1話 おまけ

side 朔


誘奈を寮まで送り自宅に帰った俺は、先程渡された小さな袋のことを思い出した。

今日のお礼だと言って渡された見覚えのある包装紙。どこで見たのだろうかと思い、ふと部屋を見渡すと同じ柄の入った紙袋が目に入る。


確かこれって、前にあの雑貨屋で本を買った時の袋だったような…?


段々と、点と点が繋がっていくような感覚。

カスタマイズパーツのポップ、誘奈にしては珍しい赤色の石、会計の前の考え込む仕草、店主の言葉、店から出てくるのが遅かった誘奈。


もしやこれって……。

ゆっくりと、袋を開ける。すると中には案の定、あの店で見たチョーカーが入っていた。

メインの飾りは月、誘奈がどっちにするかと悩んでいたものだ。隣の雫型の石は、誘奈の瞳と同じ薄翠色。


「これはやられた………。」


ずるずるとその場にしゃがみこみ、ぼんやりと窓の外を見やる。そこには見なれた自分の姿が映る。誘奈が見たら間違いなくからかってくるような、赤く染まった頬と情けない表情。

そこに、あの石と同じ、赤色の瞳が映った。


「とりあえず、ちゃんと礼を言わないとな。」


のろのろとした動きでスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。

今日追加されたばかりの黒猫のアイコンをタップして、メッセージを送る。


【大切に使う、ありがとうな】




side 誘奈


帰路に着く朔を見送り、寮長に部屋まで送ってもらった後、部屋に戻ったあたしは早速鏡の前に立つ。

手には、買ってもらったばかりのチョーカー。

それを慣れた手つきで首元に飾ると、星の飾りと赤色の石が煌めいた。


「うん、いい感じ!」


首元に煌めく、朔の瞳と同じ赤色。まるで彼の所有物になったとでも言うような、不思議な感じを覚える。

けれど、あたしだけが所有物になんて絶対になってやらない。そのために、わざわざお揃いのものを作ってもらったのだ。一緒にパーツを選んでくれた店主さんには、今度お礼を言わなくちゃ。


今日のことを一つ一つ思い出すために、ゆっくりと瞼を閉じる。

瞼の裏に焼き付けた、沢山の記憶。

昔も、今も、変わらない。

あたしをただの「如月誘奈」として見てくれた、唯一無二の存在。

ずっとずっと、大好きだった。だから、絶対に失敗なんてしたくなかった。


「渡した袋、開けてくれたかな…?」


そっと目を開けて、窓の外を見る。

すると、現実へと引き戻すような、メッセージの受信を知らせる通知音が部屋に響いた。

少し緊張しながら、スマホのロックを解除してメッセージアプリを開く。そこには、彼の簡素なメッセージ。


「朔、これは確実に照れてるな…!」


あたしは満面の笑みを浮かべたまま、お気に入りの黒猫のキャラのスタンプを送る。


もう一度、彼に会えてよかった。

これからも、一緒に居られるといいな。


そんな願いを込めながら、もう一度窓の外を見る。

そこには、首元と同じ、星と月が煌めいていた。

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