第6話 sideマイ

sideマイ



謹慎中であり、高校は行かなくても良い日が増えた。マイは暇だった。友人たちは受験で忙しく、何か謹慎中でもできることはないかと、とりあえず女装をして一人街に繰り出してみた。ツインズに活かすために女装とメイクの練習のつもりだったが失敗だったようだ。さすがに面と向かって指をさす人はいないものの、すれ違う人がみなチラチラとマイを見ている。

マイは先日の最後のライブを思い出す。みんなマイの女装の公表を驚いていなかった。反対に、レイは最後まで本当に男なのかと疑われていた。線が細く綺麗な顔立ちのレイは、メイクをしてカツラを被ると女の子にしか見えなくなる。よく見ると細い手足は骨っぽくて節々は男らしい作りだが、それすらも色っぽく見えてしまうのだ。マイはレイの普段の姿を見慣れているが、普段の男の姿でも女子と間違われたりしている。

レイとはあれから会えていない。社長の話だと色々あってタクヤの事務所がレイを預かっているらしい。詳しいところは教えてもらえなかった。

レイとはツインズの今後についてもっと話がしたかった。

マイは謹慎が明けたら女装姿で、ツインズとしてステージに上がるつもりだ。少しでも長くツインズとして活動できるよう、メイクや女装の練習に力を入れようと思っていた。

が、今は視線が痛かった。特に目的があったわけではないので帰ろうと思った時。

「あら。可愛いお嬢さんね」

目の前に背の高い大柄なお姉さんがいた。お姉さんはマイに微笑んでから通り過ぎていく。声も顔もどう見ても男だ。しかし派手めのメイクもあえて体のラインに沿った服もとても似合っている。お姉さんが遠ざかっていく。気がつけばマイはお姉さんの腕を掴んでいた。

「あのっ!お時間ありませんか!?」

叫んだマイにお姉さんは驚いたものの立ち止まってくれた。

「…いいわよ。そうね、そこの喫茶店なんてどうかしら」

お姉さんが指さしたのはレトロな雰囲気の喫茶店だった。マイは頷いて、お姉さんと二人入店した。



「驚いたわぁ。あんなに堂々としたナンパなんて初めて」

「す、すみません、突然呼び止めて」

まだ女子にナンパをしたこともないのに、女装のお姉さんに声をかけてしまった。しかも成功してしまった。

「いいのよ、あとは帰るだけだったから。あんまり可愛いからついてきちゃったわ。で、あなたもお仲間かしら?」

お姉さんはニコニコ笑っている。お仲間、とはなんだろうか。

よく見ると、いや、よく見なくてもお姉さんはマイよりも大きい。体に沿ったワンピースで体のラインがよくわかる。胸筋が大きい。二の腕もガッシリしている。体はどう見ても男性だ。それなのにお姉さんは柔和で女性らしい雰囲気をまとっている。

「俺アイドルなんです、女装の。女装の練習のためにこの格好で出てきたんすけど…お姉さんの女装が上手で、お話し聞きたくて」

「女装のアイドルって…もしかして、タクヤと噂の?」

「あ、それは俺の相方です。二人でコンビ組んでやってて」

女装を公表したあれから、なぜかレイとタクヤは男同士だが熱愛中という噂に変わっていった。ネットは加熱して、勝手に盛り上がっている。

レイから事務所でタクヤとの出会いを聞いた。あのあとネット番組で会ったのが2回目でしかもまったくの偶然だ。熱愛もクソもあったもんじゃないが、真実を知らない人間には関係ないのだろう。

「今は謹慎中なんですけど、謹慎明けたら相方と、もう一度アイドルやりたいんす。少しでも女装が違和感ないようにしたいと思って…ファンが、待ってるんです。お姉さんに、女装を教えていただけたらと、思うのですが…」

マイは話していて語尾がしぼんでしまった。初対面の人に、何をお願いしているのか。お姉さんが女装が上手だと思ってのお願いだったが、女装が上手、は褒め言葉だろうか。逆に失礼じゃないか。チラリとお姉さんを見上げると、お姉さんは頬を染めて笑った。ニッコリ、とも違う。表現し難い表情だ。

「どうしましょ…可愛い子だとは思ったけど、中身もこんなに可愛いだなんて…」

「お、お姉さん?」

「いいわ。マイちゃん、よね?私のことはマリアって呼んで頂戴。このあと時間ある?アタシのお店に行きましょ。手取り足取り教えてあ、げ、る♡」

「え?あ、そうっす、マイです。時間もあるっす…えっ」

マイは腕を取られて喫茶店を出た。マイはまだ名乗っていない。しかし、お姉さんは名前を知っていた。もしかしてやばい人だっただろうか。気づいたときにはもう遅かった。マリアに取られた腕はびくともしなかった。




「ただいまぁ~」

マリアが元気よく挨拶して入ったのは駅の側にある大きなビルの一室だった。大きな鏡と可動式の椅子が3つずつ並び、影に隠れてシャンプー台が置いてある。美容室のようだ。

「おかえりなさぁい。さっき明日のメイクの件で連絡が…あれ、お客さんですかぁ?」

受付の女性がマリアとマイに駆け寄ってきた。女性、で良いのだろうか。女性にしては若干ガタイが良い気がする。

「ユキちゃんただいまぁ♡明日の件は後で折り返すわ。それより見て、この子!すっごい男の娘じゃない!?」

「やぁだ、すっごいいい体!めちゃくちゃ男~♡好み~♡」

マリアとユキと呼ばれたお姉さんは、マイを囲んで爆笑していた。やはりユキは男性のようだ。マリアとユキはマイよりも身長が高くがっしりしている。マイはそこそこ身長があり、モテたくて鍛えている。そんなマイよりも、二人は男らしい体つきだった。それなのに二人共女性よりも女性らしく見える。どんな魔法を使っているのか。マイは興味深く二人を見つめた。視線に気づいたマリアはにっこりと微笑む。

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