第五十三話 陰で恐れられる男

 半ば東城たちに無理やりさせられた感はあるものの、俺は三人の協力を得てSNSのアカウント作りに勤しんでいた。


「あ、あのー……」

「なぁに? 真才くん」

「いや、その……」

「あ、ヘッダーはもっと明るくした方がいいっすよ」

「うん……」

「プロフィールはあえて何も書かずにいきましょう!」

「リョーカイ……」


 椅子に座ってスマホを操作する俺に対し、三人は背後から抱き着くように密着して指示を飛ばす。


 どさくさに紛れて胸を押しつけられているような気がするが、きっと気のせいだろう。


 俺は三人の指示のもとにプロフィールやら設定やらをいじくりまわしていき、30分経ったあたりでようやく『自滅帝』の新規アカウントを作成することに成功した。


「できたっすー!」

「完成しましたね!」

「三人とも手伝ってくれてありがとう」

「礼には及ばないわ、その代わり……ね?」

「あー、フォローすればいいんだっけ?」


 俺がそう言うと、三人とも嬉しそうな顔で反応する。


 すぐに俺のスマホに三人からのフォローの通知が飛んできて、俺は三人全員のフォローを返して相互となった。


「やった……!」

「あの自滅帝と……相互に……」

「感無量っす……!」


 三者三様の反応を見せる三人に俺は苦笑する。


 アカウント作りだけで随分と疲れたな……。でもおかげで操作方法とか色々分かったし、ひとまずはこれで自滅帝のアカウントは完成だ。


「そう言えば、これが自滅帝本人のアカウントだってどうやって証明すればいいんだろ?」

「将棋戦争のマイページにSNSのアカウント名でも載せておけば証拠になりますよ」

「あ、そっか。そんな簡単に解決できるのか」


 俺は来崎に言われた通り、将棋戦争のマイページを開いてプロフィール紹介に自滅帝のアカウント名をコピペして載せることにした。


 ──その数秒後だった。


「わっ!?」


 突然スマホがブーブー! と不規則に鳴りはじめた。


「案の定大量の通知がきたっすね。ミカドっち、通知は切っておいた方がいいっすよ。多分そのままにしておくと1日中鳴りっぱなしになると思うっすから」

「マジか……」


 俺はSNSの通知設定をオフにしてそのままプロフィール画面に戻ると、さっきまで東城含めた3人しかいなかったフォロワーが5人、10人、15人と急激に増えていってるのが見えた。


 これ何か挨拶した方がいいのかな。


「えーと……自分から"本物です"とかいうとちょっとダサいし、無難にアカウント作ったっていう報告だけでいいかな」

「本当に無難ね……まぁ、それでいいと思うわよ」


 俺の言葉に東城が同意し、SNSに投稿する文面を作成する。


 初めての呟きということもあり、いいねやコメントが1つもこなかったらどうしよう、なんて考えていたわけだが……。



 @zimetutei28

 アカウント作りました


 > 本物?

 > 本物!?

 > 本物だ!!

 > マジで本物?

 > アマチュアですか?プロの方ですか?

 > すごーい!本物!!

 > 年齢だけでも教えてほしいです!

 > 十段おめでとうございます!!

 > 将棋で強くなるコツ教えてください!

 > 教室で将棋盤置かれて公開処刑された現役高校生って本当ですか!?

 > プロになってほしいです!応援してます!!



 呟いた瞬間に大量のコメントが殺到。……と、同時にフォロワーが直角の勢いで伸びていく。


 さっきまで3人だった俺のフォロワーはたったの10分で500人を超え、アカウントを作ったという見れば分かるだろ案件の呟きには1000件以上のいいねがついていた。


「……これ、来たコメントに全部返信していった方がいいのかな」

「しなくていいわ!」

「しなくていいです!」

「大物は下々のコメントに返信なんかしないんすよ!」


 な、なにそれ、暗黙のルールなのか? てか俺別に大物じゃないんだけどな……。


 まぁ、掲示板にちょくちょく書き込んでた時もあんまりレスを返さないタイプだったから、返信しなくていいのならそれはそれで気が楽だ。


「じゃあ、取り合えずこれでやることは概ね終わったかな」

「そうね、部活は思いっきりサボっちゃったけど」

「あ……」


 そうだ、アカウント作成に意識を持っていかれてたけど、今部活の最中だったわ。思いっきり忘れてた。


「まぁ、今日は部長もいないし、将棋のことで時間を掛けたわけだからよしとしましょう」

「そうですね」

「そうっすね!」

「本当に自由気ままな部活だな……」


 そんなことを喋っている内に部活の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、俺達は各々帰る準備を整える。


「そう言えば、あの兄弟は結局部活に来なかったわね。葵、何か知ってる?」

「あ……いや、アオイは何も知らないっす……」

「何? 今さら隠し事?」

「いや……」


 東城の問いに葵はなんだか不安そうな顔を浮かべ、否定も肯定もしなかった。


「まぁ、明日になれば来ると思うよ。東城さんもあんまり葵をいじめないであげて」

「……真才くんがそう言うなら、アタシは何も言わないけど」


 俺に言われてしまえば仕方ないと言わんばかりに、東城はそれ以上の追及を諦める。


 今の葵はもう清廉潔白となった状態だ。あの時感じた針で刺すような敵意も無くなっている。


 そんな葵が口を開かないということは、言えない、もしくは言いにくい事情があるのだろう。葵自身がそう判断したのなら、俺から問い詰める気は毛頭ない。


 そんな、少しばかりの不安の種を撒いたまま俺達は帰路に着く。


 ──しかし、それから佐久間兄弟が部活に来ることはなかった。



『【ヤバい】自滅帝とかいう正体不明のアマ強豪wwwPart30』


 名無しの103

 :自滅帝がSNS始めたっぽい。アカウント→@zimetutei28


 名無しの104

 :>>103 え? これ本物?


 名無しの105

 :>>104 本物


 名無しの106

 :>>104 将棋戦争の自滅帝のマイページに同じ垢名が載ってるから本物だね


 名無しの107

 :マジか、自滅帝ついにSNS始めたのかw


 名無しの108

 :俺達の自滅帝が民衆の元に晒されていく……


 名無しの109

 :帝ちゃん一気に人気者だね~、元々人気だったけど


 名無しの110

 :てか自滅帝のフォロワー欄に大物めっちゃいるじゃん


 名無しの111

 :スゲーな、瑞樹みずき女流にフォローされてるのか……


 名無しの112

 :賢乃たかのにまでフォローされてて草


 名無しの113

 :絶対プロ棋士だろ自滅帝……


 名無しの114

 :そう言えば話変わるけどさ、将棋が強い人ってリアルでも戦略が練れたりするタイプなの?


 名無しの115

 :>>114 もちろん人によると思うけど、知略ゲーを極めてるなら思考能力はある程度発達しているとみていいよ。特に自滅帝の場合は相当頭が切れるタイプだと思う


 名無しの116

 :同意。自滅帝と一度でも指したことある奴はアレの看破能力を体験したはずだからな。マジでこえーよ、心読まれてるのかと思ったくらいだし


 名無しの117

 :>>116 そんなにすごいのか


 名無しの118

 :戦ったことがある人はみんな二度と戦いたくないって言うくらいだしね


 名無しの119

 :むしろ嬉々としてスナイプする自滅狩りがおかしいレベル


 名無しの120

 :多分、自滅帝はリアルでも敵に回しちゃいけないタイプの一人だと思う

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