1.絶望の異世界転生


「マジか……」


 ゴミに埋もれたベッドの上から、握っていたナイフが床に転げ落ちた。


 俺は推しにスパチャも投げられないような弱者男。

 石油ストーブをつけっぱなしにした一酸化炭素中毒でうっかり死んだ。


 そんな記憶を思い出した今の俺は、フレデリック・ヴァン・ロストラータ。

 ロストラータ伯爵家の三男だ。

 

 20歳を迎えても勉学も武道も魔力も、何の才もない。

 何年も切っていないボサボサの髪に無精ひげ。不潔を絵に描いたようだ。

 

 上2人の兄は天賦の才に恵まれ、美形揃い。

 

 三男だけどうしてこうなった。ロストラータ三兄弟の出涸らし。

 なんて噂は、否応なしに俺の耳にも入る。


 怠け者だ痴れ者だと言われ続けてるが、俺だって頑張ってはいたつもりだ。

 兄さんたちに比べれば、三男へのプレッシャーなんてたいしたもんじゃない。

 それでも、名門ロストラータ家の名に恥じぬよう努力はした。


 でも、その努力はことごとく実らなかった。

 頑張っても頑張らなくても、怒られて笑われる。それなら、何もしない方がマシだ。


 そうして引きこもって早数年、成人してもなお俺は引きこもりを続けた

 誰も立ち入らせることのない部屋は分厚いカーテンを閉め切ったままで、ゴミが溢れ返っている。

 ゴミに埋もれて毎日朝から晩まで、泣いたり怒ったりしていた。


 俺の人生真っ暗だ。いっそ死んでしまいたい。



 ……最悪だ。


 前世の俺だって引きこもり気質ではあった。

 学生の頃から用事がなければ外に出ない。休みの日も家で寝ていた。

 しかし、家の中は普通に出歩いていたし、学校やバイトには行っていた。


 それなのに今の俺ときたら、トイレ以外部屋から一歩も出ない。食事も部屋の前に置かれている。

 ガチな引きこもりじゃないか!


 せっかく異世界転生をしたってのに、悪化してどうする!

 異世界転生ってのはチート能力を手に入れたり、むやみにモテモテになったり、前世より良い状況になるもんじゃないのか!?


 前世も今世も弱者男。

 こんなことなら、生まれ変わりたくなんてなかった……

 

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