幽霊坂の二人
@makibisi1414
第1話 辛気臭ボーイ
「よう、高校卒業ぶりだな。」
喪服に身を包んだメガネの男が私に話しかけてきた。
彼は私の高校時代の一番の友で、成績優秀でラグビー部に所属し、皆の人望も厚い絵にかいたような模範少年だった。
「久しぶりだな、青木。高校卒業してから初めて会うのがこんな場所なんてな。」
「あぁ、その…晴夏ちゃんのことなんていったらいいか。」
彼が言葉に詰まりながらも吐き出した名前は私の人生で唯一出来た恋人の名前だった。
先週の火曜日、大学の講義終了直後にかかってきた電話は、私の人生で一番長く感じるものだった。
「夕季くん、晴夏が、晴夏がぁ、」
彼女の母親からの電話は夏の陽気に似合わないくらいに悲痛で、私の体温を一瞬で奪っていった。
母親と昼食に向かうところだった晴夏は、薬物の影響で意識が混濁していた大学生の運転するステーションワゴンが歩道に突っ込み跳ね飛ばされた際、頭を強く打ち亡くなったのだという。
残念なことに運転手は命に別状なく、
「へへへ、俺は悪魔城ドラキュラの住人。からあげボーイなりー。」
などと支離滅裂なことを、残酷なくらいに青い空へ言い続けていたとのことだった。
「何も言わないでくれ青木、泣きたくなるから。晴夏死んだことは全部あいつのせいだから。」
葬式は何事もなく順調に進み、晴夏は両手に収まるサイズになった。
式場からの帰り道私は晴夏と、いつも散歩していた河辺を歩いていた。
中学生は流行りの漫画のことを無邪気なえがおで話していたが、私の隣を横切った後「おい、見ろよあれ、今にも死にそうじゃね?」
「この世で一番不幸です。みたいな顔して気色わるい。」
なんて言葉を吐き捨てた。人が何か無くした時の表現で心にぽっかり穴が開いたというものがあるが、これは大切なものを無くしたことがない人間の妄言だ。
晴夏を無くした私は、切れ味の悪い鋸で彼女の形に無理やり切り落とされたかのように、ずたずたの内面で、私に死を促すのに難しい言葉はいらないだろう。
その時懐かしい香りが私の体に満ちていく。少し先の橋の上には見慣れた花柄のワンピースを着た、指通りがいいのが見て取れるほどの美しい黒髪を持つ晴夏の姿が見えた。
あぁ、もう限界か、幻覚が見えるようになってる。これじゃあの薬中と大して変わらないじゃないか。
「おっ、ようやく見つけたぜ。今回の俺の相方を。」
そうやって駆け寄ってくる橋の上の彼女はあっという間に私のもとにたどり着き、顔を覗き込んだ。
「辛気臭い匂いがすんなぁ。お前今死にてぇほどつらいだろ?
なぁなんかいえよ。反応ねぇとこっちとしてもつまらないんだわ。」
「は…はるか」
「あ?はるか?あっ、この女の名前か。しっかり資料読んどけばよかったぜ。」
「いいか、辛気臭ボーイ。俺の名前はアキラ。あんたの未練を回収に来た悪魔だ。以後お見知りおきを。」
この物語は、私が晴夏を忘れるまでの物語だ。
幽霊坂の二人 @makibisi1414
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