それぞれの 中学時代の お話です⑦
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パート7です。終盤。
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[命]「秋ちゃん、こっち。この教室は放課後も静かだから」
[悠心]「ありがとな、命」
[絃葉]「……悠心」
[悠心]「…………絃葉」
[命]「……えぇと、何から話そっか」
[絃葉]「悠心さ」
[悠心]「……なんだ?」
[絃葉]「わたしのこと、避けてたでしょ。なんで? わたしのこと、嫌いになっちゃった?」
[悠心]「……それは」
[絃葉]「ねぇ、わたしなんか悠心に悪いことした? 些細な物言いで傷つけた? 許せないことした? 教えてよ、ねぇ」
[命]「絃葉ちゃん、落ち着いて……」
[悠心]「……私は」
[絃葉]「わたし、悠心に嫌われたら生きてけないよ。ずっと昔からそうだもん。わたしは悠心が傍にいて、やっと人並みなの。言葉だって詰まるし、嫌なこと本当に嫌って上手に言えないし、上手く口角が上がらないの。今も頬っぺた強ばってる。手の感覚が遠いの。ねぇ、悠心。わたし、何か悠心に悪いことした?」
[悠心]「……今から話すことについて、おまえは怒ってくれていい。正直な気持ちを伝える」
[絃葉]「……うん」
[悠心]「言い訳がましいのも嫌だから言う。私はおまえをずっと避けてた」
[絃葉]「……だよね。わたしのこと、もう嫌いなんだ」
[悠心]「でも、嫌いになったわけじゃない。これは私のエゴのせいだ」
[絃葉]「……エゴ?」
[悠心]「面倒事が嫌なんだ。他人と他人が起こしてる面倒事を見るのも嫌なのに、ましてその渦中に自分がいるかもしれないって思うと、正直ひどく気が滅入った。おまえの顔が暗くなっていくのを見て、“面倒くさそうだな”って思った。だから、遠ざけた」
[絃葉]「……ひどいよ」
[悠心]「……幻滅してくれ。おまえの心の安寧よりも、自分の人生に乗る重りを外すことに躍起になってた。それは紛れもない事実だ」
[絃葉]「……そんな悠心なんて、きら……きら……」
[命]「……絃葉ちゃん」
[絃葉]「……ひっく、言えない……嫌いなんて、どうしても言えないよぉ……!」
[悠心]「……絃葉」
[絃葉]「じゃあ、悠心は、わたしのことを嫌いになったわけじゃないの……?」
[悠心]「うん。おまえはずっと幼なじみだし、ずっと友達だ。どの口が、って思うかもしれないが……」
[絃葉]「……わたしのこと、好き?」
[悠心]「ああ。好きだぞ」
[絃葉]「……わたしも、悠心のことが好き。大好き。でも、それはちょっと違うんだ」
[悠心]「違うって、何が……」
[絃葉]「……悠心のこと考えると、胸がきゅうって切なくなったり、飛び出そうなくらいに高鳴ったり、とくんとくんって穏やかになって、すごく安心したりするの。たくさん調べなきゃよかった。これは、ただの同じ性別の友達に向ける感情じゃないの」
[悠心]「……絃葉」
[絃葉]「悠心のことを考えて、気持ちいいこともたくさんしてる。……ごめんね、ごめんね。気持ち悪いよね、気味悪いよね。同じ女の子で、ただのたくさんいる友達の1人で、偶然家が隣の幼なじみなだっただけなのに……」
[命]「……絃葉ちゃんね、この前話してくれたの。秋ちゃんのことが大好きで、秋ちゃんにだけは嫌われたくないって、泣きながら話してくれたの」
[悠心]「…………」
[絃葉]「あ、あは、あはは。言っちゃった。言っちゃった。気持ち悪いこと、全部言っちゃった。ああ、わたし、本当に気持ち悪いなあ。ごめんね悠心、ごめんね……」
[悠心]「……絃葉、私は」
[絃葉]「……ううん、いいの。返事なんてくれなくていい。もう、どうでもいいんだあ」
[悠心]「……絃葉」
[絃葉]「悠心、これからはわたしに無理に関わらなくていいよ。どろどろの矢印向けられてるなんて、嫌でしょ。身体を眺めていやらしい妄想されてるなんて、気持ち悪いでしょ」
[悠心]「…………」
[絃葉]「……じゃあね、悠心。今まで、すっごく楽しかった。楽しかった思い出のままで終わろ? わたしはそうしたいの」
[命]「絃葉ちゃん……」
[絃葉]「ばいばい」
[友人2]「へぇ〜、やっぱマジでレズなんじゃん。気っ色悪〜」
[友人1]「やっぱ男と会うの頑なに断ってたのって、そういうことなんだ。へー」
[絃葉]「えっ……カリンちゃん、サナちゃん、なんで……」
[友人3]「悪い、口滑った」
[絃葉]「タツトくん……」
[友人4]「いや、神妙な顔して雨田が歩いてたから、物見遊山で覗いたんだわ。悪ぃな」
[絃葉]「ヨウマくん……っお願い、皆には言わないで……お願い……」
[友人2]「え〜? どうしよっかな〜」
[友人1]「言ったほうが身のためなんじゃない? “私はレズです、同性の友達を性的に見ています”なんて、私らから言っとかないとみんなも自衛できないじゃん。着替えの時とか、自分がズリネタにされてるかも〜、なんて気になって落ち着かないって」
[絃葉]「そんなことしないよ!」
[友人2]「どうだかね〜。下着姿とか、水着姿とか裸とか〜。男子が見れないところまで知ってる絃ちゃんがいるなら、自分が知らないところでオナニーに使われるの濃厚なんだし、そのくらいは言っておいたほうが双方のためなんじゃない〜? 最悪レイプとかされちゃうかも〜笑」
[命]「そんな言い方……!」
[友人1]「アンタも据わった目で見られてるかもよ?」
[友人2]「身近な人でオナるとかキッモ〜。綺麗な顔の裏にはドス黒い性欲が煮詰まってるんですね〜。あ〜気色悪〜」
[命]「違う! 絃葉ちゃんは、絃葉ちゃんは……!」
[悠心]「……なあ。お前らってあんまり可愛くねーな」
[友人1・2]「「は?」」
[悠心]「なあカネハラ、ハルカワ。お前らはそういうことする時、大体顔とスタイルで選んでるだろ」
[友人3]「お、おう。まあ顔は大事だな」
[友人4]「そうだな。見た目で選んでる」
[悠心]「じゃあお前ら2人は絃葉にとって“ナシ”だ。同じ理由でお前らのクラスメイトも、この学校中の誰もが“ナシ”だな」
[友人1]「はぁ? どういう意味?」
[悠心]「だってお前ら、私に似てないから」
[友人2]「……はぁ〜?」
[悠心]「こいつは物心ついた時から私しか見てないんだよ。お前らなんて路傍の小さな土くれだ」
[友人1]「土くれって……何それムカつく」
[悠心]「ムカつくってなんだよ。まさかお前は期待してたのか? 絃葉に性的に見られることを?」
[友人1]「違う! 言い方にムカついただけ!」
[悠心]「ははっ。アホとハサミはよくキレるって本当なんだな」
[友人1]「は? お前何? クッソムカつくんだけど」
[悠心]「道端に適当に積まれてる土くれなんてわざわざ見ないって言ってんだよ。それが分かったら失せろ。お前に絃葉の心を踏み荒らす権利はないってことがまだ分からないのかこのノータリンが」
[友人1]「あぁ!? ンだテメェマジでおいコラ! 図に乗んなよチビガキテメェ!」
[悠心]「同い年だが。こんな小さい奴に目ぇひん剥いてガチギレしてんのホント滑稽だな。笑えてくるわ」
[友人1]「はぁ!? テメェマジで殺すぞ!」
[友人2]「……ね〜カリン。もう面倒くさい。さっさとタバコ吸いたくない〜?」
[友人4]「顔やべぇってお前マジで笑」
[友人1]「あぁ!? オイコラ離せ! あのチビ1発殴らせろ! オイヨウマ、タツト! 離せ!」
[友人3]「悪ぃな秋月、邪魔したわ笑」
[悠心]「二度とそのツラ見せんなよー笑」
[友人1]「オイ雨田! テメェマジで明日から平和に暮らせると思うなよ! 学校中に言いふらしてや──」
《叫び声が遠ざっていく》
[悠心]「ふう。慣れないことすると疲れるな」
[絃葉]「……なんで、怒ってくれたの」
[悠心]「そんな顔してる友達を放っておけるか」
[絃葉]「……友達って、まだ思ってくれてるの?」
[悠心]「ああ。それか。もう友達じゃないかもな」
[絃葉]「あ……」
[悠心]「絃葉、改めて言ってくれ。私のことは性的に好きか?」
[絃葉]「うん。大好き。ずっと裸でくっついてたい」
[悠心]「ちょっとそれはまだ早いが。まあ、今日明日でそんな関係にならないことは確定してるが……私は、おまえの想いに応えたい。えぇと、その……付き合ってくれないか? 恋人として」
[絃葉]「悠心……?」
[命]「秋ちゃん……!」
[絃葉]「ぅ」
[悠心]「ぅ?」
[絃葉]「ぅ゙ぁぁぁぁん悠心ぃぃぃぃぃ!」
[悠心]「わぁ! いやデカいデカい重たい重たい! 私身体小さいんだぞ、ンな抱きしめられたら折れるわ! 潰れるわ!」
[絃葉]「ありがとう……大好き……悠心、大好きだよ……!!!」
[命]「(もらい泣き)」
[悠心]「面倒事もいざ
[絃葉]「うん! 絶対許さないから! 一生かけて償って!」
[悠心]「ははは。まあなんとなく、おまえとは一生一緒にいる気がするよ……」
[命]「よかったね、絃葉ちゃん……!」
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【ひとこと】
絃葉という人間をいちばん綺麗に書けた一話でした。
そして悠心、なんかきみレスバ強くない?
あ、応援コメントめちゃくちゃ募集中です。
少しでも良いな、悪いなと思ったら、感想をください。とんでもなくモチベになるので。
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