Let sleeping dogs lie ①
着いたトレント村は、廃村となっていた。
家々は砕け、破壊されたような箇所と火事が広がった区画とで分かれている。
それは単純な落雷などによる火事によって廃村になったのではなく、何者かの襲撃によって破壊されたのだと推測できた。
しかし、まぁ俺には関係のない話だ。
依頼内容としてはこの惨状を把握し、ある程度の調査をしてから帰るだけ。
その調査をライアと自衛団に任せたところで、俺はある事に気づく。
「…フェルトは、どこだ?」
気づけば視界から消えていた女を探して、耳を研ぎ覚ませると、村から外れた森のほうから人の声が聞こえた。
「…誰かと、話してるのか?」
無意識だった。
なんとなく、足音を殺して茂みに立ち入る。
木々の間隙を抜けて、声の方へ歩を進めると、そこには『死』が広がっていた。
「……マジかよ」
フェルトは、その心臓に刃を突き立てられ、綺麗な身なりの少女に身をあざけている。
胸部を貫通した刃は背から突き抜けて、足元には血だまりが広がっていた。
あの少女はなんだ?
この村を襲撃した犯人?
調査に来た俺たちを待ち構えて襲撃した?
点と点を無理やり結び付けようと必死に思慮を巡らせるが、どれも的外れなものだったのだと少女とフェルトの会話から悟る。
「……ミサ…隊長……どう、して……?」
「友達だから、だよ。フェルトちゃん。このまま戦線に捕まれば、君は全ての尊厳を奪われて、死ぬ権利すら失ってしまう。そうなる前に、死なせてあげたい」
「…うっ…がはっ…!」
フェルトは血を吐き出し、吐血がミサと呼ばれた少女の顔にかかってしまうが、ミサはそれを嫌がることなく、目を瞑ることもなく。
戦線?今、ミサは戦線といったか?
どこかで似たような名前を聞いたような…
「でも、安心して。君をここまで追いやった『守護者』は、必ず私が殺す。
守護者…?それも、どこかで…
そうだ、確か深層で、人型兵器が俺をそう呼んでいた。
あっ、そうか、人類解放戦線!
あの人型兵器は人類解放戦線だってライアが言っていたな。
なら、こいつらも人類解放戦線?
守護者って、まさか俺、じゃないよな?
「……守護者は……きっと、私たちが思っていたものじゃない…コアだって…アレは、人だった……」
「……え?何を言ってるの、フェルトちゃん?」
「…隊長……私は、もう一度…あなたと…」
最後まで言い切ることもできず、フェルトの全身から力が抜けて、ミサの体をなぞるように倒れこみ、刃が抜ける。
よく見ると、その刃は魔法少女のステッキのようなものから生えていた。
ミサは倒れたフェルトを苦しそうに見つめ続けている。
逃げるなら今だろう。
とりあえずライアにもこの事を報告しなければ。
そう思って一歩後ずさった時、運悪く小枝を踏み抜いて音が鳴った。
「誰だッ!?」
ミサがこちらへ目をやった瞬間、暴力的なまでの魔力の暴風が吹き荒れた。
ただこちらを見た、それだけで痛みすら伴う魔力の圧を感じる。
ミサと目が合って、俺は確信する。
こいつは、今まで出会った誰よりも、比べようもないほどに強いと。
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