中の人はアラサーバツイチナースだけど異世界で美少女退魔師目指します
清見こうじ
第1話 はじまりは何か壮大に
(あー! ムカつく!!)
風にそよぐ髪は、磨き上げた新品の銅貨のような明るい、
絹糸のごとくなめらかに艶をもった、背中の半ばほどの長さの髪の毛は、陽光をはらんで、時折まばゆい金色に輝く。
前髪は眉のあたりで切りそろえられており、その下に輝く瞳は、上等な
新鮮な乳に、南方で採れる高価な豆を炒って
(ちょっと! その鳥肌が立つような表現やめてくれない?! どっかの
見目麗しい、と
(悪かったわね! 品がなくて! あと口にはしてないし! ……大体、そんな甘々な
その細腕に似つかわしくない
(なーにが! 『後世で珈琲
少女が棒を振り回すたびに、『何か』がポン、ポン、と破裂し、そのたびに棒が端から
『ほら、もうちょっと丁寧にやらないと、打ち
「だーかーらー! いいから、とっとと仕事しろ! この
少女の
【語り 万年常春飛行物体】
**********************
『お疲れさーん! よくできました』
ぜいぜいと肩で息しながら地べたにしゃがみ込むのと同時に、脳内に羽よりも軽い、軽すぎる声が響いた。
肉声なら耳が震えて胸がときめくような低音イケボ……脳内再生でもその効果はアリまくりだったけど、さすがに長年聴いていて耐性はついている。
第一、悠長に美声を堪能していられる心持ちじゃなかったし。
(なーにが! よくできましたー、よ!? あんた、いったい何のためにツイてるのよ?)
心の中で罵倒するが、それを読み取った相手はのほほんとしている。
『うーん? ……実況中継、
思い切り疑問形で、おまけに「はてな?」と首を傾かしげるイメージまで伝わってきて、一気に脱力する。
さっきから脳内に直接送り込まれてきた、何かちょっと古めかしい感じの文章の羅列を思い出し、ますます力が抜ける。
(……何のための、記録よ……)
どうせ聞いてもさらに疲労感が増すとわかっていて、でも思わず訊いてしまう。
『そりゃあ、レミの活躍を、後々
(美化……って)
『あ、僕は、レミが十分! かわいいって思ってるから! ……ただ、世間一般には、ちょっと古めかしい言い回しの方が「らしい」じゃない?』
(どうせ! どうせ、私なんて! 黄みがかった半端な赤毛で! 暗い目の色で! 浅黒くって! 美人じゃありませんよー! だ!)
一応、年頃の女の子なんだから、自分の容姿は気になるのである。
髪色は輝くような金か、もしくは深い赤か黒、鮮明な色。
瞳は、色は何でもいいが、とにかく透き通るような淡い色。
肌は
……それが、私が今生きている世界での、美人の基本だった。
その上、日に焼けたのではなく、生まれつき黄みがかった肌は、周囲にあまりいないせいもあって、わりとコンプレックスだった。
(せっかくなら、抜けるような白い肌とかに生まれ変わってみたかったわ)
『そりゃ、ここではあんまり人気のない色だけどさ。国によっては、
(……そう?)
少し立ち直りかけ、上目づかいに空を見る、と。
『そうそう。どうせレミはこれから世界中を回るんだから、もてすぎって困っちゃうよ?』
(……それは、困っちゃうなあ)
私、一応、聖職者だしぃ?
頭常春な浮遊物体の安易な誉め言葉に、うかつにも気分は高揚して立ち直れてしまった。
私、チョロいなって思いながらも、まあ気分いいから、いっか、と能天気に思ってしまった。
だいぶ影響受けてるなあ。
昔はもっと落ち着いて考える人間だったはずなんだけど。
ま、いっか。
エイッと腰を上げて、天に向かって大きく伸びをする。
(さて、とっとと後片付けして、出立の準備しなくっちゃー!)
るんるん、と脳内で口ずさみながら、10歩ほどスキップすると、周りを見渡して近くに落ちていた木の枝を拾い上げた。
(これでいっかなー?
言いながら、先ほどまで座っていたあたりを中心に、木の枝で地面に線を描き……
(さて、ロー、行くよ!)
『りょぉかい!』
相変わらず軽い調子で……しかし、返事より早く、あたりには強烈な『気』が立ち込める。
「……
気合を込めて声を発すると同時に、握っていた木の枝が、光を帯びる。
円の中心に、一瞬、緑がかった人影……男の姿が浮かび上がった。
その姿を見極める間もなく、円陣の中にまばゆい光があふれ、男の姿は見えなくなる。
……やがて、光が消え去る。
ふう、と大きく息を吐いて、両手を開くと、先ほどまで「木の枝、だったもの」が、砂のように粉々になって滑り落ちる。
砂はキラキラと光りながら、地面に着く前に、霧散した。
『はい、課題達成おめでとう。あ、でも、勢い余ると
(はいはい、気を付けますよーだ)
『あと、僕はちゃんと仕事してるからね』
(はいはい、口がすべりました! ローがいなくちゃそもそも私は力が使えませんってことでしょ?!)
『その通り。……でも、木の枝でもいいけど、やっぱり正式な
(まあ、木属性の呪具なんて、耐性弱いのばっかりだしねぇ?)
『大陸に行けば、いい素材が見つかるよ。そしたら、僕が
(……作るのは、私なのね、やっぱり)
『仕方ないよー。僕が物体化する方が、
(あー、こういう時、使えないんだから!
『……これが、史上最強の
(ハードルあげるなぁっ!)
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