君は私の変換先。

言ノ葉

第一話 「恋物語のはじまり」

春とは思えない暑さが続いている今日、勢い良く走る車によって散っていた桜の花びらが再び上空を舞っている。その坂道で俺は彼女の発した言葉を聞いて唖然としていた。



「今日は一段とあっついなぁ」



俺は今学校に向かって足を運んでいる。砦上あぜかみ高校、通称あぜみ。その名の通り戦国時代に存在した城の跡地に建てられた高校だ。特に部活動に力を入れていてサッカー部は県大会準優勝、バスケ部は優勝を果たしている。今思うと何故俺がこの高校に入れたか疑問に思う。そう考えていると後ろから背中を思いっきり叩かれた。



「おは~」


「お前また」



彼女は顔をニコニコさせて手を振る「古水 御代こすいみよ」俺の幼馴染でよくこうやってからかってくる。



可愛いんだけどな〜)


「何?なんか顔についてる」



古水は少し首を傾げている。それを無視して自分はそのまま学校に歩き出した。

学校に着き下駄箱から上靴を出すと階段の方に人だかりが有った。



「付き合ってください!」



きっと人に聞かれたら恥ずかしいランキング一位であろう言葉が学校中に響き渡った。そして相手はもちろん…



「ごめんなさい」



告白において言われたくないランキング一位の言葉がまたまた学校中に響き渡った。背伸びをして見るとやはり黒色の長髪にいかにも清楚!って感じの彼女「岸宮 きしみやりん」がいた。



「またやってる」



古水が呆れた顔をしている。古水が言う通りこのイベントはあぜみでは頻繁に起こっていて毎回謝る声しか聞こえない。言ったら「負けイベ」ってやつだ。



「愁行こ!」


「おい引っ張るなって!」


「…」



俺は何故かキレ気味な古水に引きずられて教室に運ばれた。そしてホームルームを終え午前の授業が始まった。薄くなった髪の毛にメガネを掛けた教師が黒板に数式を書きつずり、そのチョークの音がコツコツと教室に響き渡っている。周りの生徒は怠そうに授業を受けていたが俺は違った。それは前の席には学年一の美女、岸宮さんが居るからである。



(今日も可愛いな〜この人。こんだけ可愛いんだからきっと彼氏も居るんだろうな〜)



俺はそう思いながら「は~」とため息をつく。すると前の席の彼女から声を掛けられた。



「あの、大丈夫ですか?」



微かな声の方向を見ると岸本さんが教科書で口元を隠しながらこちらを向いていた。

俺はまさか声を掛けられると思っていなかったので少し戸惑ったが、彼女に言葉を返した。



「え、あ、大丈夫だよ大丈夫」


「それなら良かったです。先程からため息ばかりついていたので体調が悪いのかなって思って」


「ちょっと考え事をしててさ」



俺は苦笑いをしながら答えた。



「考え事ですか…あの、前から思っていたんですが愁くんと古水さんってその、お付き合いなさっているんですか?」



俺は彼女から発せられた言葉に驚きが隠せなかった。



「いや、え?」


「ご、ごめんなさい!急に変な話をして」



彼女は自分の発した言葉の意味に気づいたのか赤面した顔で声を荒らげた。



「おい!そこうるさいぞ」


「すんません」「すみませんでした」



先生が彼女の大きな声に気づき俺たちを怒鳴り上げた。教室全体を見渡すと一人を除く皆が俺だけに対して冷たい視線が飛んでいる。「なるほどこれが格差か」と俺はしみじみ感じた。 その後時間は刻々と過ぎていき気づけば放課後となった。



「そろそろ帰るか…」



俺がそう言い鞄を持ち上げ教室を出ると廊下に彼女が立っていた。



「岸宮さん?」


「あの…愁くんって帰りはいつも一人なんですか?」


「う~ん古水と帰ることもあるけど大体一人かな」



岸本さんは納得した顔をしている。



「なんで?」



俺は岸本さんに対して質問の意味を問いた。しかし彼女の口からは思いがけない言葉が発された。



「その、一緒に帰りませんか?」


「お願いします」



俺は彼女の言葉を聞いた瞬間すぐさまに頭を下げてお願いした。だって学校一の美女がこのごくごく普通の高校生に対して一緒に帰ろうと言ってきたのだ、了承するに決まっている。そして俺は学年一の美女である彼女と帰ることになった。



「最近は春なのに温かいですね」


「そうだね」



俺たちは桜が咲き誇る坂道を歩いていた。正直今は桜よりも彼女のほうが美しいと思ってしまうほど彼女には美しさがあった。



「あの…今日はごめんなさい。私のせいで怒られちゃいましたね」


「大丈夫だよ、俺だって悪かったし」



彼女の方をよく見ると夕日のせいなのか頬が少し赤くなっているように見えた。夕日は水平線上にかかっている。そしてまた岸本さんが話す。



「私、失礼かもしれませんがあの時少し楽しかったんです」


「楽しい?」


「はい。私は昔からこういう感じで過ごしていて今日みたいに先生に怒られた事とかなかったんです」



俺は納得した。岸本は多分両親が礼儀正しい人でその影響を受けていたのだろう。



「マジか…」


「そんなに驚くことなんですか?」


「当たり前だよ、自分なんか中学校の頃毎日のように怒られてたのに」


「愁くんは中学校の頃は悪い子だったんですね」



俺たちはそんな他愛もない話で笑い合い別れ道に着いた。



「今日はありがとうございました。楽しかったです」


「俺も楽しかったよ、ありがとう。それじゃ俺こっちだから」



俺はそう彼女に別れ言葉を告げ帰路につこうとした。その時後から彼女が俺に言った。



「あの、また一緒に帰ってくれますか?」



俺は彼女の言葉を聞き笑顔でとっさに返答した。



「もちろん!じゃあまた明日」



俺は恥ずかしさのあまり少し小走りで帰った。そしてこの出来事から俺たちは一緒に帰る頻度が多くなり、今まで気まずさが有った会話は友達と話すような普通の会話になっていった。



「岸宮さん今日部活は?」


「今日は先生が来ないのでなくなりました」


「そっか…」



正直この人が可愛すぎて最近の記憶はほぼそれしか残っていない、それほど俺は岸宮さんに心を奪われてしまっているということだ。俺たちはいつもどうり帰路に着いた。しかし彼女の様子はいつもと少し違っている。



「最近部活はどんな感じ?」


「…」


「岸宮さん?」


「あ、すみません聞いてませんでした。なんて言いました?」


「あー大丈夫、大したことじゃないからさ」


「そうなんですか…」


「うん…」



何故だろう、いつもとは違って会話の終わりに静寂が訪れる。それに話を持ちかけてくるのはいつも岸宮さんの方からなのに今日は俺からしか話していない。そこで俺はあることに気づき帰路を歩く足を止めて岸宮さんに言った。



「岸宮さん、俺のこと嫌い?」



岸宮さんは驚き焦る表情を見せ何かを口にしようとしていたがそれを止めるようにしてまた俺は言い放った。



「その、嫌なら良いんだよ?無理に付き合ってくれなくても」



岸宮さんは俺に顔を見せないように下を向いた。散った桜が車によって舞い上がりその場に春が再来する。



「違います、その逆ですよ」


「え?」



顔を上げた岸宮さんの赤い瞳には涙があった。そして岸宮さんは笑顔で言った。



「愁くん、私と付き合ってくれませんか」



俺は彼女の言葉に動揺を隠せず、顔を夕日のようにさせるのであった…




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