第133話 巨大魚と尻






 巨大魚がメイケの尻に食いついた!


 その巨大魚はメイケの尻に食いついたまま水中へと逃げようとする。

 そこへ一本の槍が空を切って巨大魚へと飛んでいく。

 バリスタから槍が発射されたのだ。


 それがまさかの命中。


 槍はバスンと音を立てて巨大魚の背中を貫いた。

 すると巨大魚は体を捻じって暴れ出す。

 しかしメイケの尻はくわえたまま離さない。

 何と食い意地が張った魚だろうか。


 メイケは水中に潜らされたり出て来たりと苦しそうだ。


 水面付近で暴れる巨大魚に向かってさらに少女らが、至近距離からクロスボウを撃ち始める。

 放たれたボルトは次々に刺さり、巨大魚は力尽きたのか、最後はピクピクしながら水面に浮いてきた。

 もちろん口にはメイケの尻をくわえている。


 浮いてきた巨大魚は川の岩と岩の間に挟まって、何とか流れずに留まっている。

 しかし流れが急で誰もそこへはいけない。

 放って置くと巨大魚もろともメイケが川に流されてしまいそうだ。 

 距離はそれほど離れていないが、誰もが見ていることしか出来ない。


 ったく、しょうがねえな。


 俺は鎧を外しロープを手に取り走り出し、漁場の所から川へと飛び込んだ。

 もちろんメイケを助けるためだ。


 未だ渦でクルクルと回っているドラ猫を横目で見ながら、巨大魚が引っ掛かっている岩場へと泳いでいく。

 さすがに流れが急で、俺でも水中へと身体を持っていかれそうになる。

 この辺りは流れが入り組んでいて、危険だというのが実際に泳いでみて良く分かった。

 灰色ににごっていて底は見えないが、かなり水深はありそうだし、少なくとも足はつかない。

 

 巨大魚の所までなんとか泳ぎ着き、メイケの尻を巨大魚の口からなんとか外す。

 さすがに人間を飲み込めるほど口は大きくなかったようだ。

 おかげでメイケは飲み込まれずに済んだ。


「メイケ、俺の首につかまれ!」


 メイケは必死に俺にしがみつく。

 すると背中に何か柔らかい感触を感じる。

 その瞬間、「凄いな、メイケ」と驚きの感情が頭をぎる。

 これは数年もすれば凄い女に成長……そこまで考えたところで首を振ってその感情を振りほどく。

 今はそれどころじゃない!


 それと持って来たロープを巨大魚のエラから通して口に出してしばる。

 そして俺は岸へと泳ぎ出した。


「目が回るにゃ~~」


 再び野良猫を横目で見ながら岸へと向かう。


 岸へたどり着くと拍手で迎えられた。

 

「誰か、メイケの尻を見てやってくれ」


 声を掛けると直ぐにサリサ伍長が来てメイケを受け取る。

 メイケは地面にうつ伏せに寝かされたんだが、形の良い尻が丸出しだ。

 それも魚の口の形に合わせて尻が赤くなっている。

 痛いのか、メイケはずっと泣いている。

 

 ここは俺の出る幕じゃなさそうだ、メイケは少女らに任せよう。


 その時、ロー伍長らがいるバリスタ操作組のいる所から、大声で助けを呼ぶ声が聞こえた。


「オボレルー、タスケテ ボルフタイチョウ~」


 見れば川の浅瀬で寝転がっているアカサが見える。

 あいつ何やってんだ?


 そこへマクロン伍長が物凄い勢いで川へと入り、足首ほどの水深のところでアカサの頭を「バチーン」と引っ叩いたのが見えた。


 うん、問題はなさそうだ。

 俺は改めて近くの少女らに声を掛けた。


「誰か、巨大魚を引き上げるのを手伝ってくれ!」


 残った少女ら総出でロープを引っ張れば、槍が刺さった巨大魚が川から引き上げられていく。

 丸々太っていて、思った以上にデカいな。


 魚大魚が引き上がったところで、ラムラ伍長が俺のそばに来て言った。


「あの~、ミイニャはどうすんです?」


 忘れていた……


 見れば流されるわけでもなく、水の中へ沈むわけでもなく、今も渦の中で水面から首と両手を出し、「ふにゃ~」と言いながらひたすらクルクルと回転していた。


「そ、そうだな、助けてやれ」


 その後、体にロープを付けた少女が泳いで助けに行った。

 そしてやっとのことでミイニャ伍長を陸まで運んだところで、ロー伍長が大声で叫び始めた。


「敵の増援部隊が来たのじゃ~!」


 なんか忙しくなってきたな。


 俺達が漁を止めて、巨大魚をかついでバリスタの所に戻ると、確かに敵の増援らしい部隊が遠くに見えた。


 四百匹はいるんじゃないだろうか。

 二個中隊ってところか。

 その中にウォーワゴンも何基か見える。


 完全にロックヒルを破壊しに来た感じだ。

 

「ロー伍長、撤退する、急げ」


 これは一刻も早くロックヒルに戻って迎撃の準備を整えないといけない。

 敵の前哨基地を攻めるはずが、攻められることになるとは。

 

 俺達は早々に準備を終えて移動を始めた。

 そこでロー伍長に命令する。


「部隊を無事にロックヒルに戻して迎撃の準備を整えろ。それと鉱山砦にも連絡を入れてくれ」


 そう言うとロー伍長が不思議そうに尋ねてくる。


「了解なのじゃ。で、お主はどうするのじゃ?」


 そこで俺は当たり前の様に返答した。


「俺か? 俺はちょっとばかり敵の勢力を偵察してから行く。なあに、馬があるから捕まりはしないよ。すぐ戻るから後は頼むぞ」


「ちょ、ちょっと待たぬか、おいボルフ……」


 ロー伍長が何か言いかけたが、俺は構わず馬を走らせた。


 水飛沫みずしぶきを上げながら浅瀬を馬で渡り、反対の岸にたどり着くと、岩を避けながら河川敷を進む。


 しばらく行くと砦建設場所のゴブリンから石弓の攻撃が始まるも、俺は上手く有効射程外へと回り込んでほとんど命中はない。


 そして岩の無いところに出ると、早速馬を走らせた。


 ゴブリンの増援部隊も俺の姿を確認したようで、隊列の中からウルフ・ライダーが数匹飛び出した。

 馬の方が足は速いが、ゴブリン・ライダーはゴブリン兵の中でも精鋭。

 少しばかり厄介やっかいな連中だ。


 こうなってしまっては大きく迂回してはいられない。

 俺は方向を変え、近道を進む為に砦の建設部隊の真ん中へと突入した。








 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る