スライムに敗北してしまい、スタートダッシュに失敗。って思ってましたが、大成功でした。スロースターターで無双します  

あつし

第1話 ダンジョン! スライム! 敗北!





「ねえ、この後、どうする?」


彼女のユウが微笑みながら僕の顔を見つめる。


「僕の家に来るだろ?」


僕はユウの頭を撫でた。


「え~、どうしようかな~。ふふふっ」


僕が何をしたいのか察したユウは僕を焦らすように笑う。


「僕はユウともっと一緒にいたいな~。ユウは?」


僕はドキドキしながら言った。


「あつしくんの両親は?」




「今日は祖父の家。祖父の持ってる山をどうするのか話し合うんだってさ。もう祖父は歳だからね」


「じゃあ、行こうかな~」


よっしゃ~って心の中でガッツポーズした時、地面が揺れた。


「きゃっ。何? 地震?」


ユウはふらりと揺れ、僕に抱きついてきた。


「大丈夫。すぐに収まるよ」


僕もユウをギュッと抱きしめた。


「きゃっ。何?」


「うっ。何だ?」


いきなり強い光りで視界が奪われてしまった。


だけど、その光りは一瞬で、すぐに視界が晴れた。


「今の光りは何?」


「地震で何かが爆破したのか? 音はしなかったけど」


周囲を見渡しても被害は確認出来ない。


「震度4だって。あれ?」


スマホを見ながら困惑しているユウ。


「どうした?」


「震源が分からないみたい。不思議なのが、日本中が揺れたみたいで、全ての都道府県が震度4何だって」


「日本中が? 戦争じゃなければいいけど……」


この地震によって転倒による怪我人が数人出たそうだが、建物等には被害は全く出なかったのだと。後にこの地震が日本だけでなく世界中が揺れ、世界中が光に包まれていたのだと知ることになる。そして多くの価値観がこの瞬間から変わることに。それにいち早く気づいた者達は動き出す。スタートダッシュで一気に新たなる価値観の世界の上位者になるために。


















「ユウ。今日はこのまま泊まってくだろ?」


「う~ん。どうしようかな~。ママが心配してるみたいだから今日は帰ろうかな」


「心配? 何かあったのか?」


「お昼に地震があったでしょ。日本だけじゃなくてね、世界中で揺れたらしいのよ」


ユウはそう言うと服を着始めてしまった。


「残念。今日は親も兄ちゃんも帰って来ないから、ずっと一緒にいられると思ってたのに」


「じゃあ~夕食持って、戻ってくるよ。ママの唐揚げ好きでしょ」


「おっ。今日は唐揚げなのか。あの唐揚げ最高だよね」


「うん。沢山持ってくるからね」


ユウは着替え終わると窓を開けるためにカーテンを開けた。


「え?」


僕は思わず声を漏らす。


僕の部屋の窓の外は石垣なのだが、大きな穴が空いていたのだ。


「あれ? こんな穴なかったよね?」


「うん。地震で……崩れた……訳ではなさそうだけど」


窓から顔を出し、下を覗き込んでも崩落した石等は見当たらない。穴は石垣が崩れて出来たというより、人工的に作られたような感じがするのだが。


「危ないから他の部屋に移ったら?」


「だね。今日のお泊りは中止にした方がいいかもね。残念だけど」


「そう……。じゃあ、帰るから気をつけてね」


「大丈夫。今日はリビングで寝るから崩落しても大丈夫だよ。まあ、問題なさそうに見えるけどね」


僕は玄関外までユウを見送り自分の部屋へと戻った。





ん? スライム祭り?


親友のショウから【スライム祭り】と意味の分からないメッセージが入っていた。


僕はショウにメッセージを返す。


【スライム祭り?】


ショウからの返信は10秒程で返ってきた。


【そうスライム祭り。それはダンジョン祭り】


【は? 何のゲームの話?】


【海外にダンジョンが現れたらしい。そして日本にも】


【は? だから何のゲームの話?】


【現実~。突然洞窟が現れたらしいぞ】


洞窟?


僕は窓の外の穴を見ながら困惑する。


【本当にダンジョン? スライムがいるのか?】


【らしいぞ。ダンジョンの動画を上げてる奴がいるから見てみろよ。どんどん新しい動画がアップされてるからな。宝箱があったり、魔法が使えるようになるらしいぞ。まあ、スライムは階段を上がれないらしいから、外には出て来ないってさ。そこは安心だよな】


【よくわからんが見てみるわ】


僕は動画よりも窓の外の穴が気になって仕方がなかった。この穴が……そのダンジョンなのかと。






僕は玄関から靴を……靴と兄が昔野球で使っていた金属バットを持って自分の部屋へと戻った。


僕は靴を履き、窓から穴の中へ。


あれ? 明るい?


部屋の中から穴の中を見ていた時は薄暗かったのだが、中に入ると灯りもないのに電気を点けた部屋の中と明るさは変わらない。50メートル先くらいで行き止まりの壁と、その手前に下へと下りる階段が見えるのだが。


マジでダンジョン?


すぐにショウにメッセージを送ろうとしたのだが電波が届いていないことに気づき、スマホをポケットの中にしまう。


本当にダンジョンなのか? 


僕は階段の下を覗き込む。


が階段が見えるだけで下の階はよく見えない。


スライムは雑魚という認識でいいのか?


僕は下りるのを躊躇い、部屋に戻ってショウに相談することに。


【ダンジョン発見】


兄からそうメッセージが入っていた。


【どこで?】


【おばあちゃん家の裏山。スライムを蹴り殺してやったぞ。#裸足で__・__#余裕~。10匹倒したらレベルが上がったぞ】


【倒した? スライムは雑魚なの?】


【雑魚。余裕~。スキルも手に入れたぞ。武具を作れるスキルをね】


雑魚なのか。だったら、この金属バットで余裕だね。


17歳の僕は20歳の兄より背が高い。小さな頃はよく泣かされていたが、今では互角以上なので、喧嘩することはなくなった。兄が倒せるなら僕も余裕だろう。


再び窓から穴の中へ。いや、ダンジョンの中へ。僕は階段を降りていく。


ダンジョン1階は人工的に作られたような石壁に挟まれた3メートル幅の一本道が続いていた。そして見えた。青いぷよぷよした生き物が。


ゲームやアニメのままだね。いや、もしかして創作じゃなかったのかもね。


僕は金属バットを振り上げたままスライムに近づいて行く。そして思いっきり振り下ろす。


弾け飛ぶのかと思っていたのだが、ぷよんとした手応え。効いたのかよく分からないが先手必勝だよね。


僕はすぐに追撃を。金属バットを振り、スライムの側面を思いっきり叩く。


横へと吹き飛ぶのかと思っていたのだが、またしてもぷよんとした手応え。


効いてるのか? まあ、雑魚だから後一撃かな。


そう思っているとスライムがブルブルと震えた。その次の瞬間。目の前にスライム。スライムが飛びついて来たのだ。


「くっ。雑魚の分際で~」


ぷよぷよした見た目なのに硬い硬いボールを胸にぶつけられたような衝撃が。そしてクソほど痛い~。


尻もちついて倒れてしまった僕はすぐに起き上がり、スライムに止めの一撃を。振り上げた金属バットをスライムに思いっきり振り下ろした。


止めのつもりだったのに、またしてもぷよんとした手応え。まだ生きているのが分かる。


僕はすぐに追撃を。再び金属バットを振り上げ、思いっきりスライム目掛けて振り下ろす。


ぷよんからの……ブルブル。


雑魚のくせに~。


来るのが分かっていたのに避けられない。


「くっ。だから痛いって~」


僕は歯を食いしばり、金属バットでスライムに攻撃。



















何度も何度も攻撃したのにスライムは倒れてくれない。もう痛いのは嫌なのに、嫌なのに。


「だから痛いって。泣いちゃうぞ。ちっきしょう」


本当に効いてるのか? スライムは雑魚じゃなかったのか? もしかして、コイツは特別に強いスライムなのか?


スライム

HP10/10

MP0/0


は? 何でいきなり?


スライムを見るとなぜか突然表示が。HPとMPが見えるのたが……。


残り10? って減ってない?


僕は自分の身体を見る。


あつし

HP10/30

MP20/20


「ぐっ。今は止めろよ~。確認中なんだからさ~」


あつし

HP5/30

MP20/20


……残り5? 5回攻撃されたから……って、次攻撃されたら死ぬじゃん。


僕は慌てて金属バットを放り投げ、走り出した。階段目指して。


全力で階段を上がって行く。一段飛ばしで~。


助かったのか?


階段の上から覗き込んでもスライムは見えない。


ショウからのメッセージにスライムは階段を上れないと書いてあったのを思い出す。


助かったのか……。はあ~。


僕はふらりと倒れるようにその場に座りこんだ。お尻の下のを手で払い石壁に背中をつけたまま、ふさぎ込む。


後一撃で死ぬ所だった。物理攻撃無効のスライムだったのだろうか。スキル。そうか、スライムもスキルを。魔法しか効かないスライムもいるということなのか~。


「はあ~。ユウに会いたいよ」


「あつし。大丈夫なの?」


僕の呟きにユウが返事を?


顔を上げると目の前にユウがいた。


「ユウ。ユウ~」


僕は座ったままユウの手を引き、抱き寄せた。


「大丈夫? 何があったの?」


「死ぬとこだった。後一撃で……」


僕の目から涙が溢れた。


「大丈夫。大丈夫。私が側にいるから。ねえ、家に戻ろう。立てる?」


「もう少しこのままで……」


「うん。大丈夫。大丈夫だよ」


ユウはそれ以上何があったのかを聞かずにただ僕をギュッと抱きしめてくれた。


まさか雑魚のスライムに負けるとは思わなかった。


攻撃を受けるとあんなにも痛いとは思わなかった。


ゲームと現実は違う。


当たり前のことが僕には分かっていなかったのだ。


誰よりも先にダンジョンを攻略して英雄に……。


スタートダッシュを決めて英雄に……。


英雄になるつもりが、スライムから逃げ出し、彼女に抱きしめられて泣いてる僕。


情けない。


僕は立ち上がり……地面に落ちているを拾い、下へと下りる階段に投げつけた。


二度とこんな階段下りるものか。ちっきしょう。


こんな情けない僕に愛してるよと微笑んでくれるユウ。


僕は涙を拭い、笑う。


「ありがとう。僕もユウを愛してるよ」


英雄にはなれそうにないが、ユウがいれば他には何も。






後に英雄と呼ばれるあつしとユウの伝説はまだ始まってはいない。






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