あなたが総理

石川ダンジ

第1話 2035年

1月9日

築30年1Kのアパートに暮らす一般市民

萩原タカシ

この日が誕生日で

ついに45歳 高身長で 痩せ型 顔も悪くはなく 人生で モテ期が3度ほどあり、子供の頃は女の子みたいにキレイな髪で色白

将来はアイドルになれるのでは?と言われるほどの男だった。

残念なのは見た目とは裏腹に運動神経は悪く、頭もクラスで1〜2位を争うくらいバカだった。

小 中 高 と学生時代は その見た目の為1年の一学期はモテるが二学期の頃には中身がバレて皆 離れて行く残念なヤツだ…

社会人になり、交通事故で死にかけた時 頬に キズをおい 病院に運ばれ緊急手術が始まる頃 慌てて駆け付けた母親が 薄れゆく意識の中 「アナタの取り柄は顔だけなのに〜 …」と錯乱してたのを時折り思い出す……

アナタは、やれば出来る子よと言われ

その気になって努力した事もあるが、見えない壁が あるようで 人生で 1度たりとも

1番になった事はない……

様々な職にチャレンジしてみたが 繊細な事は不器用で 不向き 単純な事は飽き性で不向き

1度だけ 夢を持って上京したは いいが 夢やぶれ 人に騙され 人間不信になりながらも田舎に帰ることも出来ずに 彷徨い続けた結果 たどり着いた現在の仕事は配送業…

最低限の人付き合い と 車内という1人の空間が 居心地よく 恐らく これが私の天職なのだろう。

人生山あり谷あり 実感では8割は谷だった気はするが 今さら考えて足掻いたとて

遅い気がするし残り半分の人生を惰性で生きる。 きっと来世は 幸せな日々になると信じて生きていこう。

趣味だったパチンコは5年ほど前に完全禁止となり今ではカジノが出来たはいいが 庶民が手を出せるレートの店はなく上級国民か外国人観光客 しか出来ない時代になってしまい、

現在の趣味と言えば バラエティ番組とアニメくらいになってしまった……


早朝4時 起床 子供の頃は寝坊が 当たり前だったのに歳をとると不思議なほど起きられるようになったものだ。


( あ〜ダルい1日が また始まった…)


食事も取らず、すぐさま着替えアパートを出る

100メートルほど離れたコインパーキングに仕事 プライベート兼用の軽バンが 止めてある為 気だるい身体でノロノロと歩く…

今では地球温暖化が進んだのか1月の早朝でもフロントガラスが凍りつく事もなく私にとっては、有り難い

とはいえ寒いものは寒い……


(あ〜ぁ…また1人増えたな……)


寒空の下 歩道に 並ぶダンボールで作られた小屋のような物…

コンプライアンスが厳しい社会で バカな私には他に言い方は わからないが いわゆる

ホームレス…社会的弱者である……

かつては都心部のトンネルなど屋根のある場所でしか存在しなかったが 今は至る所に…後10年も すれば子供の頃好きだった

アニメの世紀末が くるのではないか…と

思うほどに増え続けている…


( いつから こんな国になったのだろう?)


治安は当然悪くなり犯罪は年々増加…


仕事、アパート、ご飯 食べられるだけでも私は恵まれてるのだろう…

恐らく国民の1〜2割くらいは すでに住む家さえ失ったのでは ないだろうか……

心の奥底では少しでも助けてあげたい…

ご飯だけでも…と思う事も あったが 所詮

私は偽善者…行動に うつすことなく 今に至る…

国が なんとかしてくれるだろう…


(よし! 今日も1日ほどほどに頑張って

帰ったら ため込んだアニメ イッキ観しよう)


エンジンをかけ いざ出発!

流れる景色は いつもと同じ…

早朝の 薄暗い道を走ると大手企業のコンビニと牛丼屋くらいしか明かりはない…

上京するまで眠らない街と聞いていたが現実は違った


「おはようございます」


事務所の50代くらいの女性が おはよう

と返す…

長い付き合いなのに名前も知らない…

伝票を受け取り荷物を積み込む……

隣で積み込む60代くらいの先輩ドライバーに 今日はどう? 荷物多い? と声を掛けられ

「おはようございます いつも通りですね…」と返す

もちろん名前は知らない…

これで1日の会話は ほぼ終わったも同然…

配達先も全て置き配で人と会うこともない…

飽き性の私が1年以上 同じ現場に いれたのは これくらいの人との距離感が1番ストレス感じないと気づいたからだ…

個人宅の配達だと こうは行かないので早朝のルート配送

5時〜12時までの居酒屋への肉の配送で

鍵は預かってるので誰とも会わずに配達が可能で この仕事が ある限り 死ぬまで働こうかと思う…

これでギリギリの生活は出来るが体力が少しばかり余るので フードデリバリーを午後から開始する…

もちろん極力 人と接しない宅配ロッカー付きの飲食店と置き配達希望の客を選ぶ…

自由な時間で小遣い稼ぎ…

プライベート重視…最高な生活だ

日が落ちてきた…


(今日は両親さえ忘れてるが一応誕生日だから少し豪華な惣菜でも買って1人で晩酌だ…) と、下戸で1滴も呑めない自分にツッコミながらスーパーで惣菜と幼い頃から毎日かかすことなく 飲んでいる大手メーカーのコーヒー牛乳を購入…

いつものコインパーキングは19時まで夜間料金に ならないので近隣で待機…


(やっとアニメが観れる)


テレビはバラエティ番組以外 観ることもなく ネット配信の映画やドラマを たまに観るくらいの自分が こんな年齢でアニメに夢中になるとは想像もしてなかったが ずいぶん

進化したものだ。

大人が観ても面白いアニメが こんなにあるなんて どれだけ時代に置いていかれていたのか…

最近は タイムリープ系アニメに夢中だ。

VR メタバース技術も今では当たり前になったが三半規管が弱いのか私には合わず従来の観かた しか出来ないのが少し残念ではあるが……

自宅まで歩く…電柱の灯りだけで薄暗い道を進むとアパートの前に車が停車してるようだ!

まだ距離がある為 よく見えないがハザードの点滅が周りを照らす…


(なんだ…同業者か?あんな場所に停められたらアパートに入れるのか? もう少し考えてほしいものだ)


近づくにつれ同業者ではない事に気づく…

少し大きめの乗用車?普通車? 配送業なのに車には全く興味がなく車種など まるで知らない…次のハザードの光で ほぼ全貌が見えた!

あきらかに この場に不相応な高級車である事は わかる

最近は 見かける事ないフェンダーミラー

の車だ…

ドアが開き2人おりてきた

スーツ姿の女性と明らかに私より大きな男性のシルエットが見える


こちらに向かってくる…間違いないだろう…私に用があるようだ…


(に…逃げるべきか? 警察? 入れ墨がある系の方か…?一般市民には見えない…!)

(まるで身に覚えは ないのに逃げるのは おかしいな…)

平穏な暮らし 以外 何も望んでないのに嫌な予感しかしない…


「お帰りなさい。萩原タカシさん」


綺麗な長い髪 眼鏡をかけた 30代くらいの いかにもエリート感のある女性に声をかけられた…

私の人生で まず 関わる事ないであろうタイプの女性である…


「ご同行お願い致します」


逃げる事も断る勇気もない私の選択肢は

1つ………乗車するだけだった





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