第2話 ラノベキャラへ転生
新田一は両親が死んで親戚に引き取られた。その親戚も交通事故で死んだ。
そしておばあちゃんの家に引き取られた。高校生になってからおばあちゃんは老衰で死に、新田一はおばあちゃんの家で一人暮らしをするようになった。
めちゃくちゃ勉強はできるのに彼女は大学に進学する気はなかった。
おばあちゃんが残してくれたごくわずかなお金しかなかったのだ。
そんな背景があるのに、全然辛気臭くないというか、もっと言えば可愛らしさみたいなモノまであった。
彼女はたまにメガネを忘れた。
ずっとメガネってかけているモノなのに忘れるものなのか?
彼女は見える子ちゃんだった。
見える子ちゃん、というのは人には見えないはずの怪異が見えてしまう子のことである。
一人暮らしをしていると家の中で怪異が見えてしまう。
ハッキリとは見えないけど何となく見えてしまうのだ。それが怖くて家の中ではメガネを外して生活をしていた。
メガネを外せば怪異は見えなくなる。
見たくないからメガネをかけずに生活をしていた。
だからメガネを忘れる事があったのだ。
名探偵であり、この物語の語り部である山本世界観の隣の席が新田一だった。メガネを忘れた回は目が見えないせいで物理的に2人の距離が縮んだ。
新田一はヒロイン枠である。
だけど決してメインヒロインの魔法少女ナノに勝つ事ができない。
いわいる負けヒロインというヤツだった。
新田一は自分には何か良くないモノがついているのではないか? と悩んでいた。自分のせいで両親は死に、親戚は死に、おばあちゃんが死んだのだ。そう彼女は思っていた。
そして山本世界観と本田ナノが霊媒をしている噂を聞きつけて、隣の席の山本世界観に相談することにした。
結果は悪いモノはついていなかった。
両親の死、と書かれると2人とも同時に死んだと思われるかもしれないけど、そうではなかった。
父親は警察官で新田一が赤ちゃんの時に殉職していた。母親は病気によるモノだった。
母親が死ぬまでに
だから娘が大学に行くまでの費用を準備していた。準備というよりも夫が殉職で死んだので、それなりの保険もおりていたし、母親自身も保険をかけていた。だから娘が大学に行くまでの費用は用意できた。
だけど娘はまだ子どもで大金を渡す事ができない。
大学までの費用は自分の母親に預けていた。
年月が経ち、おばあちゃんはボケて、お金の場所を忘れてしまっていた。
その場所を教えるために母親が幽霊になって現れていたのだ。
それを山本世界観は話を聞いただけで推理してしまう。
そんな回があり、徐々に新田一は探偵役の山本世界観に惹かれていく。彼の推理をしている現場に何度か立ち会ったり、本田ナノが怪異を倒す現場に何度か立ち会ったりする。
そして『魔法少女ナノ』の8巻である。
新田一が透明人間になってしまう回がある。
彼女は自分が山本世界観の事が好きである、という事を自覚する。
だけど彼女はその思いを伝えようとはしなかった。
ずっと胸の中に秘めていこう、と思っていた。
そんなイジらしい新田さんがぼくは好きだった。
山本世界観と本田ナノは幼馴染である。
本田ナノは山本世界観の事が好きだった。そのことに新田一は気づいていた。
だから自分は身を引こう、と思っていたのだ。
そして学校の帰り道に新田一は2人がキスをしているのを目撃してしまうのだ。
山本世界観への思いは胸に秘めておこうと思っていたのに、自分の思いは隠しておこうと思っていたのに、2人のラブシーンを見せつけられて彼女は走り出す。
新田一は家に帰っても1人だった。
この世界に自分の事を見ていてくれる人はいなかった。
この世界に自分の事を求めてくれる人はいなかった。
彼女は消えてしまいたい、と思ったのだ。
そして彼女は透明人間の少年に魅せられた。
彼女にしか見えない少年。
その事を知らずに新田一は道に倒れていた少年に声をかけてしまった。
そして少年は新田一と共に消えてしまうのだ。
彼女が消えてしまった事で存在までも消えてしまう。
みんな新田一の事を忘れてしまうのだ。
山本世界観も本田ナノも、新田一の事を忘れてしまう。
このクラスに委員長という役職がいない事に山本世界観と同じクラスの親友が気づいて8巻は終わる。
8巻では透明人間の解決編までは収録されていなかった。
9巻には新田一という女の子がいたことを山本世界観が推理していくのだろう。
早く新刊が読みたくて読みたくて仕方がなかった。
ぼくの推しが消えたところで最新刊が終わってしまったのだ。
だけど新刊が出ることはなかった。
作者のあばずれピンク頭先生が8巻を書き終えた後に病死してしまったのだ。
別の作家が代わりに書く、という噂もあった。
だけど2年ほど待っても新刊は出ていない。
ぼくが中1の時に『魔法少女ナノ』は刊行が開始された。気づけばぼくも主人公達と同じ高校三年になっていた。
新田一を取り戻してほしい。誰でもいいから続きを書いて新田一を復活させてほしい。
彼女が消滅しっぱなしのままなのが嫌だった。
誰にも見られていない、と新田一は思っていた。
誰にも求められていない、と新田一は思っていた。
自分の存在なんて無に等しい、と新田一は思っていた。
だけどぼくにとっては人生で初めて好きになったキャラクターだった。
彼女のイジらしいところ。
彼女の影で努力しているところ。
彼女の弱音を見せないところ。
たまにメガネを忘れるドジっ子なところ。
全てが好きだった。
新田一が消滅して2度と蘇らないと思うと胸が痛くなった。
あばずれピンク頭先生が蘇って、続きを書いてほしいとぼくは願う。
だけどぼくの願いは叶わない。
新田一が消滅してから、ずっと失恋したような胸の痛みを抱えていた。
それでも今日も学校に行かなければいけない。
通学路をぼくは自転車で走った。
その時、トラックがぼくに突っ込んで来た。
体の痛みを感じて、世界が真っ暗闇に包まれた。
生まれ変わったら好きなラノベの世界に転生して推しのヒロインを救いたい、とぼくは願った。
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