True Eye 【season1】 -War 7- メーデーメーデー!こちら借金部隊!

【Phase1:イカれた連中】


季節は巡り冬が訪れた


私にとっては雪は見慣れた光景だ


私の出身はロシア,見ての通り雪国だ


寒さにも強い


強いってだけで寒いもんは寒い


さっさと自室へ帰りたいんだがこいつらが余計な事した所為で私は今外にいる


「綺麗ね…雪って……まるで空から降りてくる妖精みたい…」


「幻想的な光景だね,心が洗われるよ」


「……………」


「寒いから夜は鍋物がいいかしらね…寒い日には温かい物を食べなきゃね…」


「チゲ鍋がいいね…Vは何が食べたい?」


「口より先に手を動かせよ,さっさと終わらせてぇんだが?」


そう,この雪の降る真っ只中私達は鎌を手に持ち草を刈っている


「まぁまぁ…ほら雪だよ?風情があるじゃないか」


「そうだな,猛吹雪だもんな,こんな高速で移動する妖精がどこにいる?」


「ロマンがないわね…だからがさつとか言われるのよ?」


「樹氷の仲間入りさせてやろうか?シルヴィア」


何故こんな冬に草刈りをしなくちゃいけないのか


普通冬なら雑草は枯れてるはずだ


だが辺り一面生い茂ってる


それもそうだ


これ全部ミントだからな


栽培用にミントの種を蒔いたのはいい


管理が適当過ぎて拠点がミントに侵食される規模で生えまくってる


車輌の移動にも支障が出る程度にはな


「ったく…以前の一件で芝刈り機は使えねぇしよ…」


「そもそも雪の中で芝刈り機は走らないよ」


「お前死ぬか?荒川」


草刈りは定期的に行われている


だがこの草刈りにおいて使用禁止にされたものも幾つかある


火炎放射器は言わずもがな


そして芝刈り機に関してはソフィーが荒川を乗せて暴走させた所為で使用禁止の命令が下っている


ろくでもねぇ事しやがる


前々から時間のある時に全員でやろうとの事だったが最近はあまりにも忙しかったのでこんなになるまで放置されていた


雪の降っている中で普通やるか?って思うだろ?


本来ならやる予定じゃなかったがバカがバカな事やった所為でルイスは大激怒


連帯責任で全員こうして草を刈っている訳だ


終わったらあいつぶっ殺してやる


「Vは寒さに強いからいいじゃないか,私は日本の中でも南寄りだから寒さには弱いんだ」


「薩摩…だったか?イカれた連中のいる場所だろ」


「否定はしないよ,まともなのh」


「かき氷にされてぇか?」


ここで日本という国について私が知ってる範囲の話をしよう


日本は海に閉ざされた小さな国だ


そんな小さな国が何十年も前にアメリカと戦争をしていた


第二次世界大戦,当然私はその時産まれていなかったがその戦争の結末は日本の敗北


だが日本は諦めずに更に戦争を起こした,これが統一戦争だ


統一戦争の際に日本が軍の戦力として使用したのは妖


アレンや白狐の様なバケモノだ


両者甚大な被害を出しながらも停戦となったと聞く


妖と呼ばれる存在の数が極端に少ないのはこの戦争によるものらしい


私自身初めて出会った妖が白狐だ


雰囲気が人間とは違う


血液サンプルを取るまでは確証はなかったがこれが妖という生物の雰囲気という事が分かった


…話が脱線したな


日本が何故大国であるアメリカと互角の戦争を繰り広げたのか


戦力が妖という他にもう一つの要因がある


それが日本現首相であるグランドマザーだ


日本出身の隊員やルイスなんかは面識があるらしいが随分と元気な老婆らしい


だがその噂は私の耳にも入っている


第二次世界大戦で敗北した際に当時の首脳を殺してその地位を得たとか,妖相手に素手で完封したとか,水爆の爆破に照らされて歩いて来たとか


どこまでが真相かは不明だが日本が圧倒的な力を誇る要因になった人物には違いない


そして荒川も日本出身の隊員で薩摩という場所に住んでいたらしい


この薩摩出身の人間は総じて人間ではないレベルで戦闘力が高いらしい


かつての武士の生き残りだとか


「てか他の連中はどうした?数が少ねぇ」


「そういえばソフィー達は便利なものを作るって言っていたね」


「…咲夜もいねぇし問題起こされたら怒られんのは私だぞ…様子でも見てくるか…」


TE拠点/倉庫


便利なもんって事は恐らく芝刈り機の類だろう


禁止されてるのは乗るタイプの芝刈り機だ


だから十中八九作ってるのはディスクソータイプの芝刈り機だと私は思っていた


それがどうだ?


ディスクには違いねぇ


だが芝刈り機じゃねぇぞこれは


「…てめぇら何作ってんだ?」


「あ,闇医者」


「アレン,雪だるまになりてぇか?」


「…ヤクザ…」


「くくくっ…ヤクザ……」


「ホーキンス,指詰めるか?あ?」


「ごめんって…あまりにも似合いすぎて…」


「ったく……で,これはなんだ?ソフィー」


「英国が誇るユニークな兵器,パンジャンドラムよ」


「あぁそうか,兵器か,そりゃいい,で?こいつと芝刈りが何の関係がある?」


「根っこごと消し飛ばすのに便利でしょう?」


「地面ごと吹き飛ばしてどうすんだ?てめぇらさっさと表出ろ,こいつは廃棄だ」


こんなもん転がされた日には車輌庫が吹き飛ぶ


そして怒られるのは監視を任された私だ


それだけはごめんだね


「てかカレンはどこ行った?お前らの班だろあいつ」


「…さっき爆薬を持ってどこか行ったけど?」


「あ"?」


カレンと爆薬


何をしでかすのかもう分かる


分かった時には既に手遅れだ


ほんの数秒後に外から爆破音が聞こえてきたからな


「カレンてめぇぇぇぇぇ!!!ふざけんなよ!!!」


「いだだだだだ!!!なんなんすか!!見てください雪っすよ!」


「そりゃそうだよな!?猛吹雪だからなぁ!?」


「更に吹っ飛ばした雪で威力も増強っす!」


「誰がんな事やれって言った?あ"ぁ"!?土も降ってきてんだよ!!汚ねぇ雪になってんだよなぁ!?」


『…おいV,今し方爆破音が聞こえたが?』


「あー悪ぃ,不発弾が埋まってたらしくて処理した,何も問題はねぇ」


『…そうか』


「ほっ…不発弾の所為にしちゃえば問題ないっすね!」


「問題大有りだてめぇごるぁ!!さっさと穴埋めねぇとてめぇごと埋めんぞ?」


こいつら次から次へと問題起こしやがって


何で私が拠点監視担当に時に限って面倒ごとを起こしやがる?


監視役は文字通り隊員達の動向を監視する役割がある


だがそれもただの監視じゃねぇ


そもそも監視役なんてもんは無かった


何故そんなもんが出来たか


こいつらが問題を起こし過ぎるからだ


こんな事繰り返してたら島そのものが崩壊するのも時間の問題だ


だから監視役を決め,問題が起こらない様に監視するという決まりが作られた


問題を起こす側は当然だが監視役も監視不足でペナルティが科せられる


それは何か


単純に給料の天引きだ


起こった問題に応じて1ヶ月の給料からその分が引かれるって訳だ


これも監視役が適当な仕事をしない様にする為についたもんだが問題はそこじゃねぇ


当然給料が減るのは誰でも嫌だろ?


だから監視役は真面目に監視をする訳だ


だが当然監視役以外の奴はそんな事を考えねぇ


というより意味がねぇ


何故ならとっくのとうに給料という物が無くなってる連中が多いからな


私らは傭兵だ


そしてTE部隊は傭兵企業だ


当然隊員である私らはそこの社員という事になる


給料が発生するのも当然だ


TE部隊は世界政府との協力関係があるおかげである程度の備品や金も支給がされている


その為依頼の報酬はそのまま私達に還元される


任務に出ようが出まいが一ヶ月に受けた依頼の数でその都度給料が変動するが概ねそんじょそこらの奴らよりは貰えてる


隊長である咲夜や医療担当の私の場合は更に役職手当てが付く


ここまではいい


寧ろ普通に働くよりも稼げてるのは命の危険と隣り合わせというのもあるからな


問題はこっからだ


任務中に余計な被害を出すとどうなると思う?


ましてや一般市民への危害なんかもってのほかだ


傭兵として当然の決まりだ


だがそこら辺を理解してねぇ大馬鹿が一人いる


それがカレンだ


何でもかんでも爆発させやがって関係のない建物や車が吹っ飛ぶのなんか日常茶飯事だ


当然それは給料から引かれていく


そして給料以上にその被害額が超えたらどうなるか


当然給料が発生しなくなる


一応何も与えられない訳ではなく衣食住の保証と拠点内でのみ使える貨幣


私らは赤紙と呼んでる物が与えられはする


主に赤髪の馬鹿が与えられてる物だからって理由だが


他にも出した被害によっては3.4ヶ月給料が無くなる奴もいる


ただ暮らすだけなら赤紙でも足りるがそれで満足出来ねぇのがこいつらだ


だから私らは副業をする事がある


私の場合は医療関係の仕事をTE部隊とは別で請け負っている


同人活動や車関係やら…他の隊員も同様に何かしらの副業をしている


つまりTE部隊の給料だけで暮らしてる訳じゃねぇ


ここで話を戻すと,拠点内で問題行動を起こしたとしても副業の金があり,尚且つ既に赤紙になってるカレンやらは何年も給料が無い事が確定している


そんな奴が問題を起こすなと言っても聞くと思うか?


無理だ


しかも監視役にまでその被害がいくのなら喜んで問題行動を起こすだろうな


他人の不幸はなんとやら


笑ぇねぇぞ


「ったく…くだらねぇ事で給料削られたらたまったもんじゃねぇ…」


私自身は別に金に困ってる訳じゃないが無駄な事が嫌いだ


それに普段は私自身そんな暇じゃない


監視役なんか半年に一回あるかどうかだ


それこそ普段は咲夜辺りがその役割をしてるからな


だが咲夜不在の際は私がやる事になってる


面倒だが決まり事だから仕方ねぇ


だがその日に限って普段以上にこいつらは大暴れする


普段私が優しく任務の負傷の手当てをしてやってるのにどういう了見だ?


ったくイライラしてくる


まるで地面が揺れてる様だ


………あ?


「ひゃっはぁ!こいつで全滅さね!!」


「飛ばしすぎやよ〜」


「カーブで追い越せぇ!」


なんてこった


私は悪夢でも見てるのか?


雪が降り注ぐ真っ白な大地を三両の戦車が爆走している


悪い夢だ,そうに違いねぇ


ってんな訳ねぇだろうが!!!


「ルゥゥゥゥゥシィィィィィィイ!!!!!何やってんだてめぇぇぇぇえ!!!!」


「何って雑草撲滅運動?」


「どこの世界に戦車で雑草刈りする奴がいんだ?あぁ!?」


「根っこごとすり潰した方が楽じゃーん?」


「あぁそうだな,そいつは最もだ,人間も頭ぶち抜きゃ簡単だもんなぁ!?」


何を考えてやがるこいつらは


パンジャンドラムにC4,その次は戦車だと?


雑草の前にこいつらを先に狩りたくなってきた


さっきから胃が痛ぇ


ストレスがどんどん加速していく


『…今し方戦車が走ってるのが見えたが何事だ?』


「あー…雑草刈りに邪魔だったんで移動させてただけだ」


「…そうか」


てめぇも見てるだけでこっちきて手伝えよルイス


「ったく…こんなんじゃ一日掛かっても終わんねぇぞ……」


「あー割とすぐ終わるんじゃないかい?」


「何を根拠に言ってんだ?えぇ?戦車爆走野郎」


「アルが芝刈り機の代用を見つけたからね,アタシらはアルがやれない部分をやってただけさね」


「…で?アルはどこ行った?」


「ほらあそこ」


あー確かにあそこにいる


うん,間違いなくいる


が…何勝手にヘリを操縦してんだ?


こんな地面すれすれの高度で


「はぁぁぁぁぁぁあ!?」


悪い夢だ


絶対そうに違いねぇ


今私は何を見ていると思う?


ヘリのプロペラが地面に生えてる草を刈ってる光景だぞ?


これを悪夢と呼ばず何て呼ぶんだ?


いやまだ良かった


悪夢はここからだ


地面に接触したプロペラは機体ごと派手に吹っ飛び爆音と共に大破した


そりゃもう盛大にだ


直後ルイスの怒号が拠点に響き渡る


イカれた連中が!!


TE拠点/社長室


「…なんで呼ばれたか分かるな?」


「C4で地面吹っ飛ばしたからっすか?」


「パンジャンドラム作ったからかしら?」


「戦車レース?」


「ヘリ…ですよね…」


「あぁそうだな,全部だ,言いたい事分かるな?」


「いやぁそこまで褒めなくてもいいっすよぉ?」


「カレン,俺が労いの言葉をかけると思うか?」


「あれ,違うんすか?」


「…Vが付いてながらなんてザマだこいつらは…」


「おい,私に過度な期待すんな,こいつらがそれで大人しくなる訳ねぇだろ」


そりゃそうだ


私がこいつらを制御出来ると思ったら大間違いだ


「そうっすよぉ,しっかり監督しなきゃ駄目じゃないっすかぁ〜」


「あ"ぁ"!?誰のせいだと思ってんだてめぇ!!!」


「…まずソフィー,パンジャンドラムの製作に拠点の資材を使ったな?しかもそこそこの材質を,120000$天引きだ」


「任務に使えるんじゃない?あれ」


「あぁそうだな,更地を作るのにはな!次にカレン,C4の持ち出しと無断使用,吹き飛んだ地面の整地で合計200000$天引きだ,丁度これで約5年間給料が発生しなくなったな」


「新記録っすね!」


「誇るべき事ではないけどな?ルーシー,戦車の燃料費,地面の整地,そんでもって移動の際に車庫の扉の破損,合計で150000$天引きだ」


「意外と安く済んだね,これからも扉は突き破る事にするかねぇ」


「壊すなって言ってるんだ,何故こんな簡単な事が分からないんだ…そして最後にアル,改めて言っておくがヘリのプロペラは芝刈りに使用するものじゃない,おかげでヘリが一機使い物にならなくなった,ヘリ一機の値段2400000000$だ」


「………ハイ……」


この分じゃ大人になってもまだ給料は無さそうだなアルは


「そして監視役のペナルティも当然ある」


「あ?ふざけんなこいつらが勝手にやっただけだろうが!」


「まぁまぁ大人しく受けるっすよぉ」


「1人だけ言い逃れとはいかないわよね?」


「元はと言えばあんたがしっかり注意してれば防げたんじゃないん〜?」


「あわわわわ……」


あぁそうか


こいつら殺した方がいいな


きっとそうだ


「おわぁ!?いきなり発砲とか殺す気っすか!?」


「てめぇら全員ぶっ殺してやる!!!!」


「おいV…いくらなんでもやり過g」


「黙ってろ!!!!!」


あぁやっちまった


いきなり肩を掴まれるもんだから反射的に顔に蹴りを入れちまった


それはもう見事に決まった


その後の結果は言わなくても分かるだろ?


【Phase2:借金脱出計画】


TE拠点/地下独房


「はぁー…そんでお前ら全員ぶち込まれてるのな」


「酷いっすよね〜」


「いや,妥当だと思うけど?」


大問題を起こした連中は全員ルイスの逆鱗に触れてこうして独房にぶち込まれている


普段は敵兵をぶち込んでおくものだが時折懲罰房としてもここは使用されているって訳だ


「いや〜出掛けててよかったわ」


「あぁてめぇがいなかったせいで私もこのザマだ」


「ルイスに蹴り入れたらそうなるだろ」


「そもそもこいつらが生きてるのが悪ぃ」


「生半可な事じゃ死にそうにもないからなこいつら,医者なら余命くらい分からないのか?」


「来年だな」


「医者として?」


「いや,私が決めた」


もう可能な事ならこいつらぶっ殺してやりてぇ


「しかしまさかお前まで借金部隊の仲間入りするとは思わなかったなー」


借金部隊というのは問題を起こして給料天引きが発生した奴等のあだ名だ


こいつらに限らず問題を起こす隊員もいる


というより全員が問題を起こす


それでも尚物資や車輌等に直接的な被害が出ない場合は当然給料の天引きは発生しない


その為隊員間ではこの借金部隊というのはある意味差別の様な使い方をされている


当の本人達はそんな事気にしちゃいねぇが


「まー暫くしたら出して貰えるだろ,そんじゃなー」


咲夜は独房から去り再び残されたのは問題を起こしたとぶち込まれた5人


そしてもう1人


「…………」


先日捕らえた敵兵も独房の中に入れられていた


それぞれ別々の隔離房なのがまだ救いだろう


じゃなかったら今頃ここには死体が転がってただろうな


「やー…腹減ったっすねぇ」


「ここちゃんと掃除してる?汚いんだけど」


「ぐがー………」


「うるせぇ……」


こいつらと同じ独房じゃなくて心底よかった


今の私にこの殺意の衝動を抑える自信がない


「どうするかなぁ…」


「何がっすかー?」


「私はお前らと違って借金部隊に入るつもりはねぇ,さっさとこの借金をどうにかしねぇとならねぇんだよ」


私はこのまま借金部隊の仲間入りをするつもりはねぇ


借金を無くすにはどうするか


損失分を何かで賄えばいい


かといって任務で挽回はほぼ不可能だ


額にもよるが大抵は何ヶ月か給料無しで過ごす事になる


とはいえ最も手っ取り早いのは拠点への損害を出さずに真面目に任務をこなす事,これに限る


だが任務中にも出来る事はある


敵が使用している銃器,車輌等を鹵獲する事だ


私らTE部隊がそのまま流用する事もあれば引き取って貰ってその分の資金を得る事も出来る


それを返済に当てれば当然借金は減る


単純な事だ


とはいえ今はこの独房の中だ


何も出来ねぇ


「私なんか借金まみれで5年間も給料ないっすよー?」


「私は副業で賄えるくらいにしか問題起こしてないわね」


「それやめろって言ってんだよ,私にまで影響きてんだ」


「……僕どうしよう……やりたいゲームあるのに…」


「同じもんどっかから入手してくりゃいいだろ,つってもそんな簡単に手に入らねぇけどな」


「あの…いいですか?」


ここで口を開いたのは……誰だっけ,名前は忘れたが敵だ


別の独房にぶち込まれてる奴


しかも捕まえてきたのは私だしな


「えーと……何か訳ありの様なので…ちょっと耳寄りな情報というか…」


「殺されてぇのか?てめぇ自分の立場分かってんのか?」


「まぁまぁ…話くらいなら聞くのもありっすよ?」


まぁ他にする事もねぇし聞くだけ聞くのもありか


「言ってみろ」


「えーっと…ブレイク部隊って知ってます…?」


「あぁ,連中か」


ブレイク部隊


私達TE部隊と同じ傭兵企業の一つだ


このクソッタレな時代に傭兵企業は腐るほどある


だがその全てが必ずしも真っ当な傭兵とは限らない


その力を悪用する奴等も存在する


ブレイク部隊もその内の一つだ


連中のやり口は単純で兵器を用いた殲滅を好む


その為甚大な被害をもたらす部隊として知られている


過激な傭兵組織は数多いが保有する兵器の数はその中でも群を抜いている


「それで…先日ブレイク部隊が世界政府の施設に被害を与えたらしくて…」


「…で?」


「…自分達は確かに世界政府と敵対してる組織ですけど…ブレイク部隊も自分達同様に世界政府を敵視してます…つまりですよ?ブレイク部隊を潰して兵器もパクっちゃえば一石二鳥……なーんて…」


「…………」


なるほど,その情報が確かなら世界政府から見ればブレイク部隊は邪魔な存在な訳だ


尚且つ自己的な傭兵組織を一つ潰せる


連中の兵器も鹵獲出来れば報酬上乗せも可能だ


「だそうだ,てめぇらどうする?」


「やるしかないっすねぇ!」


「憂さ晴らしにはちょうどいいかしら?」


「僕も…借金暮らしは嫌です…!」


さて,やる事は決まった


あとはここからどうやって出るかだ…


「わー本当に捕まってる」


「なんだ美香,見せもんじゃねぇぞ」


「えー?だって話題になってますよ?猛獣が捕獲されてるみたいだってー」


「殺すぞ」


「まぁまぁ私の目的はこっちじゃないですし〜?カレンいる〜?」


「いるっすよ〜?」


人を動物園のライオンかなんかだと思ってんのか?


どこまで私の神経を逆撫ですれば気が済むんだこいつらは…


しかしブレイク部隊を潰すのは決まった


問題はこの独房から抜け出して尚且つルイスに気付かれる前にどうやって拠点から出て行くかだ…


「あはっ♡あんっ♡」


「いいっすねぇ♡たまにはこういう場所でするのも♡」


「てめぇら何やってんだぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」


マジでこいつら何やってんだ?


急に来たと思ったら独房でレズセックスとか正気か?


しかもここにはアルがいるってのに…


……あ?独房の中に入って?


「おい美香,鍵どうした?」


「んー?パクってきちゃった」


鍵の管理はどうなってんだ


独房の鍵を管理してるのは私とルイスだけだぞ


ん……?


「…お前その鍵どっから盗んできた?」


「社長のオフィスだけど?」


「ルイスはどうした?」


「外出中みたい」


これはチャンスだ


独房の鍵はここにあり尚且つルイスも外出中


出て行くには絶好の機会だ


「おい美香,やる事やったら鍵置いて出ていけ,腹減ってんだ,飯食ったらまた戻る」


「んーそれなら別にいっかー」


やる事やったら独房からそそくさと立ち去って行く美香


本当にヤりにきただけかあいつ…


ルイスは不在,鍵は手にある


残りの問題は他の連中に気付かれないようにするくらいか…


…いや?別に気付かれたとしても問題はねぇか


「…………」


「…………」


「…………」


「おい…てめぇ何でここにいる?」


「見学」


次から次へとやって来やがる


しかも今度はなんだ?


ポテトチップス食いながら独房にぶち込まれた私らの見学だと?


このガキ…


「動物園みたい」


「アレン…悪い事は言わねぇ,ここから失せろ」


「やだ」


トコトコと歩きながら独房に一枚ずつ紙を貼っていく


なんだ?何が書かれてる?


「ぷっ…V……猛獣だってさ…!」


「あ"?」


どうやら紙には猛獣と書かれているらしい


そういやこいつ文字の練習とかで色々なもの書いてたな…


「カレンは…可燃物?燃えるゴミかな?」


「そういうソフィーは白髪ネギっすよ?」


「ルーシーは……あぁ納得,ゴリラだし」


「で…アルは……マッシュルーム?」


「あー…白髪だもんな」


「白髪ネギ,お似合い」


「…アレンくん?また遊びたい?」


「お前ここから出れない,ざまぁみろ」


あーあ,ソフィーが静かにキレてら


私には関係ないがな


とりあえずさっさとここから出て目的の場所へと向かうか


「…アレンくん,これ以上はおすすめしないわよ?」


「お前囚人,無様」


「………最後の警告よ?」


「ベーっ!」


「ったく相変わらず仲良いな,ほら鍵」


「…ありがとうV」


鍵を渡して独房から出てくるソフィー


表情は変わらないがキレてる


「……ごめんなさい」


「…………」


一瞬こいつ本当に人間か?って思った


そりゃそうだ


予備動作無しのラリアットがアレンに炸裂したからな


気絶したアレンを独房の中に入れながら他の連中も独房から出てくる


「で…どうするっすか?」


「とりあえず上に行くか,空気が悪ぃ,ここは」


TE拠点/モニタールーム


「あ,お疲れ様ですー,釈放ですか?」


「どちらかというと脱獄だな,私らの事は黙っておけよ,凛」


「会話聞いてましたから」


「…独房にまでカメラ仕込んでんのかてめぇ…」


相変わらず盗撮が趣味な様だなこいつは


「えーっと…一応輸送機の方は空いてるんですけど…どうやって持ち帰るんですか?」


「あー……」


そういえば持ち帰るにしても手段がねぇな


運転はルーシーに任せりゃいいが私や他の奴はそこまで経験がある訳でもない


そもそも免許もねぇしな


ブレイク部隊の連中を片付けたとしても兵器を持ち帰るにはどのみち運転手は必要だ


かといって他の連中はそもそも借金がねぇから着いても来ないしわざわざ説明も出来ねぇ


慣れない奴が運転して事故なんか起こした日には更に借金が増える結果になる


「お邪魔〜」


「邪魔するなら帰ってください白狐さん」


「この前はごめんて〜」


「…………」


あぁいたわ


ちょうどいい奴が


「よぉ白狐,手を貸してくれねぇか?」


「何本?」


「切り落として生えたやつも含めるか?」


「おーおー相変わらず物騒だね」


白狐は妖だ


正規隊員ではないが時折拠点に現れては遊んで帰っていく,まぁ協力者な訳だ


そんでもってこいつは空が好きなのかよく戦闘機に乗っている事が多い


「なーるほどね,つまりパイロットが欲しいんだ」


「一機でも多く持ち帰りてぇからな」


「でもそれだったら亜空間にしまって持ち帰った方がよくない?こんな風に」


「きゃぁぁぁぁぁぁあ!!!!!なんでタコがいるの!?」


「ん?タコ嫌い?」


「ぬめぬめしたのだいっっっっっっきらいです!!」


うるせぇ…


とは言え,確かに乗って帰ってくるよりかは亜空間を使用できるのならその方が更に多くの兵器を持ってこれるな


「んで?報酬は?」


「人間」


「やった〜♪」


人間与えておけばこいつは言うことを聞く


人間というより人肉


「でも片付けはそっちでやってね?あんまり暴れてるの見られたくないからさー」


「あぁそこら辺は私らに任せろ,多少は働かねぇとな」


というのは建前で白狐を消しかけて奴らを壊滅させるのは容易い


だが世界政府と相性の悪い白狐がその存在を晒すような事をするのは賢い行いとは呼べない


更にいえば私らが壊滅させれば世界政府の連中に恩を売れる


いずれ役にたつだろう


「さて…てめぇら準備はいいか?」


「いいっすよ!」


「準備出来てます!」


「こっちもばっちりよ」


「輸送機もばっちしよ」


「んじゃ行くか」


さて,さっさと連中をぶっ潰してくそみてぇな理由で付けられた借金を消すとしよう


軽い気持ちで向かった訳だがこの後あんな事になるなんてこの時私達は予想もしてなかった


「………あれ?何かモニターに変な影が…」


【Phase3:傭兵と呼ぶにはあまりにも強奪的だった】


ブレイク部隊/拠点


「連中随分と色々なもん抱えてやがるな」


「随分と見かけないもんまであるねぇ」


「あれ全部吹っ飛ばせばいいっすか?」


「何言ってんだてめぇ,私らが来た理由を忘れたか?」


「あぁ,そういやそうっすね」


「目的って…ブレイク部隊の殲滅ですよね…?」


「あ?兵器の強奪だが?」


この時既に私らは傭兵で来たのではなくただの強盗となっていた


金は人を変えるとは聞くがその気持ちがよく分かった一件だった


「…ところで今回作戦指揮は誰が取るの?」


「………」


「………」


そう


いつもなら作戦の指揮は咲夜,偵察任務ならソフィーが取っている


しかし今回は咲夜は不在,偵察任務でもないからソフィーが指揮を取ることもない


つまり…


「作戦なんかねぇよ,黙れよ」


作戦なんかない


とりあえず連中を皆殺しにして兵器を強奪するだけだ


「いくぞてめぇら,勝手に死んだら殺す」


「いやぁ何も縛られないっていいっすねぇ!」


「腕がなるねぇ!」


「援護は任せて」


「僕だって…!」


全員一斉にバイクで拠点へと走っていく


傭兵というよりもゲリラ部隊の動きだ


闇夜の奇襲は一定の効果を発揮する


ましてやここにいる奴等は兵器での戦いに慣れた連中


ならば兵器に乗せなければいい


まず制圧すべきは兵器の置かれている場所だ


「カレンとアルは倉庫へ迎え!数が数だ,多少吹き飛ばしても構わねぇ,連中を何があっても兵器に乗せるな」


「「了解」」


「ルーシーは私と来い,制圧したら好きなもんに乗って蹴散らせ,ソフィーは後方から連中を消し飛ばせ」


「「了解」」


作戦と呼べるもんはねぇ


だから重要なのはスピードだ


「おーおー,連中何が何でも兵器に乗りたがってるな」


「んだぁね,兵器盾にしてるだけで連中攻撃の手を緩めるよ」


「そんなに兵器が大切か?何はともあれチャンスだ」


兵器を盾にして一人一人片付けていく


所詮兵器は兵器,消耗品だ


それを盾にされたくらいで攻撃を止めるなら連中の程度が知れる


(随分と数が少ねぇ…拠点の防御が疎かじゃねぇか?)


見える範囲で敵兵の数が少ねぇ


理由はどうであれ私達にとっては都合が良い


「あいつ随分と好き勝手やってんな…」


「多少は吹き飛ばしてもいいって言ってたのあんただしいいんじゃない?」


「最低限借金分は持ち帰れれば問題ねぇ」


「んじゃあたしもあっちのやつ乗っていいかい?」


「あれは…歩行兵器か?」


「あんなの見たこともないからね,腕がなるねぇ」


『こちらソフィー,どうやら私達以外にも部隊がいるみたい』


「あ?詳細は?」


『不明…だけど中国人みたい』


「中国だぁ?」


中国の部隊が何故ここにいる?


敵兵の数が少ないのも中国の部隊がいる所為か


敵の敵は味方


利用しない手はない


『はっはっは!こいつはいいねぇ!』


ルーシーが歩行兵器に乗り込み攻撃を始める


その性能は見て分かる通り凄まじい


こんなもんまで保有してるとは知らなかったが…


「カレン,アル,聞こえるか?一気に片付けるぞ」


制圧に時間はかからず呆気なくブレイク部隊は壊滅した


「随分簡単に壊滅したな連中」


「こんなもんっすか?ブレイク部隊って」


「呆気ないねぇ」


「おつかれ〜,早かったね」


「よぉ白狐」


「まぁここは奴等の拠点の一つだから早く終わるのは目に見えてたけどね」


「あ?ここが拠点じゃねぇのか?」


「んー?ブレイク部隊って兵器専門の部隊でしょ?使うもんが使うもんだから拠点は複数あってね,その内の一個だよここ」


つまりここは拠点の一つに過ぎず連中を壊滅させたとは言えないということか


てか知ってるなら先に言えよこの狐


「まぁでも目的はここの兵器の鹵獲でしょ?」


「まぁそうだな,つっても暴れ過ぎてぶっ壊れたもんも多いがまだ残ってる兵器を回収してくれ」


「あいよー」


「……そういやソフィー,中国の部隊はどうした?」


「そう言えばいつの間にかいなくなってたわね」


「エンブレムは見たか?」


「そこまで見てないわよ,ただ顔と武器を見れば中国の部隊と分かったからね」


「中国…ね,なんでそいつらがここにいたんだい?」


「さぁな,傭兵同士の潰し合いなんか珍しいもんでもねぇ,たまたまだろ」


「…けど妙じゃない?」


「妙?」


「私達は偶然ブレイク部隊の拠点に襲撃を仕掛けた,そしてそこには別の部隊もいた,けれど先日もそうだけど偶然が多過ぎない?」


「何が言いてぇ?」


「…別に,仕組まれていたんじゃないかって話よ」


「心配し過ぎだろ,前回は確かに得体の知れない奴の依頼でVSTC,雷鳴重工がその場に集まってただけだろ?だが今回は私らは捕まえた奴の情報を聞いてここに来たんだぞ?」


「…一応聞いてみたら?」


「あぁ,念の為にな」


「とりあえず回収終わったよ〜」


「んじゃ一度帰るか,借金分くらいは回収出来たろ」


TE拠点/ヘリポート


既に日が昇り始めている


まぁ深夜に出て行ったから当然と言えば当然か


「…………」


「よぉルイス,少しばかり出掛けてた」


「その様だな,無断での出撃は厳罰だぞ,V」


「無断?私はしっかりと凛に出掛けてくるって言ったぞ,伝達ミスじゃないか?お前が外出してなければ直接伝えたんだがな」


「…まぁいい,報告を頼む」


「ブレイク部隊の拠点一つの壊滅,情報は独房にいた奴からのものだ,世界政府とも敵対関係にある部隊だ,潰しておけば恩を売れるだろ?」


「それはこっちでも確認した,確かに連中は世界政府と敵対している,恩も売れるだろうが俺達も連中に目を付けられる事になった」


「遅かれ早かれ敵対するなら問題はないだろ?」


「そうだな,問題はない」


「あぁあと土産がある,白狐」


「あいよー」


ブレイク部隊から鹵獲した兵器が次々に取り出される


ヘリや戦闘機,戦車,そしてルーシーが乗り回していた歩行兵器


「ほぅ…確かに俺達にも有用な兵器があるな」


「だろ?借金返済にあててくれ」


何はともあれこれでこれで借金分は稼げただろう


私はそれだけでも満足だ


「おかえりー」


「あ?なんだアレン釈放されてたのか」


「おかえりー」


「おかえりー」


「おかえりー」


「……あ"?」


なんだ?寝不足で幻覚でも見てんのか?


アレンが10人に見えるんだが?


「おいルイス,何かの悪い冗談か?」


「あぁこいつらか?アレンの同胞だそうだ」


「もう少し詳しく教えてくれ…」


「アレンは狼から人型になって妖なのは知ってるだろ?そんで狼の時代にも仲間がいた訳だ,そいつらも妖化してこっちに集まってきたって訳だ」


「分かりやすい説明どうも,んでこいつらはどうすんだ?」


「拠点には置けないから島のどっかにでも住まわせてやるつもりだ」


要はアレンが増えたと


私らがいない間に随分と妙な事が起きてるもんだ


「あ,白髪ネギ」


「白髪ネギだ」


「野蛮人」


「ふふふふふ…」


あぁソフィーの奴がまたキレてる


そりゃそうか


1人でもイライラする奴が10倍になってるんだからな


「…ふむ,V,ソフィー,ルーシーの借金分の補填が出来たな」


「カレンとアルは?」


「カレンの借金はそんなもんじゃない,アルも今回持ち帰ってきた兵器分で減額は出来たが少し足りなくてな,20000$残った」


「20000$の少年兵って事か」


「そんなぁ…」


「それでも一ヶ月働けばすぐに返済が出来る額だ」


一先ず私の負債は無くなった


それが一番重要だ


借金部隊なんて呼ばれてたまるか


「あとはこいつが……」


「……どうしたルイス」


「何者だ?」


回収してきた兵器


その中の一台のヘリ


機内に誰か入り込んでいる


「V…確認はしなかったのか?」


「回収したのは白狐だ,文句ならあいつに言え」


まさか敵が紛れ込んでいたとはな


さっさと始末しちまうか


「撃たないでー…私…降参するアル…」


「…確か拠点で見かけたわね,あの赤髪の子」


「敵か?」


「いえ,中国の部隊の人よ」


確かに持っている武器は中国製のものだ


つまり運悪く兵器ごと回収されちまったって事か


「んで白狐はどこ行った?」


「呼んだ?」


「……お前何食ってる?」


「独房にいた奴」


あー…まだ聞きたい事があったんだが…


まぁいいか


今は目の前にいるこいつの方が重要だ


「大人しくしてろ,所属と名前を言え」


「アイヤー……本当に撃たないアル?」


「撃たねぇから出てこい,殺すぞ」


「……鈴々アル,所属は中国解放軍アルよー」


「………美香」


「はいはい…えーと…確かにデータベースにあります…中国解放軍…テロリストですね…」


「違う違う!私達は中国政府から中国を解放しようとしてるだけ!」


「お前さっきまでアルアル言ってたのはなんなんだ?」


「中国人っぽいかなって…」


「…どうする,ルイス」


「まぁ結果はどうであれ彼女は不幸にも拉致された身だ,少しばかり話を聞くのもいいだろう」


ったく,とんだ土産を持ってきたもんだ


-Next war-

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