もぎたて

影長「ちっ、結局夕餉に送れちまった…」



姫「影長、もどったか」



姫「あぁ…汚れておるではないか。そこで待っておれ」



とことこと何処かに行った後、蒸しタオルを持ってきた姫。


影長「ありがたき幸せ」


影長がそういって、両手で受け取ると泥だらけの顔を拭いた。



姫「いい男が、台無しじゃぞ影長」



爺「あれ?拙者その様にして頂いた事などありませぬが…」


そういって、家老の爺やが疑問を口にする。



姫「イケメンの影長と、しわがれた家老と扱いが違うのは当然じゃろが」



(ドヤァ)



爺や「姫ぇぇ!それはご無体な」



姫「ええぃ、泣きつくな。仕方ない、これでも使っておれ」


そう言って、何処からさっきの影長に渡した様なタオルではなく少々湿っぽいタオルを差し出した。



爺や「ありがたき幸せ!」


家老が嬉しそうに姫からタオルを受け取ると、顔を拭き始める。



爺や「少し汚くて湿っぽいですが、姫から労いのタオルを頂けるなど…」



(あれ…もしかして……)



影長「(姫、もしかしてあれ殿の褌ですか?)」


そっと影長が姫の耳に口を近づけて、こそこそと尋ねる。


姫「(うむ、さっき影長の為に新品のタオルを取りに行った時洗濯物として渡されたものじゃ)」


影長が思わずうわぁとドン引きして下がっていく。


影長「(凄い嬉しそうですよ)」


姫「(往々にして真実は残酷なものと相場は決まっておる)」



その瞬間、影長の顔から表情が消えた。



爺や「どうしたのじゃ影長、能面の様な顔をして」



嬉しそうな家老の顔を見ると、真実を言いにくくなってきた影長。


影長「いや…、さっき夕餉を食べ損なったので腹が減りましてな。申し訳ござらんが、拙者はこれにて」



家老が、にこやかに頷いてそうかと言って廊下の奥を指さした。


爺や「芋で良ければ、蔵から出したものが奥に鎮座してある故好きに食すとよい」



姫「わらわもゆくぞ、影長」(バレないうちにの)



影長「そうですか…、それでは参りましょうか姫」



そういって、姫の手を引いて廊下を歩いていくと奥の部屋でかご一杯の甘いもを見つけた影長はゆっくりと湿らせた布で丁寧に芋を巻いて火鉢の炭の中に突っ込んだ。



影長「もう、そんな季節なんですね。道理で冷える訳だ」


姫「影長、わらわの分も頼む」


影長「かしこまりました」


そういって、同じように火鉢の隣に芋を包んで置くと手をかざして二人で温まる。



姫「時に影長、新しい兵器の準備は万端であるか」



影長は、一つ頷く。


影長「前回の爺や砲といい、カラクリお茶くみ突撃コウマといい戦国の世を生き残るにはまず武力ですからな」



そこで、姫は懐から一枚の和紙を取り出した。



影長「これは?」


姫「ビックホイールと呼ばれる、どんなものでもひき潰す兵器じゃ。無論あらゆる攻撃がきかぬよう万全の対策を取ってあるぞよ」



影長「凄いじゃないですか姫、これマジで実用化できれば師匠にだって勝てますよ」


姫「スマヌ…影長、実はこれには重大過ぎる欠点があってお蔵入りじゃ」


消え入りそうな声で、姫がうつむく。


そっと背中をさすりながら、優しく影長が尋ねた。


影長「どうしたんです?姫らしくない」


姫「この、ビックホイール走ってさえいればあらゆる攻撃をはじいてあらゆる敵をひき潰してミンチに変える超兵器で空も海も走れるという優れものなんじゃが」


うんうんと頷く影長が欠点に気がついて眼が死んだ魚の様になる。



姫「わらわの設計ミスで、このビックホイール中で人が走らないと走れないんじゃよ」


影長「ガッデム!それ超兵器じゃなくて、残念兵器じゃないですか」



姫「しかも、人力以外で実装しようとすると色んな所で不具合がでてやっぱり走れないんじゃよ」



思わず言葉を失って、天を仰ぐ影長。


静かにもそもそと焼き芋を食べながら、悲しそうな顔をする姫。




俺は影長、そんな残念な兵器の変わりにこの城を守る男。

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