第6話 追いバッドタイム2



 早朝に現れたのは、昨日森で魔法を使った後に遭遇してしまった……もとい森で出会ったジャスティン・スクロージという青年だった。


「すっごく早い時間ですね。どうかしたんですか?」

「早すぎる時間ですまない。この時間しか寄れなかった」

「まぁ、確かに早い……。うん……。でもたまにそういうお客様もいるんで、うん、大丈夫です」


「すまない……」


 ジャスティンさんは困った様に眉を下げた。

 昨日から思っていたが、始終表情は固く、どことなく怖そうな雰囲気ではあるが、微かに動く表情を見るに、感情があまり表情に出ないタイプの人らしい。


 眉ひとつで、なかなかに申し訳なさそうな感じに見えなくもない。


 一般的な時間に疎いのか?騎士の様にも見えるし、時間の配分が一般的なそれとは違うのかもしれない。


「まだ開店前ではありますけど、お店の中へどうぞ。本日のおすすめと品切れは……」


 扉を来客者が通れる分まで大きく開いて、中に入る様に促すと、ジャスティンさんは「いや」と控えめに持ち上げた手のひらをこちらに向け、小さく振った。


「残念だが俺はすぐ仕事に行かねばならない。なので、ここの魔具堂を友人に勧めたんだ。俺もまた改めて来るが、先に友人が来るかと思う。それを伝えたくてな」


「友人に?」


「ああ。そいつはいろんな魔具を探し回っているんだ。最近久々にあったら随分と顔色が悪くてな。顔色を治す道具を探していると言っていた……気がする……変なやつだが金はたくさん持ってるから良いものがあればたくさん買うだろう」


「顔色…………」


「そうだ。顔色がな……しかしあまり驚かないでやってくれ。捻くれているが悪いやつではない」


「ええ……」


 なんだか褒めているのか貶しているのかよくわからない説明だな……。

 

 悪口の方が多い気がするな。


「すまない。セナード魔具堂さん」


「セナード魔具堂サン……? ああ、すみません私の名前言ってませんでしたね。ステラ・セナードって言います。ステラと呼んでください」


 どうやら名前を説明しないまま店の名前だけ伝えていた様だ。

 

 ジャスティンさんは「わかった」と、こくりとうなづいた。

 

「ステラ、と呼ばせてもらう。俺もジャスティンと呼び捨ててくれ。もう知り合いだからかしこまった言い方もよしてくれ。痒くなる」


「痒くなるの……? なにそれ生活に支障はないの? 心配…………。うん、わかった……ジャスティンね。その、変わった友人の名前を聞いてもいい? 来てくれても分からなかったら失礼だし」


「ディオだ。結構謎が多いやつなんだ。大丈夫、悪いやつではない」


「そんなに何度もフォロー入れられると逆に怖いんですけど?」


「金も持ってるからな」


「ダメ押し! 金しかないやつみたいになってるから!」


 大丈夫なのかそいつは?

 「え?」みたいな顔するのもやめてジャスティン。どうしたのジャスティン。なにがあったのジャスティン。

 お金持ってたらいい人という幻想を見てるぞ。

 私は知ってるぞ。

 金だけ持ってるやつも、夢だけ持ってるやつもダメだって前世で学んでるから。

 伊達に歳はとってない。いや、歳というと今私の年齢は17歳なわけだから、若い部類になる。

 歳をとってるっていうのはあれだ。

 前世で、ってやつだ。


 この男、若くて顔がいいのに心配だ。

 お金持ちのヤバめなお嬢さんやお兄様方に手篭めにされるやつでは......


「仕事の時間だ。朝早くに申し訳なかった。また来る」


「う、うん。いってらっしゃい」


 綺麗なお辞儀をして足音もさせずに去っていくジャスティンの背中を見送る。


 まるで武士の様な背中だ。

 この国は時間にもおおらかな人が多い。

 その中、時間にキッチリしている人間は稀だ。


 私は時間が厳しい日本で育った記憶がおぼろげながらもあるため、父と母にさえせっかちせっかちと突かれている。


 もしかして覚えていないだけで、彼も元日本人?覚えていないのであれば聞く術もないので仕方がない。

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