第3話 薔薇騎士団

「ようやく、この卵を開ける術が見つかりました」


 卵が皇都に運ばれて二年もの年月が経ってから、朗報が告げられた。謁見室にいた周囲の人間から、どよめきが起こる。




「これは、バッハシュタイン王国より前に使われていた言語で封印されたものです。古龍の言語でしょう。開ける言葉も探し出しました。如何いたしましょう――開けてもよろしいでようか?」


 歴史研究をしている男数名が、現皇帝であるアンドレアスに平伏して尋ねた。


「古龍が封印していたとなると、気になる――開けろ」


「お待ちください」


 アンドレアス帝がそう答えたが、それを遮ったのは第一皇子のジークハルト・ロルフ・ゲルルフ・アインホルンだった。『薔薇騎士団』と呼ばれる五つの騎士団総帥にして『赤薔薇騎士団』団長の職に就く、ストレートの短い黒髪に淡い紫の瞳のすらりとした美しい青年だ。


「万が一危険なものが入っていては、皇帝が危ない目に遭います。薔薇騎士団全団長と数名の騎士を、ここに呼ぶのがよろしいかと思われます」


 息子であり騎士団総帥の言葉に納得した皇帝は、残りの騎士団長を早急に呼ぶ様に指示をした。




 早速謁見室に姿を現したのは、残りの騎士団長だった。




「白薔薇騎士団長、ギルベルト・ギュンター・アダルベルトでございます」


 線の細い体ではあるが、しっかりとした声だった。腰辺りまである長い銀色の髪に灰色の瞳の美しい青年だったが、その美しい瞳は包帯で巻かれていて見る事は出来ない。それでも、見えるかのように動き優雅に皇帝の前で頭を下げた。




「黄薔薇騎士団長、カール・エッカルト・フォーゲルです」


 背の高い、少年らしさが残る青年だ。明るい声音で頭を下げる彼は、明るい赤毛で緑の瞳をしている。人に好かれる、優しげな雰囲気だ。




「青薔薇騎士団長、イザーク・マリウス・クラインベックです。御前失礼いたします」


 低めの声音で挨拶をしたのは、肩までの黒髪を首の付け根辺りでまとめた深い青の瞳のクールビューティーな青年だった。丁寧にそう発言したが、美しい顔は無表情のままだ。




「紫薔薇騎士団団長、ランドルフ・クレーメンス・クラウゼ・アインホル」


 皇帝の前だというのにぶっきらぼうにそう言ったのは、柔らかくカールした長めの前髪の銀髪で濃い紫の瞳のきつめの綺麗な青年だった。




「一応、全員剣を構えてくれ。では、陛下の合図で開けて貰おう」


 四人の前に立ち剣を抜いて卵に向き直ったのは、総帥のジークハルトだ。それに従い、四人の団長も剣を抜いた。




「よし――開けろ」


 皇帝の声が響くと、研究員が聞いた事のない言葉を口にした。




「……何!?」




 途端、輝く卵から水蒸気が溢れてきた――どうやら、解けるように殻が煙に代わっているのだ。マントを振り視界が遮らないように風を送り、卵の中身が姿を現すのをその場にいた全員が見つめていた。




「!?」


 全ての殻が煙になって消え去ると、そこには輝く長い金の髪の豪華なドレスを身にまとった女性と、銀髪のメイド服らしい姿の女性の姿があった。






「バッハシュタイン王国後期の王家のドレスです!」


 研究員の声に、室内がざわついた。






「もしかしたら――最後の生贄の王女なのか?」


 皇帝の乾いた声が、部屋を静かにさせた。


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