好きな娘が男装女子でした。

七星北斗(化物)

1.春変わりやすい季節

 端正な顔立ちの少女、男性か女性なのかわからない。中性的な容姿をしている。


 初恋は男装女子でした。


 周南錦戸高校一年、入学式を済ませ。クラス分けで、一年B組の教室に入る。


 自己紹介が始まり、窓側の席だったので、春の陽気に当てられてうとうとしていた。


 …眠い。


 タラタラとした紹介文が耳に入ってくるのが、尚更眠くなる。


 窓の外からサッと風が吹いた。前の席の男子の綺麗な髪が揺れた。


 鼻腔をくすぐる、甘いシャンプーの匂いがする。


 あれは、誰だろう?


 カッコいいと可愛いの中間のような、男子の制服を着ているから、男なのだろう。


 しかし「綺麗」だな。そんなことを考えていると、私の番になる。


 眠くて、この男の子の名前を聞いていなかったな。惜しいことをした。


 次は、私の自己紹介の番か。


 立ち上がり前髪をかき上げて、隠れたおでこがあらわになる。


「初めまして、私の名前は、話咲望(はなさきのぞむ)。写真を撮るのが好きで「カメラは、何があっても手離せないが」座右の銘です」


「変わってるー」


「学校には、許可無しに持ってくるなよ」


 担任の林先生が言うと、クラスで笑いの声が上がった。


「夢は、プロのカメラマンになること。三年間よろしくお願いします」


 声のトーンで冗談ではなく、本気で夢を追いかけていることがわかり。


 笑い声は、一瞬で静けさを取り戻した。


 これから三年間、私の物語が始まる。


 ってちょっとカッコつけすぎたかな。まさかの高校生デビュー失敗?


 今更ながら、ちょっとばかし恥ずかしくなった。


「君、ちょっとカッコ良かったよ」


 前の席のあの男子が振り返り、そんなことを言ったのだから。


「あ…りがっとごじゃいます」


 私は顔を赤くして、返事もカミカミになってしまい。


 そんな私を見て、クスっと笑った男子の顔が印象的で、女性のような柔らかさのある優しい顔。


 自己紹介の次は、教科書を配られ、その厚さにビビる。


 国語辞典かよっ、と突っ込みたくなってしまう。


 今日は、午前中で帰れるので、一旦家に帰り。春を探しに行こうかな。


 通学路を歩いて、ふと考える。うちの学校って写真部あったっけ?


 今日も、学校へカメラを持っていきたい衝動に襲われ、何とか押し止めることができた。


 学校にカメラを持ち込める口実を作るには、それしかないのだから。


 明日、林先生に聞いてみよ。


「ただいまー」


「お帰りなさい」


 母は、いつも通り、副職の仕事をしていた。


「行ってきます」


 帰ってきて、着替えて、即出掛ける。


「ちょっと待ちなさい。出掛けるなら、ついでに卵買ってきて」


 しかしその声は、望には届かなかった。

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好きな娘が男装女子でした。 七星北斗(化物) @sitiseihokuto

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