第14話 色塗り

「色を付けるのにアクリル絵の具を使うよ」


 藤咲さんは作業台に準備されていた絵具セットを引っ張り出してくる。


「アクリル絵の具?普通の絵具と違うの?」


 僕らが学校で使っている水彩絵の具とは違うみたいだ。


「学校で使ってる水彩絵の具と違って乾くと水になって落ちにくくなるから注意してね。その代わりに色がはっきり出るからプラバンにはこれを使ってるんだ!

好きな色を並べて塗ってもいいし、水玉模様とかでも大丈夫。ひとつ注意して欲しいのはこれから私達が色を塗っていく部分は裏面になるってこと」

「裏面になる?」


 巧が首を傾げる。


「絵具の塗った後が目立っちゃうから作品の裏側から色をつけるの。例えば水玉模様を描こうとしたら先に水玉を描いてから最後に背景を塗るって感じかな」

「色を塗っているのとは反対の方……作品の表になる部分を確認しながら色塗りしなきゃだめってことだね!」


 藤咲さんの言っていることを理解することができた僕は思わず大きな声になってしまう。藤咲さんがにっこりと笑みを浮かべながらうなずいてくれた。


「こんなに小さくなってから塗るの大変じゃね?縮める前に塗れば良かったんじゃね?」


 巧が素朴な疑問を口にする。確かに。形を作る前、ペラペラの状態で塗った方が簡単そうだ。


「そういう方法をあるんだけど……。縮ませると最初に塗った色よりもかなり濃くなっちゃうから難しいんだ。縮ませる前のプラバンってツルツルしてて色が塗りにくいから今回は縮ませた後から色塗りにしてみたの」

「ふーん?そうなんだ」


 巧は分かったような分からなかったような返事をする。


「ち……小さいパーツだから集中して塗らなきゃね!お……落ちにくい絵具だから……周りに付かないように……気を付ける」

「大丈夫だよ。作業台にはいらない紙を敷いて作業するから」


 藤咲さんが水の入った水入れを持ってきてくれた。僕達は絵筆を手に取り、色塗りをスタートさせる。

 どんな色がいいだろうか。星型だったら黄色って簡単に決められたよな。僕の形はだからな……。うーん……どうしよう。

 ふと藤咲さんに視線を向けると肩に乗ったノアと目が合った。


「マホのこと見てないで手を動かせよ!ひよこ野郎!」

「あ!思いついた!」


 ノアを見て僕はひらめいた!止まっていた筆を夢中で動かす。

 木村さんと巧も黙々と筆を動かし、思い思いに色を付けていた。

 藤咲さんはそんな僕らを優しく見守りながら時々オレンジジュースを飲んだりしてくつろいでいる。


 筆を動かす音しか聞こえない沈黙。


 とても友達と遊んでいるようには思えない雰囲気だけどその沈黙が心地よく思えた。

 よし。僕も誰かが喜んでくれるような作品を作り上げるぞ!心の中でやる気を入れ直すと再び筆を動かし始めた。

 ふたりはどんな作品を作り上げたんだろう。皆の完成した作品を見るのが楽しみだ。

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