last but not least ②



「レムナント7番、10番」


 呼ぶと、俺の陰から二丁のライフルが出現した。

 わずかに形状の異なるライフルを握りしめ、四方から襲い来る魔物に照準を合わせる。

 それはまさに無双。

 殺してもキリがない虫共をこちらも無限の銃弾で弾いては体液が舞い、それを喰らい尽くしてまたも魔物が俺の行く道を塞ぐ。

 トリガーを引く指が痙攣してしまいそうな程撃ち尽くしてやっと、俺の歩みは大きな空洞にたどり着いた。


 十分大きな縦穴を降りてきたつもりだったが、しかし、その空洞の広さは比較にならなかった。


「なんつう広さだよ」


 天井は見えない。

 壁そのものが蠢いているかのように見えるが、それは全て魔物に埋め尽くされているためだ。


 俺が降りてきた縦穴は謂わば洞穴の一つで、深層への直通ルート。

 着地点から真っすぐに進んだ先は巨大空洞の壁穴に続いており、見晴らしの良いそこから全体を見回す。


「あれが、ライアか」


 奥、目を凝らすと、真ん中付近に魔物の合間を縫って漏れ出る光があった。

 あの光が、電磁パルスの光だろう。


「こいつら全部殺さなきゃ、取り出せそうにねぇな」


 一度この壁から飛び降りてしまえば、すぐにまた魔物に埋もれて一メートル先も見えなくなる。

 今のうちにこの空洞内の構造を把握しておかなければ、と時間をかけて見ていると、否が応でも目に映る巨大ミミズと目が合った。


 生で見ると、そのスケールに面食らう。

 物理法則に照らし合わせると自重で潰れて死ぬはずの巨体を、蛇のように動かして頭をこちらに向けていた。


「よぉ。タコみたいな口しやがって。自分の王国に侵入されんのが気に食わねぇか?」


 巨大ミミズの先は、タコの口とよく似た構造をしていた。

 一度その口に呑まれれば二度とは出られぬ、まるで釣り罠の返しのように牙が円形に生えている。

 その口を開き、言語化出来ない威嚇を吐き散らかした。


「来いよ。ボス戦だ」


 俺がそう最後まで言う事は叶わなかった。


 気づけば百メートルもあろう巨体が高速で迫り、その巨体で体当たりをしてきたからだ。


「ッッ!??」


 回避なぞ出来なかった。

 ただ物理的な質量に押しつぶされて来た道を戻り、尚も止まらず新たな横穴を自分の身体で掘り進んで吹き飛んだ。

 手足はひしゃげて、口は勝手に血反吐を吐く。


 耳鳴りが酷かった。


 

 今までの全ては夢だったのかと錯覚するような、虚脱感。


 全身から力が抜けて、岩石から舞う埃の香りが心地よかった。


 ただぼんやりと天井を見上げたまま、何日も経った。

 ような気がした。


「いってぇ……」


 ポツリと独り言を呟くと、これが現実だった事を思い出す。


 身体に無理やり力を入れて起き上がり、先ほどの十倍以上時間をかけてゆっくりと、壁穴付近まで向かった。

 すると、巨大ミミズは俺が死んだと思っているようで、もうこちらを見ずに元居た場所に戻っていた。


「脅威度を測定……ははっ。なんだこりゃ」


 脅威度10/10テン・オブ・テン

 勝率、1.2%。


 俺が脅威度を測定したせいだろうか、再び巨大ミミズに気付かれたようで、振り向いた奴と目が合った。


「……唆るじゃねぇの」


 笑って、俺はローブの陰に手を突っ込んだ。





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