第二話 「三人の分岐点」
俺は岸宮さんの言葉に放った言葉に口をあんぐりと開けた。
(岸宮さんがこの俺に告白?きっと何かの間違いだろう)
そう思い愁はもう一度聞き返した。
「本当に俺?言う人合ってる?」
「はい、合ってます!間違えるわけありません」
その言葉を聞いた俺は唾を飲んだ。そして流れ出た汗を拭っていった。
「じゃあよろしくお願いします」
「はい!あと一つお願いがあるんですけど…」
「なんでしょうか?」
そして俺は彼女の言葉に首を傾げた。
「愁くんはこれから色んな【挑戦】をしてください!」
「はい?」
こうして俺たちの恋物語は幕を開けることになる。
♢
一時間目:数学
「愁くんそこの問題はこれを使って…」
「ああ、なるほど」
「…」
昼食:食堂
「愁くん何食べます?」
「俺はこのカツ丼+カレー+焼きそばにしようかな!」
「結構、食べますね…」
「…」
放課後:教室
「愁くん帰りにスーパー寄って良いですか?」
「良いよ、俺も腹減ったし」
「お昼にあんだけ食べたのにですか!?」
「…」
そして翌朝、俺はいつもどうり学校に足を進めていると脇道から古水が現れた。
「お、古水〜〜」
「…」
古水は俺を無視して歩き出した。何か怒らせるようなことをしただろうか?俺は古水を追いかけようと足を前に動かしたがそれを止めるようにして俺の足が動かなくなった。前を見ると古水の姿は無くなっていた。
「おはようございます愁くん!」
「うん、おはよう」
学校に着くといつもどうり岸宮が挨拶をし、いつもどうり男子生徒の痛い視線がこちらに向く。しかし一つだけいつもとは違った。
古水だ、あいつは何もなかったかのように振る舞っているが、幼馴染の俺からしたら不自然でしか無い。そう思った俺は昼休みに古水を屋上前の踊り場に呼び出した。
「なに?」
古水はあきらかに不機嫌そうな声でいった。
「お前何か怒ってる?」
「怒ってないよ…」
「幼馴染の俺にも言えないような事なのか?」
「だから何も無いって!」
俺はそう言い放ちその場を去ろうとした古水の腕を掴む。しかしつかんだ腕は消えており気づくと古水は消えていた。
「は?」
俺はこの不可解な現象にしばらく立ちすくんでいたが、スマホの時計はすでに5時間目のチャイム1分前だったため急いで教室に向かった。その後も俺は古水が怒る原因を考えたが一向に答えが見つからずそのまま授業を終え家に帰宅しソファの上に「ドサッ」と寝転んだ。
「お兄ちゃんおかえり」
声の方向を見ると妹の楓が濡れたボサボサの髪をタオルで拭きながら棒アイスを食べていた。
「うん…ただいま」
「何、また御代ちゃんでも怒らせた?」
相変わらずこいつの勘は鋭い。その後、俺は楓に今日の出来事を話した。楓は「は~」とため息をつく。
「お兄ちゃん」
「はい…」
「まずはその岸宮さんにこのことを伝えなさい」
「はい…」
「そして御代ちゃんの気持ちを聞いてちゃんと謝りなさい」
「はい…」
楓の言葉を聞いて決意を決めた俺はその状況のシミュレーションをしながら風呂場に向かった。
「御代ちゃん…」
翌朝、俺は昨夜の楓の言葉どうり岸宮を早朝の学校に呼び出し話した。
「そういうわけなんだけど…」
「なるほど、分かりました」
想像どうり岸宮は嫌な顔一つせず話を聞いた。俺は何故か岸宮がそうする気がしており内心予想が的中して驚いていたがそのまま彼女にどうすれば良いかと質問投げかける。
「正直に言います」
俺はゴクリと唾を飲み込む。
「私は愁くんと別れるのは絶対に嫌です。でも愁くんと古水さんの仲が悪くなるのも嫌です。」
「そっか、そうだよな…」
「でも、私に良い案があります」
「案?」
そして岸宮は俺に聞こえるように耳打ちをする。その後俺は岸宮の指示どうり放課後古水を3階の科学準備室に呼び出した。古水が来るか心配であったが時間ぴったりに扉が開き古水が部屋に入ってくる。
「今度は何?」
以前同様、古水は苛立っているように見える。
「すまんまた呼び出して。お前に言いたいことがあるんだ」
古水は俺の言う言葉に気づいたのか俺が話すのを止めた。
「言わないで…言わないでよ」
「古水?」
古水の蒼い瞳には薄っすらと涙が見え深呼吸をした。
「もう言うね、私愁のことがずっと好きだった。誰に告白されても愁のことが好きだった」
「ごめん、気づかなくて」
「良いの、中学生の頃にはもう諦めてたから。でも…」
「でも?」
彼女は自分の涙を隠すように夏風が吹き初めた窓に寄りかかる。
「岸宮さんと愁が付き合ったって話を聞いてさ、嫉妬して、泣きじゃくって、もう感情がおかしくなっちゃったの」
愁は床を見ながら黙って聞いている。きっと罪悪感か何かに押しつぶされてしまいそうになっているのだろう。これも全部私のせいだ、私のせいなんだ…
「ずっと続くと思ってたのにな〜」
古水がすすり泣くように言う。俺は罪悪感に押しつぶされそうになった。俺は自分の不甲斐なさに怒りを覚える。彼女をこうしてしまったのは自分のせいだ、そう心に思った。
「ごめん」
「だから大丈夫だって、は~私もう帰るね」
古水は微笑みながら話しその目元は赤くなっていて、そして彼女は部屋を出ていく。
「ごめん御代…」
俺はそう言い携帯を見ると時刻は古水を呼んだときから30分経っていた。
「あれ?」
俺は科学室の時計を見る、そこには携帯と同じ時刻が表示されていた。
「古水とこんな長く話したか?」
俺がそう思ったその時、岸宮からメッセージが来てそこには「話が終わったら屋上に来てほしい」と書いてあった。その後俺は部屋の戸締まりをしてから屋上に向かう。そして俺は屋上の扉を開けた。
「すまん少し遅れ…」
俺は目を疑った。そこには泣き崩れる古水とその背中を擦る岸宮の姿があった。
「愁くんお疲れ様です」
「な、何があったんだ?」
「すみません、この話は古水さんが落ち着いてからにしましょう」
「ああ、そうだな」
俺たちは泣いている古水を連れて外のベンチに向かった。
「ピッ」
俺は古水の好きな練乳バナナソーダを自動販売機で買い古水に手渡した。
「ほら」
「ありがとう」
「もう大丈夫ですか?」
「うん、もう大丈夫」
「じゃあ話しますね」
♢
放課後:愁と会話後の屋上
愁と話をした後私は屋上に足を運んだ。理由は一つ、【自殺】をするためだ。
「は~覚悟してたけどやっぱ怖いな」
私は屋上の手すり手をつき愁との思い出を思い起こす。次第に私の目からは涙が溢れ、心はグシャグシャになった。そして私は決意する。
「もう良いや、死の」
そう言い私はその場に立ち上がり手すりに股がろうとしたときだった。当然私の体は抱き捕まえられてその何者かが覆いかぶさるようにして私の上に乗った。岸宮さんだ。
「やっぱり来ましたね、古水さん」
「離して!あんたには関係ないでしょ!」
「関係なく無いですよ!」
「嘘つかないでよ!私から愁を奪ってまた私からなにか奪うの!?」
二人は言い合う、その声は空に響くばかりでなにも起こらない。
次第に二人は疲れていき古水は岸宮を突き飛ばした。岸宮は尻もちをつき古水はそのまま岸宮に覆い被さり髪に付けたヘアピンを岸宮に向かって振り上げた。
「あなたのせいで、あなたなんかのせいで…」
古水は目から涙をポタポタと岸宮の胸元に落としながら言った。それを聞いた岸宮は真剣な顔つきで古水に言う。
「本当に私のせいなんですか?本当にあなたのせいじゃないんですか?」
「そうよあなたのせいよ!あなたが愁に言い寄らなければ…」
「しかたがないってことですか?」
「そうよ」
「じゃあ私が愁くんを好きになるのも仕方がないことじゃないですか、なのに私が悪いんですか?」
「それは… 」
「私が愁くんを好きになっていけないんですか?私が愁くんに告白するのもいけないんですか?」
古水は次第に言葉を無くし手に持ったヘアピンを地面に落とした。
「私、なんで愁に伝えなかったんだろう」
古水は岸宮の上から降りすすり泣きながら話す。岸宮は古水の前に正座した。
「違いますよ伝えれなかったんです。辛かったんですよね?異性ではなく幼馴染としてばかり見られて」
古水はコクッと頷く。もう岸宮に対しての恨みはなくなり心を許したようだ。
「岸宮さん、二つお願いがあるんだけど良いかな?」
「はい、なんでしょうか」
「愁をお願いね」
「はい!」
「ああ、また涙出てきちゃった」
「そろそろ愁くんが来ますよ」
そう言うと屋上の扉が開いた。
♢
「そういうことだったのか」
「ごめんね愁、せっかく初めての彼女さんなのに」
「それは言わなくていいんだよ…で、もう一つのお願いって何だったんだ?」
「確かに、気になります」
俺と岸宮は練乳バナナソーダを両手に持った古水に迫った。
「あーあれ、しょうもないことだけど良い?」
「良いけど」
「はい、大丈夫ですよ?」
「じゃあこれから『きしみん』って呼んで良い?』
「はい…良いですけど…」
「本当にしょうもないな」
そして俺たちは笑いだす。俺は思い返す、きっと今日のことを忘れることはないだろう。俺と古水、岸宮三人の人生の分岐点になったのだから。だが二つ不可解なことが残っていることにその時俺は気が付かなかった。
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