(仮称)イチモンジ・ルル、企画に参加する

イチモンジ・ルル(「書き出し大切」企画)

第1話 「ゴロヒクルマ、ハ? 該当のクエストを処理することができません」- 掌編 inpired by "『一文創作』~書き手の数だけ物語がある!~"


吾輩ワガハイネコである、それが本の題名です」

 虎林トラバヤシは、軍手をはめた手で本を持っている妖精に声を掛けた。途方に暮れた幼い顔に詫びるように会釈をしたあと、電源をオフにした。妖精は静かに部屋の隅に置かれた椅子のところに行って、座ったまま眠るような姿になる。椅子はエネルギー補給スポットなのだ。

 この妖精は、虎林が設計加工したクエスト[業務]達成型ロボットである。金髪に碧眼を持つ10歳ほどの少年の姿のロボットに、虎林は妖精という呼び名をつけた。

 主要なクエストの設定は、本の整理。漢字を読み、文学リファレンスサイトにアクセスして確認するのが彼のクエスト。

 上手く動いていると思ったが、人間には思いつかないような行動をする。


 虎林は空中で杖を振り、設定ソフトウェアを開き、詳細な枝番項目を確認した。

「漢字のデータベースが書籍整理向きに設定できていませんでしたね、ごめんなさい」

 設定を変えながらつぶやく。自分の不注意で可哀想な目に遭わせた、と虎林は反省した。

 

 相応しくない漢字範囲を適用してしまっていたのを修正。修正前に妖精が認識できた文字に範囲では、「吾」はゴ・ロ、「輩」はヒ・クルマ。だからクエストを成し遂げることができなかった。

 

 電源を入れ直すと、妖精の碧眼は輝きを取り戻し、再び乱雑に積み上げられた本の山が置かれた台に戻って業務を再開した。

「一番上の本は、ワガハイハネコデアル。日本。20世紀。文学・ワに割り当てる棚に置きます」

「そのとおりです。お願いします」


 虎林は本の移動を始めた妖精と微笑を交わしあったあと、台所に向かった。

 たまご色の柔らかなクッションの上で眠っている猫がいた。虎林が最初に設計加工したロボット――クエストは床の掃除――である。

 今日もそろそろ電源を入れよう。最初は自動起動なども試みたが、いまはあいさつしてから電源を入れる形に落ち着いた。


「あとで、妖精を猫に紹介しましょうね」

 ひとりごとを言いながら、虎林は幸せそうに微笑んだ、

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