第58話コトバノチカラ

演説ルーム内


ラフな格好の総理がカメラ前に立つ


「よし…大丈夫そう…国民の皆さん こんばんわ~ 夜分遅くにすいませんね~ハハハ

まぁ 皆さん寝てますよね…こんな深夜…

いや〜少し話したくなってしまって…観ていただいてる方は少ないと思いますが

チャンネルは そのままで…

あっ…これは1度言ってみたかっただけです…ハハハ」


…………………………………………………


その頃 先に副総理と警備員2人が演説ルーム入口に到着する…


佐藤「はぁ〜? どうなってるこれは…」


演説ルーム入口のカードキースキャナは

薄い鉄板3枚重ねで四つ角にスリムビス…プラスのネジクギでとめられている…完全に塞がれカードをスキャン出来ずドアが開かない…

そこに番場も到着する…

番場「何してる? 早く開けろ!

って なんだこれは…」


佐藤「コッチが聞きたいわ…何考えてる…アイツは? おい…お前ら…警備室にプラスドライバーとかあるのか?」


警備員「多分工具箱があるので入ってると思います…」


佐藤「全部言わせるな…急げ…」


警備員は慌てて2人で警備室に走る


堀田は自宅で意味が わからず ただ演説を観ている


…………………………………………………

演説ルーム


「いや〜今日はですね~私が上京したばかりの頃を少し思い出しちゃって…その時の話をしようと思います…ちょっと住所は言えませんが私が暮らしていたアパートの町内に ある日 新しく保育園が建設される事に なったんですよね~

私は その土地を見て あ〜そうなんだ~

くらいの気持ちでした…毎日通る道だったので視界に入ってたんですが いつまで経っても工事が始まらない…不思議に思って調べてみたんですよ…そしたら建設中止になっていたんです…中止理由も載ってたんですが びっくりしました…騒音問題って理由でした…工事の騒音ではなく近所の方々が 子供の声が ウルサイからと反対したそうです…信じられますか? 子供の声が騒音?

私は 驚きと悲しみと怒り 色んな感情が湧きました… こんな人間には絶対なりたくない…自分が子供だった頃 外で遊んでなかった人ならば あり得るのか?そんな子供時代 送った人いますか? 本当に嫌な世の中になりましたね… 」


…………………………………………………


演説ルーム入口では 警備員がプラスドライバーを持ってきた…急いで回し始める…

外の騒ぎで起きてきた荒井秘書が合流する


番場「何してるんだ…電話に出ろ馬鹿野郎が…いる意味がない!」


荒井は動揺している

荒井「申し訳ないです…熟睡してました…何か手伝える事は?」


番場「ない!」


…………………………………………………

演説ルーム


「いや〜嫌な思い出ですね…

そうなんですよね~言葉って集まると時に力を持つんですよ…………………………

私にはね~とても優秀な いつも支えてくれている大切な仲間達がいるんですよ~

こんな馬鹿な総理を支える大変な仕事です…彼女達がいなければ私は路上生活者を救う事も出来なかったと思います…」


しばらく黙り込む…そして再び話し出す


「……………3年前に1人の議員さんが亡くなったんです…」


…………………………………………………


堀田は自宅で ずっと観ているが総理が 話そうとしている内容が自分に関わる事だと気づき体が硬直する…


演説ルーム入口では3本目のネジクギが外れたが スキャンしきれないようで 最後のネジクギを回し始める…


番場(くっ…何を話す気だ…)

「早く開けろ〜」


…………………………………………………


「それは私の仲間の旦那さんです…聞いた話なので真実は 分かりませんが贈賄罪の疑いが かけられたそうです…恐らく彼は無実の可能性が高かったようです…ただ疑いの段階で世論は徹底的に彼を叩いた…皆さん少し勘違いしているかも知れませんが この国の法律では逮捕された段階では推定無罪なんです…

刑事裁判で有罪が確定するまでは『罪を犯していない人』として扱わなければならない…

彼は逮捕もされていない…無実だったかも知れない…しかし彼は自ら命を絶ってしまった…分かりますか?

皆さん1人1人の軽い気持ちで放った言葉…SNS等での つぶやきが 集まると人の命を奪う事があるんです…」


…………………………………………………


警備員「全部外れました。カードキーお願いします。」


番場がカードキーをかざす

やっと反応してノブを回しドアを押す…

が 開かない…

番場「どう言う事だ?開かない……」


佐藤「カードキーは反応してたぞ…もう1度やってみろ…」


番場は もう1度試してみるが開かない…が

そこで気付く…


番場「私では無理だ…男3人で押してくれ

全力でだ…荒井さん 少しは役に立て

念の為 門の前いる警備員の男2人今すぐ連れて来て 私は外の警備員との通信手段を持っていない…ダッシュでだ…」


荒井秘書は すぐに走り出した


佐藤「くおおぅ~お前らも全力で押せ〜

なんだ?少しだけ動くぞ…だが1ミリ動いたか? 番場 俺の背中を押せ!」


演説ルーム入口ドア内側には台車にストッパーをかけ大量の鉄アレイやウエイトが山積みに積まれていた…


…………………………………………………


「私の政権が始まって約9ヶ月…しかし私が彼の死を知ってから まだ1週間も経っていません…知りませんでした…彼女は普段 表情豊かな素敵な女性です…ただ彼女が彼の遺影を見ている時の顔は今まで見たことの無い暗く重い表情をしていました…

私は その時どうしたと思います?

…………何も出来ませんでした…かける言葉も見つからず その場の空気に耐えられず逃げて来ました…我ながら情けない…

きっと彼女の時間は3年前から止まっているんだと思います…彼女は誰に その怒りや悲しみを ぶつければいいんですか?

特定の犯人がいないんです…誰を恨めばいいんですか?」


演説台を両手の拳で強く叩く


…………………………………………………


演説ルーム入口に荒井秘書が男性2人を連れて戻ってきた


佐藤「押す場所が足りないから 背中を押してくれ〜 うおおぅ〜 くっ…完全に開けるのは無理だ…番場が入れそうな隙間まで開けるぞ」


…………………………………………………


演説台に手をつき目には涙が浮かぶ


「私は彼女に なんて声を かければ良かったんですか? 誰か私に……」


感情のコントロールが 出来ずに涙が こぼれ落ちる


「誰か僕に…教えてください………

こんな権力(チカラ) なんの役にもたたない…………」


うつ向き顔を隠す

涙を拭い 再びカメラに顔を見せる…

いつもより鋭い目つきになっていた…

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