第29話 浮き草休憩
陽が沈みかけてきた。
もう少し待ってから池を泳いで渡ることになした。
せめて暗くなってからでないと発見されてしまうからだ。
しかし陽が沈んでくると、だんだんと周囲の温度も低くなってくる。
それにともない、徐々に俺達も肌寒くもなってきた。
何が辛いかって言えば尻が冷たい。
少女らも皆、尻ばかりを気にしている。
俺達はしゃがんだ状態なので、ちょうどケツに池の水が浸かる。
唯一男の俺は少女らとはちょっと違う。
尻よりも、真ん中の部分が水に浸かって
さっきから何度も水面から持ち上げている。
それを見たミイニャ伍長が余計な事を言ってきた。
「ボルフ曹長、何をいじってるんですにゃ?」
いじるって言うな。
「ああ、これはだな。そうだな、俺の大切なところが水に浸かって死にそうなんで、持ち上げてるんだよ。これが機能しなくなると男じゃなくなるんだ」
我ながら当たり障りのない素晴らしい説明だ。
しかし……
「た、大変にゃ。ボルフ曹長のがモゲちゃうにゃ。ポーション、ポーション塗るにゃ。だから早く診せるにゃ」
するとメイケが泣きそうな顔で俺の股間を見てくる。
気が付けば少女らの視線が俺の股間に集中してやがる。
こいつら、危険!
「見せれる訳がないだろ。こら、手を伸ばしてくるな」
すると他の少女らまで騒ぎ出す。
「……モゲる?」
「ボルフ曹長が女の子になっちゃう~」
「あれ、そうしたら私らの仲間だよね?」
「うんうん、そうなるよね。そしたら女の子だけの部隊だよ」
「なら、モイじゃうにゃ」
こいつら……
俺が怒りを爆発させようとした時だった。
「ギギャー」
「くそ、見つかった。逃げるぞ、泳げ!」
池に飛び込む。
水が冷たい!
ゴブリン兵が弓を射ってくるが、俺達の姿は確認してないのか、矢は頭上を通り過ぎていくだけだ。
すべての矢は明後日の方向へと飛んでいく。
池は意外と浅いようで、岸から数十メートル近く来たが俺は足が底に付く。
背が低い少女らはそうもいかないようなので、俺に掴まらせている。
さすがに荷物を背負ったままの泳ぎは苦しそうだ。
その点ミイニャ伍長とラムラ伍長は泳ぎが上手い。
だけどメイケはやはり運動音痴っぽく、泳ぎもあまり上手くない。
交代で俺に掴まらせるようにしているのだが、それでもメイケひとりが苦しそうだ。
剣などの重い荷物は俺が持っていてこれだ。
「メイケ、無理なら無理って言えよ?」
そうは言っても、メイケも自分一人だけが
掴まる順番を守ろうとする。
「だ、だい…じょうぶ……うっぷ、ゴボ、ゴボッ」
言ってるそばからメイケが池に沈んでいく。
俺はメイケのバックパックを引っ張り上げる。
「ハフ、ウップ、ヒ~ッ」
メイケは顔を水面から出すと、大慌てで俺の腕にしがみつく。
それを見ていたアカサが急に真似をする。
「タスケテ、オボレチャウ。ウキャ」
そう言ってアカサはメイケとは反対側の俺の腕にしがみついてきた。
こいつめ、
俺はアカサの頭を上から押さえつけて水に沈めてやった。
「オボ、オボボボボボ――ぷはっ。ご、ごめんさい、ごめんなさい」
そんな事をしてると、遂に俺も足が付かなくなってきた。
岸の方向へ行くか悩むが、ゴブリン兵が待ち構えている可能性もある。
さっき狙われたばかりだ。
人族とバレていたら間違いなく池を取り囲んでいるはず。
だが長時間冷たい水に浸かっているのはまずい。
そのうち凍える。
どこか休める場所が欲しい。
すると池の中央に沢山の浮草が目につく。
せめてあそこに掴まって休むか。
荷物位なら置けそうだ。
そう思って浮草の群生地点へと
もしかしたら乗れるんじゃないか?
一番軽そうなメイケを持ち上げて乗せてみたところ、余裕でその体重を支えている。
それならと少女らを一人ずつ乗せていく。
浮草は群生しているすべてがツルでつながっていて、五人の少女がのったところで全く沈む様子がない。
それならと俺も浮草に上陸した。
「すげーな、この浮草。全員が乗ってもまだ余裕がありそうだぞ」
余裕で大丈夫だった。
おかげで休める。
しかし寒くなってきたな。
塗れた服を脱ごうと思って気が付いた。
こいつらは俺の目の前じゃ服を脱げないよな。
だが、濡れた服を脱がないと体温を奪われる。
困ったぞ。
悩んでいると、メイケが浮草の水面から出ている部分の葉っぱを取って来た。
広げると結構な大きさになる。
それを器用に折り曲げたり、ナイフで切ったりして服のようなものを作ってしまった。
メイケはさすが職人の子だ。運動は音痴だが手先は器用。
良し、これで着替えの心配はなくなったな。
とは言っても、身体の前と後ろを葉っぱで隠せると言うだけのしろもの。
紐で腰を縛れば服らしくはなるが、横から見ると少女らの何とも
メイケとアカサが恥ずかしそうにするから、余計に気になって目のやりどころに困る。
性格は地味なのに身体は凄いんだな、メイケ。
服が乾くまでの
これで火を起こせれば言う事ないんだが、そればっかりはバレるからできない。
それぞれが作った葉っぱの服に身を包み、浮草の上で交代で仮眠をとった。
そして朝日が昇る前に、再び池の中へと身を投じる。
明るくなってからだと敵に発見されてしまう。
ちょっと寒いがここは我慢して泳ぐ。
乾かした服は頭の上だ。
凍えそうになりながらも、なんとか反対岸まで泳ぎ着く。
助かった、敵はいないようだ。
泳いで体を動かしたからだろうか、葉っぱの服は破けている。
ふと見れば、少女らの葉っぱも破けていて恥ずかしそうにしている。
が、一匹だけ堂々としている。
「ミイニャ、少しは隠せ」
「しょうがにゃいにゃ。服に着替えるにゃ。ボルフ曹長が興奮しちゃうにゃ」
興奮じゃない、怒ってんだよ!
水から上がると誰もが寒さに震えていた。
乾いた砂の上で転がって池の水を落とし、砂だらけのまま服を着る。
獣人のサリサとミイニャは体をブルブルと何度か震わせるだけで水滴を吹き飛ばしている。
便利な機能だな。
丸見えだけどな。
ここで火を焚きたいがそれはまだだ。
まずは敵から離れないといけないし、偵察情報を早く届けたい。
「皆、休みたいとは思うが少し我慢してくれ。一刻も早く敵の情報を味方に伝えないといけない。夕べの感じだと、近いうちに敵の攻勢が始まる。急ぐぞ」
俺の言葉に少女らは死んだ魚の目のまま立ち上がり、バックパックを背負い始める。
準備出来たところで出発だ。
浮遊霊のように歩き出す少女達。
皆、疲れ切っている。
出発してしばらくすると。一人いつもと変わらない様子のミイニャ伍長が何かを察知した。
「にゃにかいるにゃ。100mほど先に……お爺ちゃんみたいのが木に寄りかかって座ってるにゃ」
俺の目には薄暗くて見えないんだが、ミイニャ伍長には見えるようだ。
さらにミイニャが報告する。
「あ、小っちゃいゴブリン兵もいるにゃ。うわあ、凄く小っちゃいにゃ」
俺は思い浮かぶことがあり言った。
「ミイニャ伍長、もしかしてその爺さんは腰巻しかつけてないとかか?」
「うん、そういえばそうにゃ」
「それってゴブリンが小さいんじゃなくて、爺さんがデカいのと違うか?」
「んん? あ、本当にゃ。木と比べるとお爺ちゃんが凄く大きいにゃ!」
巨人族に間違いない。
奴らに合う服などないから腰巻だけで生活する。
どうやらゴブリン共は巨人族の傭兵を雇ったみたいだ。
「ミイニャ伍長、爺さんは全部で何人いるか分かるか」
「そうにゃね、ん~、二人しか見えないにゃ。うん、二人だにゃ」
巨人族が二人にウォーワゴンが見えただけでも4両あった。
それとゴブリン歩兵が大隊規模かそれ以上だ。
これは一個連隊の敵といっても良い規模だ。
それにここ以外にも集結しているかもしれない。
ますますグズグズしていられない。
だが逃走経路と思っていた方向には巨人がいる。
くそ、遠回りするしかない。
気づかれない為にも大きく迂回しないといけなくなった。
「よし、迂回しよう。ついて来い」
だが、その迂回した先にも敵はいた。
ゴブリンの弓部隊と歩兵部隊だ。
これで逃げ道を塞がれた。
これは大規模な戦が始まる。
ここまで大規模な攻勢は数年に一度。
そんな真っただ中に孤立するのは非常にまずい。
ただ、俺達が今できることと言えば、敵に見つからない様に隠れることだけだ。
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