第15話

食事が終わり、風呂でメイクを落とそうとソワソワしていたら、なぜかタクヤと一緒に入浴することになった。広い浴室は男二人でも十分すぎるくらいスペースがある。しかし、なぜわざわざ男同士で風呂なのか。

「メイク、落とすぞ。いいな?」

「あー、うん…やっぱ、男、だよな」

先に湯船に浸かったタクヤはじっとレイを見ていた。レイはタクヤの視線に構わずメイクを落としていく。すぐさま化粧水をつけて美容液で抑え込んだ。レイにも手を出せるくらい安価だが質がいいとマリアに教えてもらった品だ。復帰ステージまでに少しでも自分の体を仕上げておきたい。そのために、できることはなんでもやろうと思っていた。全身を洗ってレイも湯船に浸かる。タクヤは銭湯ごっこでもしたいのだろうか。広いとはいえ二人で入る湯船は窮屈だった。仕方なくレイは小さくなって膝を抱える。今日は午前中にダンスレッスンをしてからマリアのところでメイクを教えてもらった。タクヤに比べたら大したことはないスケジュールだが、最近はほぼこの部屋に引きこもっているレイにとって、とても多忙な1日だった。温かい湯の中で顎を膝に乗せてウトウトと目を瞑る。眠気が襲ってきた。

「おい、風呂で寝んなよ。上がるぞ」

「う…ん…」

タクヤに引き上げられてレイは目を覚ました。レイはのたのたと着替えを済ませる。あくびが我慢できないレイはそのまま自室へ向かおうとしたが、タクヤに止められてしまった。

「こっち。俺の部屋、来い」

「なに?なんで…」

半分寝ているレイはタクヤに腕を引かれてタクヤの部屋に連れ込まれ、ベッドに引き倒された。何度か入ったことはあるが、ベッドに上がったのは初めてだ。

「なんでか、わかんだろ」

レイが眠そうだから布団に連れてきてくれたのだろう。なぜタクヤのベッドなのかわからないが、そんなことよりレイは衝撃を受けていた。

(なんて、フカフカなベッドなんだ…!)

レイの部屋にはタクヤの事務所が用意してくれた布団がある。寝心地の良い布団だが、タクヤのベッドはそれ以上だった。さすが今売出し中のアイドルグループのセンターだ。こんなところまで優遇されているのか。レイは体勢を変えてうつ伏せになり、ベッドに顔をつける。タクヤがのしかかってきて重たくて不快だったが、それどころではなくてうっとりと声をあげた。

「すごい…きもち、い、ぃ…」

「まだなんもしてねぇよ…あれ?おい。おーい」

タクヤに体を揺すられて何度も呼ばれたが、レイは無視して眠りについた。


あれからレイは毎日タクヤのベッドで寝るようになった。タクヤのベッドは高級寝具らしい。ベッドに横たわると爆速で眠れた。

「レイ、もう少し起きてろよ。すぐ終わらすから。今日こそ…おい、おいって…またかよ!毎晩毎晩ベッド入ってきて、誘ってんじゃねーのかよ!拷問か!!」

タクヤの叫びが遠くで聞こえたが、夢なのか現実なのか、レイにはわからなかった。毎回翌朝のタクヤが不機嫌な理由もよくわからなかった。が、数日経って、もしや自分がタクヤの睡眠を邪魔しているのではないかと気づいた。広いベッドだが、確かに男二人では窮屈だろう。さすがに毎日は申し訳ないかと思い自室に行こうとすると、タクヤはレイの腕をとってタクヤのベッドに引きずり込んだ。益々意味がわからなかったが、爆速で寝た。タクヤのベッドはレイの寝床になった。


今日はタクヤの帰りが遅いので、レイは早めに夕食を終えた。モニターに映像を映して動きを確認する。しばらく胃を休ませたあと、今日のダンスレッスンで先生の動きと自分の動きを実際に踊りながら比較した。大した動きではないのだが、踊りながら歌うと体力の消耗が半端ではない。そしてこの引きこもり生活がだいぶ響いてしまっている。体力がないせいで踊りは疎かになるし、踊りに集中すると声がでない。

「それ、復帰ステージのやつ?」

気づくとタクヤが帰ってきていた。着替えも済ませたタクヤは自分で夕食を食卓に並べていた。

「あ…すまない、気づかなかった」

「いい、いい。自分でやる。飯、ありがとな。気にしねぇで続き、どうぞ」

レイは頷いて、ダンスを続けた。さすがに大声で歌うことはできないが、歌と動きを合わせて頭に入れていく。何度も巻き戻しながら踊り続けて、レイは床にへたりこんだ。

「スタミナねぇな~」

「引きこもって、たから、」

「あのさ、この『大好き~』ってとこ、振りが違う。動き、こうだろ」

ぜいぜいと呼吸を繰り返すレイに、タクヤは目の前で一節踊って見せてくれた。映像を少し見ただけで、振りが頭に入ったようだ。目の前で見て、レイはやっとどうやって体を動かすのかわかった。

「こ、こう?」

「そうそう。映像だと平面でわかりづらいんだろうな。最初からやってやるよ」

タクヤは時々モニターに目を向けつつ、レイに向かって丸々一曲踊りきった。普段のキレのあるダンスからは想像できないような可愛らしいダンスと、最後のポーズは本当に可愛くて、少女のように見えた。ツインズは表向き女子アイドルなので、甘め女子を意識した可愛らしい曲や振りが多い。タクヤは動きだけできちんと女の子を表現していた。レイは拍手を送った。

「すごい…本当に、すごい。すぐ覚えて、可愛かった」

「かわっ…ありがとよ。あとな、この先生には悪いけど、中盤の片手出すとこ。手のひらを下に向けた方がいい。『お願い~』のとこ」

「えと…こうか?」

「そうそう。そんで腰、少し回す感じで」

タクヤがレイの腰に手を添えて動かす。レイは集中して動きを覚えた。

「『お願い、もっと、たくさん愛して』…?」

「歌は声、抑え気味で。その方がお前っぽくてエロい。もっかい、こっち向いてやってみな」

タクヤはカーテンを開ける。キラキラ輝く夜景の中に、レイの姿が写っていた。鏡代わりに夜景に向かって手を伸ばす。

「『お願い、もっと、たくさん愛して』」

「…エっロ。けしからんな、これ。でもパフォーマンスとしては100点だわ。えぇ~どうする、これ…」

「すごく、歌に合ってる。こっちでいく」

エロいかどうかはともかく、夜景に写る自分は本当に恋い焦がれている少女のようだった。タクヤのアドバイスで、踊りも歌もとんでもなく良くなった。表情も意識してもう一度、タクヤに向けてレイは踊った。

「『お願い、もっと、たくさん愛して』」

「…お前さ、ほんと、わざとやってんの?」

タクヤは顔を覆ってしゃがみこんでしまった。さっきよりももっと良くなったと思ったのだが、タクヤの反応を見る限り、良くないようだ。レイは慌ててタクヤのそばに同じようにしゃがみ込む。

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