少年少女は恋をして、 そして永遠の別れを経験していく
海坂依里
第0章「社会的撤退者救済措置法が適用されました」
第0話「この世界が愛で始まれば、私の世界は平和なまま終わることができるのに」
真の引きこもりは、基本的に外の世界には出ない。
「
「……誰ですか」
真の引きこもりは、異世界になんて行かない。
「社会的撤退者救済措置法……通称
真の引きこもりは、異世界に飛ばされたところで頑張らない。
「桝谷莉雨さんが求める人間関係を提供しに参りました」
真の引きこもりは、そう簡単に性格は変わらない。
そんな烙印を押しておきながらも、引きこもりの増加に国は頭を悩ませていた。
「桝谷莉雨さんが求める人材を、こちらで用意させていただきます」
そこで提案されたのが、社会的撤退者救済措置法。
引きこもりを、国の力で救済します法。
「用意する代わりに、学校に行けという制度ですよね……」
「はい、その通りです」
引きこもりが求める人間関係を、国が提供する制度。
両親、祖父祖母、兄弟関係、親戚、友達、クラスメイト、教師、職場の先輩後輩、恋人、伴侶などなど。
自分が求める、ありとあらゆる人間関係を期間限定で貸し出してもらえる。
「人間関係を1からリセットできるという、素晴らしい制度のご案内に参りました」
「レンタルの人間関係なんて、所詮は偽物じゃないですか……」
そう、所詮は偽物の人間関係。
対象者が引きこもらなくなった事実が確認されると、偽物の人間関係は撤収されてしまう。
「騙されたと思って、この制度を利用してみませんか?」
真の引きこもりは、基本的に外の世界には出ない。
真の引きこもりは、異世界になんて行かない。
真の引きこもりは、異世界に飛ばされたところで頑張らない。
真の引きこもりは、そう簡単に性格は変わらない。
「社済法が適用された人々のうち、87パーセント以上の方々が社会に復帰されているんです」
自分の人生に、特別大きな事件が起こったわけでもなんでもない。
ああ、学校行きたくないなって些細な想いが募るに募って登校拒否になってしまった。
こんな引きこもり生活送るつもりはなかったのに、ちょっとの休憩は長い長い長期休暇になってしまった。
「…………私を必要としてくれる人をください」
「学校に行きたいという意志があるんですね」
「…………私を必要としてくれる人をください」
「政府の思惑通りの反応をありがとうございます」
ただ、私のことを必要としてくれる人が欲しい。
自分の望みは、ただそれだけ。
「私を必要としてくれる人なんて曖昧な人間関係、提供できるわけがないですよね」
「生きているって最高ですね」
「人の話を聞いて……」
「今から高校に通えば、留年の必要もありませんからね」
お金の力を使うのか、国の権力を使うのか、そういう詳細は明かされていない。
だけど、何かしらの力が働いているからこそ、新しい人間関係を提供することができると言われている。
「人の話を……!」
「桝谷さんは、とても恵まれていますよ」
「だから……」
「桝谷さんを必要としてくれる人を用意すれば、引きこもりをやめてくれるんですよね?」
あれだけ、自分のことを理解してくれるクラスメイトを望んでいた中学生の頃の苦い記憶。
そんな心の傷は終わりを迎えることになり、私は自分が望んだ人間関係を手に入れることになった。
「……国の言いなりになれと説得するなんて最低ですね」
「引きこもりの方に社会復帰してもらうためです」
「…………」
さあ、新しい世界へようこそと呼ぶ胡散臭い声が聞こえてくる。
「国は総力をあげて、桝谷さんが望む人間関係を提供しますよ」
どうか、私の願いを叶えてください。
自分の居場所をなくしてしまった人間は、最後の最期。
国の力を借りて、社会復帰を果たす。そんな制度が確立された、この世界。
「それが社会的撤退者救済措置法。通称社済法ですから」
国民は税金を投入して、引きこもりを支援することを許してくれた。
それを、優しさというのか分からない。
だけど、世の中は少しずつ変わっていった。
「桝谷さんを必要としてくれる人」
引きこもりの人間を排除することなく、最後の最期まで優しく接してくれる世の中に変わりつつあった。
「それを、お望みで宜しいでしょうか」
「さっさと……さっさと私の願いを叶えてください!」
その優しさは、偽物だけど。
引きこもりの人たちが、幸せになりますように。
そんな気持ちは、偽物だけど。
偽物の気持ちが混ざり合った世界で、私は新しい人生を手に入れた。
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