41629




 協会の二階に上がっていくポールを傍目に、俺は掲示板を見に行く。

 大量に張り出された羊皮紙から依頼を探し、金払いの良いものを探した。


 十把一絡げに冒険者と言っても、全部で六つに区分分けされている。

 一級から五級、さらに五級の下に無級というものが存在し、これは協会の非常に優しい制度だ。

 無級冒険者は掲示板からの依頼を受けることができず、協会が斡旋した五級以上の冒険者に同伴し、一緒に依頼をこなさなければならない。

 これを計3回こなすことで五級に昇格し、同伴なしで依頼を受けられるようになる。

 冒険者としてのノウハウを先輩から教わり、またそれを後輩に教えることを強制しており、わけもわからず危険を冒して死亡する、という事を防いでいるのだそうだ。

 最も、受注できる依頼には級に応じた制限があり、四級までの依頼に危険なものはほぼない。

 荷馬車やイベントの護衛、非常に弱い魔物の駆除依頼等、安全に極力配慮している。

 だが、これらの区分分けは森人冒険者協会のもので、別の団体では違うこともあるそう。


 さて、肝心の俺はというと、何故かいきなり一級冒険者として登録されてしまった。


 結果、何もわからない。


 今見上げているこの掲示板、その見方も依頼の受け方も、さっぱりわからない。

 出来るなら俺も先輩冒険者に教わりたかった。

 結局昨日もライア任せに依頼をやらせたのだが、受付のお姉さんに怒られたらしい。

 どうやらライアは勝手に羊皮紙を持っていき、勝手に依頼を終わらせたそうだ。

 今度からは受付にまず羊皮紙を持ってこいと怒られ、しょげたライアが帰ってきた時は笑ったものだが、正直笑い事じゃなかったと今になって思い知る。


「むむむ…思ったよりも受けられる依頼が少ないな…」


「そうですね。わざわざお金を払ってまで冒険者に依頼したい出来事というのは、そう多くないのでしょう」


 羊皮紙自体はたくさん貼ってあるのだが、お知らせとか無期限の「討伐の証を持ってきたら換金するよ」ってやつとか、パーティーメンバー募集とか、とっちらかっている。


「これはもう、町に魔物を放ってマッチポンプをするしか……」


「アリ、ですね」


 二人で知能の低い会話をしていると、俺たちに気づいた受付嬢がフロントから声をかけてきた。


「あっ、ライアさん!と、そのお仲間の方、ちょっといいですか?」


 手招きされるがままに俺とライアが受け付けまで行くと、受付嬢は一枚の羊皮紙をカウンターに置く。


「見ていただきたいものが。これ、なんですが…」


「なになに……ほう?二級以上の冒険者への、合同依頼?」


 見せられたのは、かなり多額の報酬がかかれた、依頼書だった。


「依頼主は隣村の村長です。隣村には冒険者協会がないので、いつも依頼したい事があるとうちまで持ってきてくれているんですが、今回は毛色が少し違いまして」


「というと?」


「隣村とこのカルメン村、そしてトレント村という村が三つ巴の構図で近くにあるんですが、そこと連絡が取れなくなったので見てきてほしい、というものです。近くで一級クラスの魔物がいたとの報告も入っており、こういった必須要項が設けられています」


「二級以上の冒険者、三パーティー以上で、かぁ。報酬も三分の一って考えると、思ったより微妙だな」


 難色を示していると、横からライアがひょこっと顔を出した。


「ですが002、ちょうどいい機会なのでは?」


「ん?なにが?」


「ちょうど私たちも、冒険者のノウハウを知りたいと思っていたところです。三パーティーであれば余裕もあるでしょうし、技術を盗むチャンスですよ」


「確かに……」


「では、お二人ともお受けになるということでいいですか?既にこの依頼を受けると仰っているパーティーがいまして、その方が隣の酒場で待機しています」


「うーん…どうする?」


「私が決めていいのなら、受けてもよいかと」


「じゃあ、受けるわ」


「わかりました。では木札をお持ちになって、一緒に受けられる方と待機をお願いします」


 と、何やら番号のかかれた木札を渡され、俺たちは隣接している酒場に向かう。


 なるほど、この木札で誰がどの依頼を受け、それが終わったかどうかなどを管理しているのか。


 木札をローブの陰に投げ込んで、酒場を見渡す。


 朝っぱらから酒気を帯びたフロアには依頼を待っていそうな人物は見当たらず、吹き抜けの二階に視線を移した。

 すると、カウンターデスクに一人で座り、手持ち無沙汰に木札を持っている人物を発見する。


 回り階段を登り、俺はその人物に近づきながら話しかけた。


「よお。依頼を待っているのはお前か?」


 女だった。


 金髪に青い瞳を持ち、ちびちびと木樽ジョッキを傾けていた小柄な女は、俺を見るなり飲んでいたエールを吹き出す。


「なっ!?しゅごっ、ぶはぁっ!!?」


 咽たのか、女はしばらくせき込んだ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る