第21話 知らない事ひとつ
私とディオはお互いの問題解決のため、物理的にも協力関係的な意味でも手を組んですぐ、実験を始めることにした。
「まずは魔力の量を測ること。それが肌感覚でわかっていないと魔力を使い果たすギリギリはわからない。それがわからないとステラの体に負担がかかる」
わかる?と、身振り手振りで説明するディオにに頷く。
人間の体に対して実験という言葉を使うのは印象は悪いが、これ以上にいい言葉は浮かばなかったので実験とする。
どんな事でも何か大きな事をする前には大事な準備段階というものがある。
前世でも漫画やアニメの修行でも、いきなりレベルアップなんて事はなく、泥臭く、鍛錬に鍛錬を重ねる事で少しずつ着実に解決へと近づいていたはずだ。ちょっとロールプレイングゲーム様な展開にワクワクしている。
もちろん、自分の魔法改善の糸口を見つけたと言う嬉しさもあるが、なんと言っても学校ではできなかった授業の様な行為に確かな高揚感を感じているのは間違いない。
「とりあえず手のひら一杯分、そこに魔力が溢れない程度に溜めて、それを僕にぶつけてみて」
「いや、いやいや、それじゃあ、もし魔法が成功したら当たっちゃうでしょ?」
「大丈夫大丈夫。避けれる避けれる」
「さっきしっかり毒当たってたよね!?」
さっき思い切り目潰しの魔法、もとい、毒霧をしっかり顔面キャッチしていた男が何を言う。
飄々としていて、何を考えているかはわからない。でも私にとっては希望の一つだ。
目指せ脱ポンコツ。
ディオはヘラリと笑むと早く早くと急かしてくる。
「知らないからね」
「大丈夫大丈夫」
頭の中で回復魔法が発動するように、イメージをする。
手のひらいっぱいに、水を掬い上げ、その水に触れれば、ちぎれた細胞がくっついていくような想像をする。
あっという間に手のひらいっぱいになった魔力に魔法をかけていく。
じわりと暖かなものがゆらめいた。
手のひらの中を波打つように、魔法がタプリタプリと左右に揺れ、手の端にぶつかっては波をたたせ、金の水飛沫をあげている。
ふわりと手元から起こる小さな微風が肌をなぞり、花のような爽やかで甘い香りが鼻をかすめて行く。
それをそっと、ディオの両手に流し込んでいく。
傷を消毒して、絆創膏を貼って、遥か遠い昔、前世で怪我をした子にやってあげた行為を思い出す。涙を拭いて、痛みを忘れるようにかけた言葉で晴れていく表情。
上手く想像を膨らませ、よし、と手のひらを傾けた。手から手へ注がれる魔力。
「やったぁ成功………あれ?」
美しい金の粉を纏った魔力は、手から離れた瞬間毒々しい紫の色に代わり異臭を放ちながらボタボタボタと音を立ててディオの手のひらに落ちていった。
「おっと。ほぉ」
毒々しいまさに毒といった液体を両手で受け取ると、それを興味深そうに覗き込んでいる。
私の魔法は成功しなかったし、ディオの身体に染みついた呪いも何も反応はしなかった。
しかしディオは嬉しそうだ。
「さっきのよりも体が回復してる。一般的な魔法の量は、今のでも相当疲れるはずだが、ステラは息一つ切れてないね。すごい魔力だ」
すっかり手のひらに染み込んで消えていった毒を見つめながら手を握っては開くをくりかえし、ディオは感心したようにいった。
学校ではいつも、困ったように先生たちが顔を見合わせては何か相談をしていた。
私の魔法が全て毒に変わってしまう、たったそれだけだが、それが何より問題だったことを思い出す。
何も言われない虚しさと、何も引き出せない虚無感。
何度も無能だと感じた瞬間だ。
それを、かなり湾曲した変な形で誉められているのはとてつもなく奇妙な感じがするが、それでもどこか、胸に染み渡るような嬉しさが込み上げてくる。
優しく広がってゆくのはまるで水に溶かした一滴のインクのよう。
滲んで溶けて、体に染み込んでいく。
「そ、か……」
奇妙な満足感と存在を認められたような充足感で満たされていくのが嫌にくすぐったい。
「もう一回」
「え? ええ? もう一回?」
「うん」
「いいけど……」
ディオはにっこりと微笑むと、すぐに手を差し出す。そこにあった私の魔法はもう跡形もない。
「もう一回」
「えっ、はっはい」
魔法を使って
「もー、一回」
「……。」
魔法を使って
「もういっかい」
「…………」
魔法をつ
「もっかい」
「」
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