鬼刃流生

@paruparupu

第1話 旅立ち

ここは小さな鬼人の里。今日、1人の鬼人がこの里を旅立とうとしていた。

「里長、私は以前からお話ししていた通りに今日この里を旅立ちます」

決意を固めた目で真っ直ぐと里長を見つめる女性の名は、鳴神純香(なるかみすみか)。

「うむ。まあ、反対はせんよ。止める理由も、道理もないしの。」

里長はゆっくりと諭すように語った。

「必ずやこの里に八つの刀を取り戻します」

彼女の父親は鳴神鳴重という里でも有数の刀匠であった。

中でも鳴重の作った妖刀と呼ばれる刀は一定以上の力を持つものにしか従わないといったまさに剣士の憧れのような刀であった。

しかし十年前、この里が妖に取り憑かれた人間によって襲撃された時に鳴神鳴重は殺された。

人間は鳴重の作った妖刀八本のうち七本を略奪し、逃走していった。

「父上!父上!」

「す、純香。あの刀、妖刀は、、世に出してはならぬ。必ず取り戻すのだ、、。だが、人間を恨むなよ、恨むのは人間を操る妖だけだ。」

「ッ!うう、グスっ!はい!」

鳴重の残した妖刀は八本、一本は純香に託された「紫電」。

残りの七本の妖刀の名はそれぞれ「龍焔」「氷帝」「流転」「蝕棘」「韋駄天」「黒鉄」「裂神」。

いずれもとてつもない力を秘めているまさに妖刀。取り返すためにはこちらにも力が必要である。

「純香、お主の父の最期の言葉、覚えているな?」

「はい。恨むのは悪しき妖だけ、ですね」

「うむ、その言葉ゆめゆめ忘れることのないようにするのだぞ」

「はい!」

「いい返事だ。では行くといい、、、たまには顔を見せるのだぞ」

里長はゆっくりと振り返り、それ以上は何も言わなかった。

多分、こちらを気遣ってのことだろう。

純香はしっかりとした足取りで最初の目的地へと歩みを進めた。

二時間ほどが経ち、ようやく目的地へと辿り着いた。

目的地としていたのは人間の住むとある城下町。ここに住む同じ鬼人である赤城たたらという知り合いを訪ねるためにやってきたのだ。

「しかし、人間というものは凄いな。これ程までに甘味の種類があるとは、、ゴクリ」

目を輝かせて茶屋の客を見渡すと、目的であるたたらがこちらを見ているのに気が付いた。

「あ!純香だ!久しぶりー!」

明るい声に思わず笑みが溢れ、日頃の疲れさえも吹き飛ぶような感触がした。

「久しぶり。調子はどう?」

席に腰掛けて互いの姿を見つめ合う。

「調子はどう?」

「うーん、まあぼちぼちってところかなー」

「私はようやく今日里から出てきたところなんだ」

鬼人の里には成人、、つまり人間と同じ十八歳を過ぎてから出ないと里の外に出られないという掟がある。

「へ〜。ってことは純香ももう成人したんだ〜。時の流れは早いな〜」

「、、、二つしか年変わらないでしょ」

「ありゃ?そうだっけ?」

「たたら姉はなんの仕事してるの?」

「私はねぇ、この力を生かして物運んだりする仕事してるよ〜」

ふと純香の手元にある皿を見ると食べ終わった団子の串がいくつも重なっていた。

「そういえば純香、甘い物大好きだったよね〜」

「つ!そ、そんなことはな、ないよ」

談笑を楽しんでいると突然、腰に刀を差した男に声をかけられた。

「おい。お前ら。ここは人間様の茶屋だぞ。見人がいていい場所ではない!」

「はあ?仰っている意味がわかりません」

「そうか、ならばこの場で切り捨ててくれようか!」

ガヤガヤ

「いいでしょう、表へ出てください」

純香と男の2人は茶屋の外へ出ると互いに刀を構えた。

「女とはいえ鬼人。手加減はせんぞ!」

「ええ、そうですね。あなたは手加減しなくてもいいでしょう」

あからさまに挑発をする。

「なんだと!」

「手加減するべきは私かも知れません、あなたと私では力量に差があり過ぎますから」

「くっ!参る!」

その瞬間、純香の刀から雷のような関光が走り、純香は男の後ろに立っていた。

「なっ、なんだ!?」

「刀はよく手入れしたほうがいいですよ」

「どういうこ、、ああっ!」

数秒経ち、男の刀はピシッと音を立てた後にバラバラに砕け散った。

「何いい!」

「鬼人にだって茶屋にいる権利はあります。それに、そんな刀では私には勝てませんよ」

ソウダソウダー!

「くっ!この屈写は必ず返してやるぞ!覚えていろー!」

男はこちらを挑発しながら逃げていった。

「ふう。いやー凄かったね純香!かっこよかった!」

たたらが満面の笑みでいうが、純香はひとつ思うところがあった。

「、、、たたら姉の方がケンカは強いでしょ」

数年前、まだたたらが里にいた頃に純香が別の里の鬼人の男数人に襲われそうになった時、たたらが1人で全員を戦闘不能にしたのだ。

「やだな〜、そんな照れること言わないでよ〜」

(素手で刀を折った時はさすがに驚いたけど、、、)

「あんたたち、怪我はないかい?」

声の聞こえた方を見ると、茶屋のご主人が居た。

「ええ、かすり傷もありませんよ」

「それは良かった。ありがとうございます。あの男、別の地方から来たのでしょうが鬼人への差別が酷くてね、困っていたところだったんだよ」

「あ、お勘定」

「いえいえ!追っ払っていただいたのでお代はいただきませんよ!」

この喜びようからすると、相当あの男はしつこいのだろう。

「ん、わかりました。ありがとうございます。また何か困り事があれば言ってください」

夕日は傾き、街はゆるやかに夜へと向かっている。純香はたたらの家へと行くことになった。

「じゃーん!ここが私の家だよ〜!さ、入って入って〜!」

家はそれなりに大きく、一人暮らしでは少しばかり広そうだ。

「この家は自分で買ったの?」

たたらは純香用の布団を敷きながら答えた。

「ううん、貰ったんだ」

「貰った?」

「うーんとね、ここの家に前まで住んでいた人の引っ越しを手伝ったんだけど〜。その時に貰ってくれないか?って言われたんだ〜」

「そうなんだ。あ、刀ここに置いていい?」

純香は刀を布団のすぐ横に置いた。

「いいけど、どうして布団の横に?」

「こうしないとなかなか眠れなくて、、、」

「ああ、そうだね。」

純香にとって、父の形見である刀を離れた場所に置くのはとても辛いことなのだ。

「たたら姉。多分だけどさっきの男は妖に操られてた」

「えっ!そうかなぁ全然気配がしなかったけど」

「刀を折る時に切ったけど、手応えが全然ないからおそらく分体だよ」

「しかもあの男、操られてることに気づいていなかった」

「ってことはつまり、、」

「対象に気取られないほど深層心理を操ることができる分体を作れる妖がいる、、」

そう、ここまで強大な力を持つ妖であればおそらく妖刀を扱うことができる。

「まさかそいつが、純香のお父さんの刀を奪った妖の1体ってこと!?」

「その可能性が高いよ」

(しかも鬼人に対する怒りを見せていたし、あれは本体の性格が反映されているのか)

「ま、今日は寝るとしましょ〜」

「うん」

2人は明かりを消すと、すぐに眠ってしまった。

薄暗い城の中、一体の妖が笑っていた。

???「クックック、まさか分体を見破るとは。奴め、なかなかの手練と見える」

「そしてあの刀!間違いなく我らが取りこぼした妖刀の「紫電」!まさかあのような鬼人の小娘が持っていようとは!」

「まさか鳴神の子孫か?まあいいだろう、我が城に特別に招いてやろうぞ!」

こうして波乱が幕を開けたことは、まだ誰も知る由がなかった。

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