≫
「つまり異世界人ってのは…こっちの人間とは違うんだな」
≪そもそも人間がいるって保証もないけどね≫
なんだ夢がないと少しへこむ。まあ魔王が統治してる世界だ。多分世紀末ってるに違いないだろう。それとは別に
「そいやさ。女神ってどうなったか知ってるキャシー?」
≪・・・それは分からないわね。噂通り人間に呆れたんじゃない?≫
「だったらスキルとかレベルとか返還してるだろ?なんでそのまま放置なんだろうな?」
≪知らないわよ。んな事…≫
「?」
なにか歯切れの悪い言い方で少し引っかかったが特に気にはしなかった
花道佳夕は本来務める会社に入社辞退の届け出を出し社長に平謝りをして帰路に赴き帰宅したところだ。
突然ハンターになりますといって今まで面倒をかけてきた皆様に申し訳なさを感じながらもハンターになる事に後悔はないがハンターへの不安を感じながら届けられた
ハンターライセンスを眺めている。魔法使いということでMAGは同梱されていなかったがこれからハンターになるという現実を理解していく
元来彼女は戦いを好まずハンターは無縁の職業だと思っていた。
なりたいとも思わずそこから青写真や展望など想像できるはずがない
だが彼女は経験した。出会った青年。鹿目雄一という男の危うさに
自身も死ぬかもしれない状況に置かれなおハンターを志す理由はひとえに鹿目雄一が心配だからだ。
一度パーティーを組んだから死なせたら寝覚めが悪いというわけではない。
真摯に夢を追いかける彼がまぶしくそんな彼がどこかで半ば死んでしまうというのが想像したくないのだ。
自分と違い立派な夢をもって生きている。
だから少しでも彼の夢の実現を応援したい。
実力不足で助けてられてばかりで恥知らずな感情であるがその為にも少しでも強く成って彼の手助けをしたい。
そう思ったのだ。だからその為にも
「ヴィクターくん。ゲームを始めるからサポートお願いします」
≪いいのか?君が死ぬ目に遭ったゲームだぞ?現に君も懐疑的だったではないか≫
そう、本来なら死亡し今日生きていない原因となったゲームで本来ならやりたくもない。だが
「ここで経験を積んで雄一君の手助けをしたいです。あんなこともう…嫌です」
≪・・・・・・・・・・・・・≫
その言葉にヴィクターは口をつぐむ。前回の件、本来ならばフェアリーが対処する事案だ。
だが鹿目雄一がイーヴィルヴァーンを倒さなければ事態は収束せず彼女もまた亡き者になっていたのは事実。
ならばとヴィクターは
≪では私も微力ながら力添えをさせていただく。私も
「ありがとうヴィクター君」
ヴィクターは先にゲーム内に入り彼女もまたダイブした。これ以上レベルは上がらないが戦闘訓練としては申し分ないゲームだ。
ここでまた彼女はモンスターを殺め戦いへの成長を遂げていく
そして数日…
ついにダンジョンに挑むときが来た。施設に入りステータス画面を見る
「・・・あのスキルはバグじゃないんだな…」
昨日までゲームでスキルの確認をし改めて現実世界で自身のステータスを確認した
∞^2というバカげたステータスはあの状況下でしか使えない。
そもそもHPがゼロになれば否応なく死亡扱いで蘇生するまで動ける状態ではない。スキル『致死を癒す病―ダメージオブランゲージ―』によるものではないと使用してみて理解している。憶測だがHP0で発動できたのはあの時見た…。
「
我ながらはずれスキルを手にしたもんだと頭を抱えたくなる。
どれだけいいスキルだろうが死んでから初めて発動するスキルなど欲しいとは思わない。
そしてアベレージ2に移行するにはもう一度死に目に遭うかさらに過酷な
そう思うと次のスキルがどんなものでも嫌すぎる…。そんなことを考えているとふと見知った子に声を掛けられる。花道佳夕だ。
「あ、雄一さんこんにちわ!」
「あ、佳夕さん」
花道さんもダンジョンに来たようだ。といってもどこからどう見てもテーマパークの一角にしか見えないのであまり実感というものはわかないだろう。
人類がスキルやステータスを手にしてから数年が経ちダンジョンは完全に人間の管理下に置かれた。
ダンジョンから脱走するモンスターを駆除する職員もおりダンジョンや龍脈がある場所ではレベルシステムが働くので戦える。
そして万が一現実世界に出てきたとしても現実世界には魔素がないのでモンスターは生きてはいけない。
つまりダンジョンから出てくるモンスターは皆無と言っていい。
なので施設内に飲食店や娯楽施設があるのも多分おかしくはない。
空気もゆるく死傷者もかなり少ないので平和と言えるだろう。
ハンターと言えば聞こえはいいが要は現実に必要なエネルギー確保や希少品を手にする資源採掘師と言えば夢は薄れてゆくので言わないでおこう。
「お体の調子、いかがでしたか…?」
「全然大丈夫。問題なかったよ」
「良かった…」
胸をなでおろす花道さんを見て少し心を痛める。最善と思っていたのは俺だけで俺だけが気分のいい選択をしてしまっただけかも…。
他にも手があった、そう思わざるを得ずそれほどまでに心配させたことを悔やんでしまう。
だがそれを口に出したら辛気臭い雰囲気になるので黙っている
心機一転。心を入れ替えて新たなスタートを切ろう
「まあ俺はそれで終わったんだけど佳夕さんは本当にハンターになるつもりなの…?」
「はい…次からは足を引っ張らないよう頑張ります…!!」
ぐっと握りこぶしを胸に当ててガッツポーズをする花道さんかわいい
娯楽施設が色々目に移るが受付カウンターに向かって俺と花道さんは歩いていく
彩り豊かな他の施設と比べカウンターは質素なもので横にはダンジョンに入る為のワープ装置が設置されている。これはポータルと呼ばれるもので霊脈内で使える魔具の一つとされる。
武器も防具も点在する霊脈の間を通りこうやって運ばれるがなんと人間も転移可能とされてダンジョンを行き来する出入り口はここしか存在しない。
もちろんここひとつだけではない。各々の受付にポータルが存在しなければ大量のハンターをさばききれないからだ。
ここは霊脈内なのでハンターの武装はここで管理されている。俺がギャリックスで見繕ってもらった『愛染』もここにある。
俺と花道さんはハンター出入りの許可書を書き受付嬢に渡し受領。カウンターを離れ女性は優雅な足取りで先導する
「鹿目雄一様と花道佳夕様ですね。ご受領いたしました。更衣室にて防具と武器を用意してありますのでそちらへご案内します」
身に着けるために更衣室へ案内される。防具なのだから身につけなければ意味はない
流石に瞬間的に防具をササッと着装する技術はまだない。
ポータルの応用で出来そうなものだが
『防具は自分で身に着けたい』『点検とチェックは自分でしたい』
という要望があるのであまり成功には見込めない。
まあそうだよな…武装を一任しているとはいえ自分のものを何から何まで管理者に任せるのは不信感が募る。
運営に変な手を加えられないかという疑念からポータルによる着装は今だ軌道に乗っていない。
本来なら持って帰って自分で調整やらアレンジやらしたいだろうが霊脈はそうそう存在せずすべての霊脈は国の管轄下にある。
それは単純に霊脈の悪用や個人による新たな技術開発の妨げの為という名目だ。
ハンター誘致しているらしいから結構信頼できないが政府。
もし新たな霊脈が見つかれば国が買収するかもしくはハンターが秘匿し憩いの場か先述したように悪用されかねない懸念はある。
技術が発展した時代だ。個人製作で社会貢献か私利私欲に使うメリットとデメリットを同時に孕んでいるのは確かだろうな…。
なので有能な人材は国直属に引き抜かれそれ以外は停滞させているのが現状だ。
まあ別に、俺には関係ないし政府は信頼できないが運営は信用している。
まあそもそも資源採掘しているのに失敗させるようなことはしないだろうという意味での信頼だが…
そんなことを考えている間に防具とギャリックスの真崎さんが用意してくれた愛染を背負い先ほどの受付まで戻る。
すでに花道さんは受付嬢の案内でポータルの上に立っている。俺も続いてポータルへ乗り受付嬢は笑顔でお辞儀をし
「それでは、ごゆるりとハンター生活をお楽しみください」
そう言ってポータルの上に乗った俺たちはダンジョンへ転移、浮遊感は一瞬で移動も一瞬、気が付いた時にはすでに迷宮型のダンジョンへ俺たちは移動していた
「はぁーーーーーーこれが本物のダンジョンかぁ…」
MMOも大概リアルだったが本物の現実は臨場感が段違いだ。
だが感心している暇はない。
転移直下にてすでにモンスターはハンターを待ち構え獲物として俺たちの前に立ちはだかる。
そういえばモンスターが人を襲う理由って人間を食べると一時的にダンジョンの外に出れるかららしい。
魔力を持たなくとも魔の霧で一時期おおわれており総ての生命体に魔素が残留している。
それを喰らう事で現実世界でも肉体を維持でき現実世界で人間を食べ続ければダンジョンの外でも生きていける。
そう言う理論をどこかで見た気がする
「雄一さん!来ますよ!!」
おおっと、物思いにふけっている場合じゃない。
前回と違い花道さんに緊張はあれど状況に即座に順応している。あの後ゲームで訓練したと予測
早速俺専用の武器『愛染』の柄に触れる。
ギャリックスや更衣室では手足のように持てたがダンジョンでの性能はまだ依然として不明だ。
柄を握って上から下へ引き抜いて降ろす。
やはり本当に馴染んでいる。ゲームの武器とは段違いだ。
本当に俺の為の武器なのかもしれない。
そのせいか攻撃をしてくる魔物。
棍棒を持つゴブリンの動きがスローに見える。
奴より早く体が動きゴブリンの振り下ろす棍棒が俺に当たる前に
『GSSGGGGGG・・・・・・・!!!』
振りぬいた一閃がゴブリンを横一文字に両断される。
そして花道さんを見る。
「射抜け射抜け狩人の眼…その瞬きは矢の如く『
レベル20になったことで新たに増えた魔法を駆使し自然属性の弓矢でゴブリンを薙いでいく。
魔法。俺もMAGを持っているのでそれを起動して魔法を打ってみる
『マジックアームズガードナー起動。魔法を選択してください』
そして表示された魔法はどれも初期魔法だが種類は豊富だ。
花道さんほどの火力は出ないが牽制程度には活用できると考えて
「
『
音声入力にてコードを打ち魔法を放つ。これがMAGの面倒なところだ。
大した魔法は使えないくせに魔法使いの魔法より時間がかかる
だが利点として『棒立ちにならず移動しながら魔法を放てる』というアドバンテージはかなり大きい。
デメリットとしてMAGに意識を向けなければならないので注意力がそがれてしまう。
これをうまく克服するのがプロハンターらしい。
かくして俺たちのハンターへの道はこうやって始まっていった
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