彼女が特別ではないことを、俺だけが知っている

かんたけ

第1話 追憶

 俺は、更地に一輪の花を供えた。


「久しぶりだな」


 ここは、元戦場地。

 俺は元兵士として、現「地雷魔法陣撤去員」として、この土地に配属された。


 地雷魔法陣とは、地下3cmから10cmにかけて設置される、魔法陣型の爆弾である。魔法陣に一定の重みが加わると爆発し、多くの死傷者を出してきた。

 危険物は、撤去が必要だ。


 砂と瓦礫に塗れた地面に、棒状のセンサーをかざす。ピピピ、と電子音が鳴り、早速発見したようだ。


 地雷魔法の撤去には二通りの方法がある。

 一つ目は、そのまま爆発させること。

 二つ目は、


「【もういいよ】」


 地面から円状の魔法陣が浮き上がり、塵になって消える。

 ーー解除に成功したようだ。

 俺は張り詰めていた息を小さく吐いた。


「おーい! そっちはどうだー?」


 振り返ると、同じ撤去員の仲間が、遠くで手を振っている。俺は、「見つけたー! お前の方はー?」と答えた。


「こっちも順調だー! 全く、片付ける身にもなってほしいよなー!」

「それ、大声で言っていいのかー?」

「いいってー! どーせ、僕ら以外にいねーしー!」

「それもそうかー!」


 戦争の影響で、国の人口は大幅に減ってしまった。

 特に、互いが投下し合ったミサイル型の魔道具による被害が大きく、互いの国において、男手は貴重になった。魔法を使える男も少数派となり、地雷魔法陣撤去団は常に人手不足だ。


 地雷魔法陣は、働き手の排除を狙って、民家のある地区に落とされたこともある。


 足元に柔らかい感触があり、俺は足をどけた。


 人形を踏んでいたようだ。

 黒ずんでいて、どんな色だったのかは分からない。元の持ち主が生きているかも怪しい。

 ここは、戦争が始まる前は民間地だった。敵国と自国の真西に位置する島で、敵国の襲撃を受けたのがきっかけとなり、戦場になった。

 人形から砂を払い、黙祷する。


 ーーここにいる家族を、守りたかったんだ。


 戦友の言葉だった。

 彼女は、体力と魔法の腕が女性の中で抜きん出ており、尚且つ志願兵だったのもあって、戦場の最前線に送りこまれたらしい。


 その力を認められた、特別な女兵。

 訓練兵時代、彼女は俺たち男子兵と同じ部隊に配属された。


「お国のために、頑張ります!」


 そう言って笑う彼女に、皆肝を抜かれたものだ。

 何故、女性がここにいるのか。通信部署に所属されるのではないのかと教官を見たが、「コイツには、お前らと同じだけの力がある。今日からコイツは男と同じだ。くれぐれも規律を乱すことがないように」と言うだけだった。


 男子の寮に、女子がやってくることは少なくはない。兵士といえども、雄だ。日頃の鬱憤の処理を任せられる女子もいる。

 けれど、彼女は明らかに違った。



 夜、そういう役割の乙女だと勘違いした阿保が、早速彼女の寝床へ行った事がある。

 とはいえ、狭い空間で雑魚寝しているだけなので、皆、そういう気配には気づく。


「いいだろ? 頼むよ」


 阿呆が彼女の髪に触れようとした途端。

 落雷のような音が鳴り、次の瞬間には阿呆は彼女に組み敷かれていた。


「はは。やんちゃで結構。だが、今は体力の回復に努めた方が、お互いのためだろう? 後は、来週訪問する女子に世話してもらえ」


 唖然とする阿呆に、彼女はニヒルに笑った。

 月光が差し、彼女に色香を与える。


「…すげえ」


 この日から、俺たちの中で彼女の認識は、「か弱い乙女」から「強い女」に変わった。


 まあ、彼女は「乙女」に収まるような器では無かったのだが。

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