ツンツンしていた妹が一日で落ちた話
甘照
本編
第1話 うちに天使が来た
うちに天使が来た。
「はじめまして…じゃないけど、今日から家族として一緒に暮らす
「…
「コラッ。そんなそっぽを向きながら…いやー、ごめんね、姫ちゃん。ちょっとお年頃みたいでね」
「あー、いえ。全然気にしてないですよ。私は
「私もよろしくねー。私のことは知ってるよね?乃々花ちゃん。
もう一度言おう。
うちに天使が来た。
え?何を言ってるのか分からない?
だから天使が来たんだってば。
本日うちの母と、乃々花ちゃんの父親である花月さんが再婚し、私の妹になった可愛いキュートな女の子。
なんやかんや一緒に暮らし始める今日になるまで写真くらいでしか見たことがなかったから、実際に会うのは初めてになる。写真で見た時からそれはもう可愛くて会うのが楽しみだったけど、実物はその数段可愛らしくて、だからそう、天使なのだ。
一目惚れした。
もう不機嫌そうに不貞腐れてそっぽを向いているだけでも可愛いし、落ち着かないのかツインテールの先っちょを指で弄っているのがいじらしくて襲いたくなる。性的に。
親たちが親し気に話している間中、私はずっと乃々花ちゃんの横顔を眺めていた。今私、白米が欲しい。多分二杯はいける。そして、乃々花ちゃんも食べたい。
私の邪な視線に気付いたのか乃々花ちゃんは可愛いお目目でこちらを睨んできた。
「…なに見てんの?気持ち悪い。あと、そんな濃いメイクして美人マウントでも取るつもりだった?マジキモイんだけど」
確かにメイクは若干頑張った。
いやだって、今日から一緒に暮らす新しいお父さんと妹に会うんだよ?ちょっとでも良く見られたいじゃん!でもまさか悪手だったとは。いやでも、乃々花ちゃんの蔑みボイスが聞けたからワースだな。
「ごめんね!メイク落としてくるね!」
「え?いや、ちょっ…そういうわけじゃ…」
乃々花ちゃんが何か言いたげな様子だったが、彼女にちょっとでも不快な思いをさせるのならメイクなんて落とそう。秒で洗い流して戻ると、乃々花ちゃんが花月さんに叱られていた。
「乃々花。いくらお年頃で緊張してても、初対面の相手に失礼だろ。ちゃんと謝りなさい」
「…別に、洗い流して来いとまでは言ってないもん」
「そういうことを言ってるんじゃない」
乃々花ちゃんは涙目になりながらも、そっぽを向いて花月さんにも目を合わせる素振りはない。
「ごめんね、姫ちゃん。人見知りなんだけど、いつもはここまでじゃないんだけどなぁ…」
「いえ、全然気にしてないって言うか…寧ろ乃々花ちゃんの色んな顔が見れて嬉しいです!」
「…何それ。キモ」
「キモ」頂きました!超絶可愛い妹ちゃんからの罵りと言うだけでも興奮するのに、それが可憐な乃々花ちゃんの口から出たと思うと鼻血出そう。
「まったく…」
「まあこういうのって時間が解決してくれるもんじゃない?とりあえず晩ご飯作るから、姫たちはコンビニでお菓子でも買って来なよ」
「それもそうだな。乃々花も行ってきなさい。丁度いいからこの辺りのことを姫ちゃんに聞いてきなさい」
「絶対やだ!!なんで私がそんな面倒な…」
「好きなお菓子何でも買って来ていいぞ」
「うぐっ…」
乃々花ちゃんは「むむむ…」と悩んでいる。きっと、私と一緒に行くこととお菓子を買えることを天秤に掛けているんだと思う。
やがて決心したように顔を上げ、花月さんに手を差し出した。
「お金」
お菓子パワーは偉大だったらしい。
ありがとう、我が父よ。
かくして乃々花ちゃんとのいちゃいちゃコンビニデート権を手にした私はニコニコ顔で靴を履いていると、千円札を手にした乃々花ちゃんも私の隣で靴を履き始めた。横顔も可愛い。
「…言っとくけど、私はお菓子を買いに行くだけだから。離れて歩くし、お話もするつもりないから」
「うん!それでも全然いいよ!私は乃々花ちゃんと一緒にコンビニ行けるだけで嬉しいからね!」
私がにっこり笑いかけると、乃々花ちゃんはちょっと焦った様子で「だからっ、マジキモイ!!」と言いながら早足で玄関を出て行ってしまった。私も慌てて追いかける。乃々花ちゃんは膨れっ面をしながらも門の入り口で待っていてくれた。勝手に嬉しくなったけど、道が分からないんだから当たり前か。
私がコンビニに向けて歩き出すと、乃々花ちゃんも10mくらい距離を置いて付いてくる…思ったより遠い。
曲がり角を曲がるとやや駆け足で追いかけ、直線になるとまた少し距離を離して付いてくる。角で待ったら抱き締められそうだなと思いつきつつ、流石に嫌がられそうだからやめておく。こういうのは押し引きが重要なのです。
コンビニ到着。その間、私たちは本当に一言も喋らなかった。
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