我が勇者パーティはクセが強すぎるので、ケットシーの私が癒し担当になります(仮)

工藤 流優空

序章

 誰だって、一度は考えたことがないだろうか。


『誰かに、自分のよさを認めてもらいたい』

『誰かに、キミは唯一の存在だって言ってもらいたい』

『誰か一人にでも、キミは必要だって思ってもらいたい』。


 少なくとも、私はそうだった。

 そして、前世の私はそう思ったけれど、実現せずに終わった。

 だけど、今世は……。


 今世は、どうやらその願いは既に実現してしまったらしい。

 

「……あぁ、ここにいたのか」


 茂みをかき分けて現れた見慣れた顔。

 今世で一番、大事で大好きな人のその目が細められる。


「ニャ」


 ちまちまと、そばまで歩いて行くと、そっと二つの毛玉が差し出される。


 これは、一体……。思わず首をかしげる。


「……出来が悪くて申し訳ないのだが、これは、くつ下……のつもりだ」


 ああ、そうか。裸足の私の足を案じて、この不器用な人は作ってくれたのか。

 ゆっくりと、足を片方ずつ差し出せば、優しく足にはめこんでくれる。

 売っているくつ下に比べると、作りはとても荒い。

 だけど、売っているものの何倍も、これは、大切なもの。

 世界に一つしかない、私のために作られた、私だけのくつ下。


 言葉での感謝は残念ながらこの姿では伝えられないけれど。

 精一杯長く鳴いて、彼の足の周りにまとわりついてみる。

 これで伝わればいいな、そう思いながら。


 そんなこんなで今、私は最高に幸せなんだ。


 ――これは、一匹のケットシーとクセが強すぎる勇者パーティーが出会い、癒し癒されながら旅をする、なんてことはない、ごく普通の日常の物語である。



 

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