第24話 性格なんだ、許してね (ディオ視点)


 髪の毛をつたって、頬に落ちた雫が流れて床へ落ちる。


 疲れ果てた状態では、腕を上げるのでさえ億劫でベタついた髪を指で払いのける事さえも気乗りしない。


 勝手に店に入って、勝手に椅子を持ち出して、勝手に帳簿台に倒れ込めば、きっとステラは優しいから今日は閉店と店先に札を出すだろう。


 案の定、ステラが扉へ向かう足音が聞こえた。ついで扉の閉まる音。面倒臭がらず、彼女は自分の元へ戻ってくる。その健気さに胸がキュと音を立てる。


 このやりとりは、あと何回続くだろうか。

 ————何回、続いてくれるのだろうか。


 クタクタになっているが、この相瀬をただの回復だけの作業とは思えず、癒しを感じている自分がいる。


 滴り落ちる毒をペロリと舐めとる。

 通常なら舌先が痺れ、目眩を起こし、発熱する。

 このような魔法でできた毒ならばその効力は強い。

 下手をしたら倒れ込み痙攣を起こすこともある。


 今の自分が大丈夫なのは身体全体に棲みついた呪いのおかげとも言える。

 

 一度道具で毒を飲んで回復可能か試してみたが、威力が全然足らない。

 

 他の魔法師にかけてもらっても全くステラの威力には敵わなかった。



 紫の液体が肌に染み込み、馴染んでいくのが心地よい。重かった身体や、ズキズキ痛むこめかみも痛みが徐々に和らぎ始める。


 もう一回、なんてステラにおねだりをして、体の回復を図る。


 僕の発言をどう受け取ったのかわからないけれど、その表情からは何を考えているかは分かり得ない。「今だけ」なんて、僕にだけ都合のいい言葉だ。


 僕が彼女に縋りつきたいだけのひどい言葉なのはわかっている。

 離したくなくて、離されたくなくて。必死で笑える。


 つい意地悪をしてしまう、僕の性格の悪さは自覚してる。


 僕の身体を蝕んでいる呪いは今までになく不可解で凶悪だった。

 毒が回復薬なんて実にあり得ない現象だ。真逆だ。あり得ないが、僕にとっては驚くべき発見だった。


 じっくりと身体に染みていく力に集中したくて、瞳を閉じた。


 思い出すのは、この原因を作った『魔女』の存在。



 時期としては約半年前。

 その時に起こった事が始まりだった。

 

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