8.イイコト
気が付いたら俺は、どこかのベッドに寝かされていた。
板張りの天井と壁が見える。どこだここは。
確かノアと飲んでいて、酒のまわりが早くて眠くなって……
「フレディ」
「――っ!?」
真横にノアの顔があった。
肘を枕にし、俺の横に添い寝をしている。
「な……、はっ? なんで、ここ」
「覚えていませんか? フレディが酔ってしまわれたので、宿へお連れしました」
最悪だ。推しの前で醜態を晒すなんてみっともない。
「悪い、迷惑かけた。俺もう帰るから」
居たたまれなくてベッドから起き上がると、ノアに肩を掴まれた。
「ノア?」
「言ったでしょう。今日はあなたを帰したくないと」
ぐっと両肩を押され、ベッドに押し倒された!?
真上にいるノアが、紫の瞳で俺を見下ろしている。
「な……え、なんだ……???」
「あなたともっと、深い仲になりたいんですよ」
ふっと口の端で笑った。
そしてその唇が、俺の唇に重なる。
「ん……ふっ」
柔らかく押し当てられた感触に、頭が真っ白になる。
キス……キスじゃないか!?
前世でも今世でも色恋沙汰とは無縁だった。
童貞どころか、これがファーストキスだったんだが!?
呆然と見上げると、ノアの唇が艶めかしく濡れていた。
その唇をぺろりと舐める仕草が、たまらなく色っぽい。
「可愛いですね、フレディ。もしかして、男相手は初めてですか?」
「……っ」
俺の反応に、ノアが薄く笑った。
男相手どころじゃない。俺は誰とも何もしたことないぞ。
「では、優しくして差し上げましょう」
ノアの指先が、俺の指に絡めてくる。
そうして、また顔を近づけ……
「ま、待て! 何しようとしてる!?」
「イイコト、ですよ」
そっと、服の上から俺の中心をなぞるように触れてくる。
さすがに童貞の俺だって、何をされようとしてるかはわかった。
「やめろ! 俺は別にこんなことしたいわけじゃ……っ」
「僕に触られるの、嫌ですか?」
「い、嫌というか……けど、でもこんなっ」
「だったらいいじゃないですか。僕に身を委ねてください」
逃げる間もなく、耳元にノアの唇が当てられた。
「気持ちいいこと、してあげますよ」
耳に吐息が流れ込んでくるのと同時に、ズボンの中にノアの手が侵入してくる。
「ちょ、なにしてっ、やめろ」
「やめていいんですか? あなたのここは、もうその気になっているというのに」
勃ち上がり始めている俺の裏筋を撫でられる。
ノアにこんな風に触られて、反応しないわけがないだろう。
「ひ……っ」
揉むように扱かれれば、声が出そうになる。
咄嗟に両手で口を押える。
「どうして声を抑えるんです? 聞かせてくださいよ、あなたの可愛い声」
「ん、んんっ……」
口を塞いでいた両腕を引き剥がされ、頭の上でまとめて押さえつけられる。
振りほどこうとしたが、細身のくせにノアの力は強くビクともしない。
右手で俺を押さえつけながら、左手で下着ごと一気にズボンを脱がされた。
半勃ちのそこがノアの眼前に晒される。
「見るなっ!」
膝を立てて隠そうとするも、あっさりとノアに膝を割られる。
そして今度は、俺の中心を直にその白い手に握られた。
「う……っ」
「よくしてあげると言っているのに。何をそんなに嫌がっているんです?」
「やめ、やめろって」
強制的に与えられる快楽に声が震える。
そこを誰かに触られること自体初めてだ。自分の手とは違う感触にクラクラする。
もっと与えてほしいという本能と、こんなつもりではないという理性がせめぎ合う。
その間にも、ノアの手は俺の中心を弄んでいる。
根元からくすぐるように形をなぞられ、鈴口を指でいじられる。ゾクゾクした感覚が背中を走り、腰が浮きそうになった。
「は、あ……っ」
「辛そうですね。我慢しなくていいんですよ」
そう言うと、ノアが下へと移動した。
すっかり勃ち上がったそこに、ふっと息をかけられると自然と声が漏れてしまう。くすりとノアの笑う声が聞こえて、それから俺の先端が粘膜に包まれる。
「う……、なに、して……」
俺の先端を躊躇なく咥えて、舐め取るように舌を絡められた。何をされているのか信じられず頭を振ったが、初めての快楽に下腹部が甘く痺れる。
唇を離すと、ノアは上目遣いにニヤッと笑った。
「苦しそうだったので。お手伝い致しました」
恐る恐る見ると、俺の先端からトロトロと透明な蜜が溢れ出していた。
「や、めろ……見るな」
そんな俺の言葉も届かず、再びノアに手を添えられる。
溢れ出したそれを塗り広げるように上下されると、もう堪らなくなってしまう。
「くっ、や……めろ、やめろって」
「もう限界ですか? いいですよ。僕の手の中で、イかせてあげます」
「は……あ、も……出、はなせ、やめろ……んんっ」
目の前が弾けて、真っ白になった。
ぐったりとベッドに沈み込んだ身体にまた、ノアが覆い被さる。ちゅっ、と俺の額にキスが落とされた。
「可愛かったですよ」
「の、あ……」
ぼんやりとした視界でノアが滲んで見えた。
俺が吐き出した白濁を手に纏わせ、見せつけるように舐め取る。
やたら色気を漂わせたノアが、天使にも悪魔にも見えた。
「愛してますよ、フレディ」
光のない瞳が、俺を見下ろしていた。
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