旅と暮らす

南の月

第1話 季節と一緒に暮らすパタゴニア

夏は暑くて体を動かすのがきつく、虫も出るのであまり好きではないが、冬も負けず劣らず嫌いだ。

寒くて布団から出にくく、服もたくさん着ているので動きにくい。

夏同様活動量が減り、虫は出ないけど、布類がたくさん出て(布団や衣服)家が一気に雑多になる。

コートは家に帰るとハンガーにかけたりするからそれほど散らからない。


問題は、家の中で使う防寒具。

ブランケットや上に羽織るあったかい服。

実家では半纏を使っていましたが、お風呂へ行くとき、寝るとき、ちょっと暑くなってきたとき、ポーンっとその辺に置きっぱなしになってしまう。

大抵はソファーの上や椅子に背にかける形で、服が出っぱなしになる。

勿論毎日使うから、そうなっているのだ。

我が家も例外ではない。

半纏はないけれど、私のモコモコの服や、夫の家用パーカー、そしてブランケットとリビングで使っている布団がこれに当たる。

これら全部がラグやソファーや椅子の上にポーンとなっていて、いきなり散らかる。

そして、掃除をする気が失せる。


家にある布、布、布が最近の私の悩みだ。

これは、多分北欧など寒すぎる地域にはない悩みかもしれない。

窓が二重窓であったり、家自体の断熱性が高く、暖炉やエアコンやオイルヒーターが常時ついていて、寒い地域の冬は意外と家の中は寒くない。

家の断熱性が高いから、暖房効果もよいしね。

だから屋外はかなり着込んでいるけど、家の中はセーターだけで半纏のような分厚い家用のコートは必要ない。

それで身軽に、活動的に、家の中を自由に動き回れる。

中途半端に寒すぎない地域の冬が寒い。

寒すぎない、雪は降るけど積もらない……程度の地域だから二重窓、二重ドアになっているところはほぼなく、最近の家は断熱効果が高い家が増えているようだけど、それ以外の家はそれほど……である。

だから、エアコンつけてもガスヒーターつけても家全体が温まることはなく、ドアを閉めて、なるべく暖房効果を上げて、今いる部屋だけを暖める。

それでも寒い家はこたつも付ける。

そうなるともう出られませんな。

いつの間にか足だけがあつーくなって、こたつから出るのだけどそしたら一瞬で冷えてまたいそいそとこたつに戻る。


あぁ。1年中適温で暮らしたい。

いっそ夏は北海道、冬は沖縄で暮らしたらどうだろう。

そういえば、8年ほど前に夫と二人でパタゴニアを旅したことがある。

パタゴニアというのは、南米の下の方の地域、つまりアルゼンチンとチリ両国の南側の地域だ。


パタゴニアの一番南、ウシュアイアという町は世界最南端の町で、「世界最果ての町」なんて呼び名もある。

私たちはいかなかったけれど、そこから南極に行くツアーもある。

それだけ南極に近い町だ。

パタゴニア地方は、そんな世界最果ての町以外にも氷河が崩れ落ちる瞬間が見られたり、野生のペンギンを見られたり、圧倒的な自然が残る旅人を魅了してやまない地域でもある。

私たちはアルゼンチンの首都ブエノスアイレスからウシュアイアへ向けて飛び立った。

行きは何も問題なかった。

無事私たちは到着し、クルーズ船に乗ってペンギン見たり、近郊の国立公園で氷河トレッキングを楽しんだり、数日間パタゴニアを満喫した。


問題は帰りだ。

空港に着き、搭乗手続きのためカウンターへ。

ところが、カウンターが長蛇の列なのだ。

私たちもいそいで並ぶ。だが一向に進む気配がない。

よく見ると、並んでいる人たちは大きすぎるスーツケースをいくつも持っている。

荷物が多いのは、家族連れが多い。

しかも話しているのは皆スペイン語で、海外からの観光客という感じがしない。

むしろ、私たちやほかの言語圏の外国人の方が荷物が少ないのだ。


パタゴニアは南米の南側。

大体12月から3月までの夏がベストシーズンで、観光客もその時期にドバっと来る。

逆に言えば、それ以外の時期は閑散としており、人がほぼ住んでない(らしい)。


私たちがパタゴニアへ行ったのは、2月末。

もうすぐ観光シーズンと呼ばれる夏も終わるころ。

この大量のスーツケースを持った人々は、夏の間パタゴニアでバカンスを過ごす人や夏の間パタゴニアで働く人だったのだろう。

数か月住むから、数日滞在する短期の客よりも格段にモノが多かったのだ。

とにもかくにも、大量のスーツケースでカウンターは大混雑。

先頭の人がカウンターの方ともめている間にも、刻一刻とフライトの時間は近づく。

え? あと30分だけど、もうあと15分しかないけど……とやきもきしながら、さすがにもう間に合わないんじゃないかと半ばあきらめながら。

ただただ長い列に並んで待つ。

結局当初の出発予定時刻には間に合わなかったのだけど、並んでいる人はみなその飛行機に乗る人ばかりなので、しっかり出発時刻を過ぎてブエノスアイレスへ向けて飛び立った。

あの時はまだ南米に到着したばかりで、乗り遅れるんじゃないか、乗り遅れたらどうしようとひやひやしたなぁ。

並んでいる間はひやひや、動かない列にイライラしていたけど、今考えてみると夏の間パタゴニアで過ごすというライフスタイルが単純にうらやましい。

私たちは、いろいろ技術を発展させて夏でも涼しく、冬でも温かい暮らしを手に入れたけど、生物としてみれば、過ごしやすい気候の地域に移動するのはごく自然なこと。

他には冬眠してゆっくり過ごすとかね。


人間だけ、真夏のうだるような暑さの時も、真冬の凍える寒さの時もあくせくしてる。

冬眠はできないけど、せめて夏の暑さか冬の寒さから逃げて、ゆったりと暮らしてみたいものだ。

夏の暑い数か月間避暑地で過ごす、冬の寒い数か月避寒地で過ごす。

日本では1か所に住むスタイルが定着しているし、長いバカンスもないからなかなかできないけれど、そういう暮らし方ができれば冷暖房のきいた部屋に閉じこもらず、活発に動ける時期が増えるのだろうなぁ。

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