第51話 メグ・マルンと王女
「あら、メグ・マルン。私の可愛い可愛い侍女。今日は貴方が来る日だったかしら?」
「いいえ、アン王女様わたくし勝手に来てしまいましたわ」
豪奢な扉を開くと、そこには大きなバルコニーのある、白を基調とした部屋が広がっている。
バルコニーの見える、天井まである窓、その近くに置かれた小さな椅子に座っていたのは妖精とも見紛うような美しい女性———この国の王女、アン王女である———が読んでいた本を閉じた。
アン王女のすぐ隣に寄ったメグは深々と頭を下げて、「申し訳ございません」と非礼を詫びる。
それを見てアン王女はクスリと微笑んだ。
長い金の髪がサラリと溢れて、彼女の手元に落ちた。
「嬉しいわ。いいのよ、いつでも来てくれても。構わないわ。、……あら……どうしたのかしら、そんな膨れ面をして……可愛らしい顔が台無しだわ」
「アン王女様、わたくし、小型魔物の保護活動を辞める事にいたしましたの。せっかくアン王女様が喜んでくださっていたのに申し訳ないですわ」
「あら、そうなのね。構わなくてよ」
「随分……サラリとしてますのね……?」
「あはっあはは」
きょとりと目を丸めるメグ・マルンを見て王女は今度はおかしそうに豪快に笑う。
「可愛いのね。そのままでいてね。私の可愛いメグ・マルン」
「? はい」
◇
アン王女は、メグ・マルンの素直でいて阿呆なところを存外気に入っていた。
自分の進めるものを疑いもせずに推し進める可愛さには右に出るものはいないと、本当にそう思っている。
小さな小型魔物が斬られたのは、確かに可哀想なものだった。バッサリ切った護衛は「仕事ですから」そう答えた。その通りだと思った。
私がこの小型魔物に傷をつけられたら、それだけでお前の首が飛ぶものね、なんて可愛くない事を考える。
そんなただの世間話を真剣そうに聞いてくれるのは可愛らしくコロコロ笑う、かわいい女の子。
一生懸命に、時に『それはお可哀想に。お心が痛かったでしょう』なんて涙を浮かべながら言ってくれるものだから、なんとかわいい生き物なのかと心が沸き立った。
あれよあれよと、私のたった一度の戯言を懸命にこねくり回して、組織まで作り上げる物だから、もうなんだかそれだけでとても嬉しかった。
そして今、律儀にも自分で大事に育てた組織を辞める報告までしてくれる。
なんて可愛くて健気で愛おしい。
私が手に入れる事など絶対にない、小さく自由な可愛い私のメグ・マルン。
きっときっと、私があっさりと返事をした理由だって一生懸命考えてくれるのだろう。
その間は、その間だけは、貴女は私のものになる。貴女の頭の中に少しだけ居場所を貰えるのならば。
初恋は実らないというけれど、私のはもっともっと実らない。
ほんの少しの意地悪は許してくれると嬉しい。
貴女の記憶に少しだけ、残りたいだけなのよ。
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