五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです！

黄薔薇騎士 カール

第6話 二百年寝てました

　卵の殻から出てきた女性二人をベッドに運んでから、二日経った。どうやら最初に目覚めたのは、メイドの方だった。

　カールに知らせが届くと、彼は急いで部屋に向かった。ノックを二回すると、「どうぞ」と声が返って来た。ゆっくりドアを開きカールが中に入ると、銀色の古風なメイド服の女性と城内のメイド服の女性が向かい合って、何かを話していたようだ。

「お目覚めですか？」

　遠慮がちにカールが声をかけると、銀髪のメイド服の女性は困った顔で頷いた。起きた事により、青い瞳だった事に気付いた。

「俺は、バルシュミーデ皇国フォーゲル侯爵家の長男であり、黄薔薇騎士団の団長のカール・エッカルト・フォーゲルと申します」

　カールは相手がメイドでもそう丁寧に挨拶をして、頭を下げた。銀髪のメイドはまだベッドで上体を起こした姿のままだったが、深々と頭を下げた。

「私は、ビルギット・バルチュと申します。バッハシュタインのヴェンデルガルト第三王女付きのメイドです――あの、本当にバッハシュタイン王国は滅んでしまったのでしょうか？」

　彼女の不安は、その事だったようだ。時折、自分の横でまだ眠りの中の姫を心配げに見ていた。

「記録上――約二百年ほど前に滅びました。失礼を承知で尋ねます、ビルギットさんとヴェンデルガルト王女は古龍の最後の生贄で間違いないのでしょうか？」

「生贄なんて！　そのようなお言葉は、お止めください。ヴェンデルガルト様が悲しまれます！」

　言葉の発音が、少し違う。カールはビルギットの言葉に違和感を抱き、やはりバッハシュタイン王国の人であるように思えた。

「……ん、ぅ……」

　ビルギットが少し声を荒げたためか、寝ていた金髪の姫が吐息を零した。

「目覚められました？　――ヴェンデルガルト王女」

「んー、……おはよう。寝すぎたのかしら……外が明るいわね……」

　可愛らしい、寝ぼけた声だ。カールは、少しドキリとして起きようとした姫に視線を向けた。

「寝過ぎた様ですよ、ヴェンデルガルト王女。今はあなたが眠られてから、二百年過ぎました」

　カールがそう声をかけると、「二百年……大変……」とまだ寝ぼけていた姫が、一瞬固まってからがばっと布団をめくり上体を起こした。

「何の冗談？　コンスタン……え？」

　濃い金色の瞳の王女は、ビルギットともう一人の見知らぬメイド、そしてカールを見てからポカンとした表情になった。その顔が可愛らしくて、自然とカールは小さく笑い頭を下げて礼をした。

「俺は、バルシュミーデ皇国フォーゲル侯爵家の長男であり、黄薔薇騎士団の団長のカール・エッカルト・フォーゲルと申します。貴女様が眠りから覚められるのを、お待ちしておりました」

　その言葉を聞き、ヴェンデルガルトは驚いた顔をしてビルギットに視線を向けた。ビルギットは、沈痛な面持ちで黙っている。

「バルシュミーデ皇国という国は、知らないわ！　コンスタンティンはどこ！？　私達、一体どうしてここに？」

　混乱しているのか、ヴェンデルガルトは頭を抱えて不安そうな顔を浮かべている。ビルギットが起き上がり、混乱している王女を落ち着かせようとした。しかし、ヴェンデルガルトは「コンスタンティン」と繰り返し誰かの名を呼んでいた。

「大丈夫です、大丈夫です――俺があなたを護りますから！」

　無意識に、カールは腕を伸ばすと混乱しているヴェンデルガルトを抱き締めた。ヴェンデルガルトは驚いたように身を固くしたが、しばらくして落ち着いたのか深い吐息を零してカールにしがみついた。

「あの――えっと、君は？」

　カールはヴェンデルガルトを抱き締めたまま、静かに控えていたもう一人のメイドに声をかけた。

「ジークハルト様より命を受けて、お二人のお世話を任されたカリーナ・クッツァーと申します」

　長いこげ茶色の髪をまとめた、淡い青の瞳のメイドだ。ジークハルトからの命となると、皇族付きのメイドだろう。カールは彼女に続けて話しかけた。

「二人にお茶を淹れてくれないか？」

「承知いたしました」

　椅子に座っていた彼女は立ち上がると、礼儀正しく頭を下げた。だがその時、小さな音だが間違いなくお腹の鳴る音がした。ヴェンデルガルトが、顔を赤くする。

「それと、軽食を」

「はい、急いでお持ちします」

　くすくすと笑うカールとビルギットに、恥ずかしそうにヴェンデルガルトはカールの胸元に顔を隠した。カリーナは、急いで部屋を出て行った。

　――可愛い。

　自分に縋りつく、か細くて小さな甘い花の香りがするヴェンデルガルトを抱き締めたまま、カールは頭の中で彼女の濃い金の瞳が忘れられそうになかった。