第6話 転校生

 翌日、僕はランドセルに羊毛フェルトで作ったひよこを付けて学校に向かう。こいつはノアのように喋らないみたいだ。話しかけても翼を動かすだけ。


「これ。昨日、藤咲さんに教えてもらって作ったんだー」


 そう言って朝、お母さんと優陽に見せたところ、ひよこは動かなかった。どうやら人前で動かないらしい。


「上手じゃない!今度母さんにも作ってよ」

「かわいいー!私も!私も!欲しい!」


 二人に褒められて思わず鼻が高くなる。僕ってばハンドメイドの才能があるのかもしれない。

 上機嫌で学校に辿り着くと……何やら5年2組の教室が騒がしいのに気が付いた。


「転校生だって!」

「女の子らしいよ!」

「楽しみだねー」


 どこから情報を入手してくるのか。クラスメイト達がそんなことを話しているのを耳にする。

 僕の心臓が高鳴った。

 ランドセルのひよこをつついてみる。するとひよこが答えるかのように翼を数回上下させた。


「皆さんおはようございます。席に着いてください」


 クラス担任の歌川うたがわ先生がソプラノの声でクラスに呼びかける。歌川先生は音楽の先生でもあるのだ。普通に話しているだけでもその声は澄んでいて、歌っているように聞こえた。


「今日は新しいお友達を紹介します」


 そう言って教室に入って来たのは、外に跳ねた三つ編みに赤と白のチェックのワンピース。ランドセルに提げられた生意気そうな黒猫のマスコットをつけたおとぎ話の世界から飛び出してきたような女の子……。


「藤咲……真歩です」


 藤咲さんだ!まさか僕のクラスに転入してくるなんて……。嬉しくて自然と笑顔になってしまう。

 これからの学校生活がより楽しくなりそうな。そんな予感がする。

 僕の視線に気が付いた藤咲さんが優しい笑みを浮かべながら言った。


「皆と仲良くしていけたらなと思います。これから宜しくお願いします」



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